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5 マリエルの病・・・・本当に病?

皆さんは食中毒にかかったことはありますか?私は解らないんですよね。年中お腹を下してるもんですから、何を食べてもあたった気がしないんですよ。逆に最強みたいな。はい。




「・・・・大丈夫ですか?」


立ちあがる時にすこしふらついたマリエルを見て、心配そうに尋ねるファル。それを見て、レアルも頷いてる。


「ええ。これからの事を思うと、少しふらっと来ただけです。」

「ティーゼさん、ルディくん。ちょっと外行っててくれないかい?」

「はい」

「・・・・はい」


ティーゼからの返答が遅かったが、問題ないようだ。ゆっくりと外に出ていく二人。そのまま数秒待つ。もういいだろうと話を始めようとする二人。


「じゃあ、お話を聞きましょう。で、どうですか?最近のご容体は」

「聞いたんですか?私の病気の事」

「ええ。なんでこんな危ないことしたのか、ってね」

「私の、ためだったんですね」

「ええ、そうですよ。いいお子さんを持ちましたね。まさか、母親の為に自分の命を捨てようとは」

「・・・・ッ!」

「で、なんですがね」

「はい?」

「あなた、その薬は服用してるんですか?」

「まぁ、はい。安く手に入るので・・・・」

「ふぅむ。それはどなたから?」

「商人の方です。名前は知りませんが」

「どこから来ていると?」

「確か、ここから西の国・・・・」

「なるほど。大体、状況はつかめました。レアル、キミはどう思う?」

「間違いないですね。今までの人と症状が一致してます」

「だよなあ。」


大賢者は、心底面倒くさそうにため息をつく。もちろん、ファルとレアルにしか状況はつかめていないわけで、このマリエルさんは不思議そうな、不安そうな顔でこちらの様子をうかがっている。


「・・・・あの、どうかされたんですか」

「それがねえ・・・・。どこから話せばいいか。私たちは五年ほど世界を旅していてですね。それで、色々な村や町を訪ねたんです。ですが、そのような病気、見たことも聞いたこともない。ですが、西からこちらへ向かってくるとき、多くの町や村で、同じ症状を見かけたんです」

「じゃあ、流行り病」

「と、私たちもそう思ったんですがねえ。どうも違うみたいなんです。なんの兆候も前触れもなく、突如めまいや麻痺、咳や吐血に襲われると。これでも、大賢者ですからねえ。人々を助けようと、原因を調査してみたんです。しかし、病気にかかったのは、様々な人でした。元気だったり、病気だったり、人当たりのいい人だったり、短気な人だったり」


この話が、いったい何の関係があるのか。マリエルには、これっぽちも理解できなかった。しかし、マリエルには止めることができなかった。なぜなら、大賢者の言う症状が、自分の経験しているそれと全く同じだったからだ。もしかしたら、医者か暗殺者がこの場に居れば、ピンときたかもしれない。「ああ、アレね!」なんて言う風に。


「なんの共通性も見つからなかったんです。大賢者様と僕は、必死で探し回りました。一見関係のないことまで。良く通っている酒場や、人間関係や、好物まで。そして、ある共通点を見つけた。」

「そう。その共通点とは、何かしらの理由をつけられて、ある薬を売られていたんですよ。『健康に良い薬だよ。最近、流行り病があったりして、大変だから。これ、良かったら安くしとくよ』なんて言う風にねえ」

「そんな・・・・!」


大賢者の言う話が信じられないようで、膝から崩れ落ちてしまう。いや、これならば、説明がついてしまうと悟ったのだろう。だからこそ、信じたくなくて崩れ落ちてしまった。


「そして、まだいに残っているその薬を提供させていただきました。許可を得て、ね」

「うぷっ」


その時の事を思い出したのか、レアルは戻ってきそうな昨夜の晩飯を、必死に押しとどめている。


「それをちょいちょいと調べてみた結果、ビックリしましたよ。コロモヒガンダケ。この植物自体には何の有害性もないんですがねえ。このキノコの中に入ってる生き物がやばいんですよ。なにせ、人の体内に入った虫・・・・ああ、ヒガンワタラセムシというんですけどね、それが胃や腸、食道で暴れまわり、出血、嘔吐、発熱、咳、めまい、頭痛、麻痺、痙攣などを引き起こすんですよ。まあ、分かりやすく言うと寄生虫ですよねえ」

