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2 大賢者の悩み

ちなみに、今回良く出てくる洞穴(どうけつ)ですが、読み方はどうけつ。ほらあなという意味です。洞穴というのは、樹木や崖にできた穴という意味です。洞窟(どうくつ)を使わなかった理由は、文化庁が洞窟は浅いものを指すという考えであり、深い物を指すときは洞穴で統一していると知ったためです。実際は自分的にも洞穴《どうけつ》かなあと思ったからなんですが。




「洞穴か」

「ですね」


雪山のふもとに空いている洞穴に、大賢者と王宮直属魔導士。氷柱がつり下がる洞穴内に、吹きこむ猛吹雪。洞穴内は風があまり入ってこないイメージがあるだろうが、運悪く、風の方向が悪かったようだ。


「ここからだよな?」

「魔力の残滓は間違いなくこのあたりからです。っつーか、あんたがやりゃいいでしょ」

「なんか、最近お前、言葉遣い悪くねえか?」

「賢者様にはこれくらいでいいと悟ったんです。」

「なんだそりゃ。それにな、俺はパワータイプなんだよ。出来なくはないが、消費魔力が大きいの!そういうう追跡系はお前専門だろうが」

「まあそうですよね」

「で、近いか?」

「そろそろですね」

「そうか」


その場所が近づくにつれて、張り詰めていく緊張感。二人の間に、緊張が走る。何かを覚悟している。そんな雰囲気が二人の間に走る。


「ここ・・・・ですね」

「んなこと、言われなくてもわかる」


そう、そんなこと、誰に言われないでも見ればわかることだった。何故ならば、その場は凄惨なまでに血しぶきが飛び散っていたからだ。洞穴の壁面にべっとりと付着した血液は、まだ乾き始めてもおらず、ぬらぬらと不気味に輝いていた。


「これはすごいな」

「ええ。だいぶ残酷ですね」

「だな。よほど追い詰められていたと見える」


壁面に飛び散っていたのは、緑の血。おそらく、ゴブリンなどの血であろう。それに、喧嘩をしていた時に聞こえた少女の叫び声(・・・・・・)。ここで彼女は襲われたのだろう。そして、ゴブリンが死んだ。

ということは、少女がここで襲われたとき、何者かが介入したのだろう。そして、ゴブリン三体を倒した。


「だろうな。というかこっちにゴブリンの死体と捨てられたショートソードがあるしな。」

「ええ!?知ってたならいってくださいよ!」


ツカツカとこっちに歩いてくる王宮魔導士。それに対して、大賢者は下をじっと見つめたままだ。


「一体何を見て・・・・っ!」

「・・・・」

「これはまずいですよ」

「だな。早く向かうとしよう」


急いで走り去った二人の足元にあった血だまりは、間違いなく緑のものではなく、真っ赤な、人間のそれだった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「っは、っふぅ、ちょ、まて!限界だから!」

「何言ってんですか!誰か一人の命が潰えてしまうかもしれないんですよ!?」

「ちょ、待てって・・・・クソ!『身体強化』」

「あ!僕も『身体強化』」

「ばか、張り合ってる場合じゃねえぞ!」

「一刻も早く行こうとしてんですよ!」

「ゴブリンと負傷者の前でバテてたらしょうもないからな!」

「僕は  (一部の人に)賢者とまで言わしめた男ですよ?そんなことありえません」

「小声でいってんじゃねーよ・・・・で、あと何分だ?」

「あと一分いえ、三十秒」

「まだ余裕だな?よし、飛ばすぞ」

「はい」


さらに身体能力強化にまわす魔力を増幅させる。目的地は近い。・・・・制限時間も近い。急ごう。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「あ・・・・がっ」

「ルディから離れて!この魔物たち!」

「もういいよ。ティーゼ、は僕を放って逃げて・・・・」


ルディの傷は浅くない。このまま放って逃げたら、どうなってしまうかなんて、分かり切ってる。だから、置いていけない。


「そんな怪我じゃ、ゴブリンに勝てるわけないじゃない!」

「足止めくらいは、できる」

「あっそう?でも、こんな吹雪の中で町に戻れるとは思えない」

「それでも、隠れることはできる。学校で、習った、だろ?」

「私が、やる」

「よせ!ごほっ、がほっ!」

「ふーっ、ふぅーっ!」


「ストップ。ゴブリンはキミのような女の子に勝てる相手じゃないよ。」

「馬鹿にしないで!わたしだ」

「おっと、ゴブリンは気が利かないみたいだ!【アクア・ショット】」

師匠(せんせい)!」


話をしている途中だというのに、ナイフで切りかかってくるゴブリン。それに対し、大賢者が水魔法の初級魔法であるアクアショットを放つ。しかし、アクアショットを食らっても少しよろけただけで、少しも問題ないように再度ナイフで切りかかってくるゴブリン。


「ふん。加減が分からないねえ。全然効いてないみたいだ」

「しっかりしてくださいよ」

「だから、俺はパワータイプだから加減とか苦手なの!広域型殲滅魔法なら、簡単にできるけど?」

「生き埋めになるつもりですか?」

「わかってる!【ストーンバレット】【フェアウィンド】」


「グゲゲッ!」

「ガガッ?」


大賢者が発動した二つの呪文で、一匹のゴブリンの武器が、根元から粉々になる。それを持っていたゴブリンの手も、無事ではすまず、指がズタズタになってしまっている。石の礫を発現させる土魔法と、追い風を発生させる風魔法だ。どちらも、初級魔法である。しかし、当てられた指があの様子じゃあ、指はもう二度と動かせないだろう。初級魔法とはいえ、大賢者が打てば恐るべき威力へと化すのだ。


「あーあ。威力も不安定、狙いも不安定。」

「だから、俺はいつも周りごと吹き飛ばすやり方だから、なれてないんだよ!」

「へーえ。」

「これが片付いたら覚えとけよ?」

「あ、危ない!」


ふざけあっているところに、今が好機(チャンス)とばかりに躍りかかってくる、ゴブリン。あわや大賢者の喉元に刃が届こうというとき。


「【ワールウィンド】」


ドパァン!


「きゃっ!」


ゴブリンの腹が、粉々に弾け飛んだ。まるで、周囲の風が竜巻のように凝縮されたように。正確には、竜巻の原理とは全く違うのだが、ゴブリンの体内を正常に働かせていたそれたちは、まるで、竜巻に様々なものを巻き上げられ、粉砕されている姿と、そっくりだった。


「あと一匹だな。ん?どうだ。まだ、やるか?」

「グギギィッ・・・・」


仲間が殺されたところを見たゴブリンは、慌てたように大賢者たちから逃げていく。仲間が殺されたから、敵を討つという発想など全くないようだ。そんなことは、今考えている場合じゃないと、逃げていくゴブリンの背中が語っている。これがまさに、這う這うの体というものか。


「どっちみち殺すんだけどね」

「ゲグァッ!」

師匠(せんせい)・・・・趣味悪いですよ」

「あ?だって、仕方ないじゃん。異常繁殖して復讐しに来ると困るし」

「まぁ、そらそうなんですけど。で、どうします?目撃者がいたら、スローライフには困るでしょう。我々も逃亡の身なわけだし」

「そうだねえ。ま、目撃者は危険だ。仕方ないよねえ」


「ひっ!」

「ティーゼに、何を、するつもりだ!」

「痛くしないさ。何も、悪いことはしないよ」

「そうそう。ただちょっと、ずくりと痛むかもしれませんがねえ・・・・クククッ!」


「キャァァァァッ!」




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「なんで引っ掻くかなぁ」

「大賢者様が『ずくりと痛む』とか紛らわしいこと言うからじゃないですか」

「お前だって、怪しいこと言ってたじゃねえか」

「いや、僕は正しいことしか言ってませんよ?だって、『悪くしない』と『どうします?』って言っただけですからね」

「・・・・まあな」


腑に落ちない表情をしながら、うなづく大賢者。・・・・この二人は、元から二人を消すつもりなんてなかったのだ。でなければ、わざわざゴブリンから救う必要なんて、ないだろう。ゴブリンが少女を嬲って、殺してからゴブリンを始末すればいい。だから、ゴブリンから救おうと走った時点で、目撃者は仕方がないから、秘密にしてもらおうと考えていたのだ。


「おー、いちち。これも治しておくか。【ヒール】」

「もったいない。その程度の傷、放っておけば一週間くらいで消えるでしょうに」

「俺がこの少女を担いで街に帰って、俺の頬には結構大きなひっかき傷。何かあったんじゃないかって思われるだろ、普通に考えて」

「それは、愉快ですね。疑われて困っている賢者様を見ながら、酒を飲むのは楽しそうだ」

「おい。まぁ、いい。こいつらが無事ならな。」


若い命がゴブリンによって奪われるなんて、そんな悲しいことがなくてよかった。それに、町のものが死ぬと、一番最初に疑われるのは魔物だが、次に疑われるのはちょうどいい時期に来た怪しいおっさんだ。とりあえずは、まぁ、上出来だって言ってもいいんじゃねえかな?




大賢者「くっそ、魔法の威力調整が全くできねーな。練習するか・・・・」

弟子 「それ、僕何回も聞いたことありますけど?」

大賢者「うっせ」

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