「寄生虫・・・・」


信じられないというように、大賢者の言葉を繰り返すマリエル。あのニコニコした人のよさそうな商人が売りつけてきたのが、まさか寄生虫だったとは信じられないのだろう。


「はい。あの丸薬の中には、生きたヒガンワタラセムシが入ってたんです。いや、入れられていたんです」

「ビックリですよねえ。それだけじゃありません。それを、病と偽って、渡された薬。そちらは、ヒイロヒスリトミン・・・・ヒガンワタラセムシの活性剤が使われていたんですよねえ。まぁ、活性剤という名の猛毒。こっちは人体に影響はないんですが、ヒガンワタラセムシにとっては猛毒なんです。そして、体内でさらに暴れまわる。まるで、症状が段々と進行してしまっているかのような・・・・錯覚を与えてね。で、やがて死に至る。完全犯罪ってわけですねえ」

「そんな・・・・治療法はないんですか!?」


まるで、この世のすべてに絶望したかのような表情を浮かべるマリエルであった。それはそうだ。何しろ、症状が悪化していたのは、今まで服用していた薬のせいで、このままだと症状が悪化したのちに死んでしまうと言われているのだから。


「治療法?なんのですか」

「き、寄生虫の・・・・」

「どうやってですか?」

「く、薬とかあるでしょう!?なんか、無いんですか!?」

「・・・・薬に入っていたんですよ?寄生虫も、毒も。こんな、自称大賢者の怪しい男から渡された薬を、信用できるんですか?」

「それは・・・・」

「冗談です。私があなたを殺す意味がありませんからね。この町に住みたいと思っているわけですし。テストさせていただきました。あなたが、どれだけ警戒心が強いのかを。まあ、言ってしまった後なのでどうしようもないのですが。」


自分たちの秘密を、周りにうかつにしゃべらないか。警戒心はあるのか。ということを確かめるため、警戒心のテストをしたのだという。しかし、ルディの目からすれば、それは言い訳で、ただ悪戯をしたかっただけだというように映るのだろう。


「これが、特効薬です。ヒガンワタラセムシを仮死状態にする薬・・・・そして、こっちがヒスリトミン濃縮版です。テキトーなネーミングですが、これくらいしか思いつかなくて。仮死状態にさせる薬は今飲んじゃってください。ヒストリミン濃縮は今日の昼食後にでも」

「あの・・・・お金」

「ああ、代金は一切いりません。これも、同じ町に住む縁です」

「え?いや、でもさすがに」

「いえ、元値が安いんで」


これも、本当の事だ。どういうことかというと、この薬は山で大量に拾ってきたものだからだ。原価はゼロだ。つまり、拾ってきたものはただで手に入れたわけだから、お代はいらない。というわけだ。


「さすがに悪いです」

「だいじょ――――――――」

「まぁ、まちなさいレアルくん。お代はちゃんともらいます。」

「・・・・ええ、払える範囲でなら」


一体いくら吹っ掛けられるかと動機が早くなるマリエルさん。今更ながらに、タダという厚意に甘えておけばよかったと後悔する。相手は、吹雪がやんで、まだ積雪しているのに、うっすいローブだけ着ているやばそうなおっさんだ。おまけに、顔面もするどい目に鼻唇溝の左右と下唇の下にひげと随分と胡散臭そうだ。


「昼食でどうです?おいしい海鮮料理がいいですねえ。あとは、この町の案内もしてください。それで、薬のお代ちょうどです」

「ふ」

「「ふ?」」

「ふ、ふふふっ!いいでしょう、私の腕を振るうとしますか!町案内は子供たちの方がいいわ。子供の方が、純粋な目で楽しい所を案内してくれるでしょう」


大賢者の見た目に反して、予想外な良心的な「代金」に、おもわず笑ってしまうマリエル。自分の気分を隠そうともせず言葉に乗せると、ウインクで「悪くない」と自分の胸中を示す。


「ふむ・・・・私としては、美人な女性に頼みたかったんですけどね」

師匠(せんせい)、美人な女性にエスコートしてもらうんですか?」

「いいじゃないの。なに?もしかして君、性別で差別しちゃう感じ?」

「何言ってんですか。みっともないのは事実でしょう」

「~は男の仕事とか、女なんだから可愛く~とかは、男女差別っていうの知らないの、ねえ?あれえ?一部のひとに賢者と言わしめたって、あれーっ?」

「そういうとこですよ」

「マリエルさんはどう思いますか?よくないですよねえ、男女差別。」

「私は男性にエスコートしてもらいたいかな」

「やはり、今回は子供に頼もうかねえ。たまには悪かないでしょ」

「驚くほど速い掌返し」

「うるさい」


言い争ういい年をした大人二人を見て、薬を飲んで鎮静したはずの頭痛がよみがえるのを感じるマリエル。本当に、これからはバタバタした毎日になりそうだ。




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