14 賢者育成講座【大賢者コース】月額1万ペリル
題名を見ただけで読みたくなくなるような、そんな題名。
「まず、この間勉強したことだが・・・・覚えているかな?魔法の発動速度、威力に関与することとは」
「術者のイメージ力、記憶力です」
「その通り。ティーゼ。では、イメージ力とはなんだい」
「え・・・・?えっと、想像する力ですか」
「まあそうだね。うん、魔法に必要な『イメージ力』というのは、想う力だよ。魔法を使って、どうしたいかを考えることによって、威力や範囲、速度も変わる。例えだが、『人をたくさん癒したい』と強く願い、想い、イメージすれば、【ヒール】も少し範囲が広がったりする。本来は人間のイメージ力が低いため、微々たる変化なんだがねえ・・・・。二人は、ニネパルートの瀧竜をしっているかな?」
「あ、はい。愛した人を救おうと、勇者が水の精霊様に祈って、水で出来た竜に変わって・・・・ってやつですよね」
「ああ、あのおとぎ話ですね。聞いたことあります」
ニネパルートの瀧竜。それは、この国の人であれば、だれもが知っているであろうおとぎ話。悪い魔法使いが世界を滅ぼさんと暗躍している場に、訪れる勇者。しかし、相手は勇者の思い人である姫を人質に・・・・。勇者の懇願も空しく、魔法使いは姫の首をナイフで裂こうとした瞬間!勇者が巨大な水の竜に。そして、姫は救われ、世界も救われ、めでたしめでたし。
「身振り手振りで熱く説明してくれてありがとう、ティーゼ。大体そんな感じだったねえ。」
「この話がどうかしたんですか?」
「実はこれ、実話なんだよねえ。いや、駄洒落じゃなく」
「っじ、実話!?人間が、水竜にでもなったって言うんですか!?」
「実際は召喚魔法だったみたいだけど?勇者はちっさくてそこそこ強い召喚獣を召喚できるのさ。しかし、その勇者は苦手だったのか、何回やっても、召喚できなかった。それを、祈って、願って、イメージした。そうしたら、本来小さい召喚獣しか呼べないはずの召喚魔法が、水竜を呼んだってわけさ」
「おとぎ話ではそれは勇者自身だと・・・・」
「実際はどうなんだろうねえ。解決した後の勇者の話は聞いたことがないし・・・・でも、水竜が悲しそうに空を駆けていったってのは聞いたなあ。ちなみに、そこから5000km位離れた湖だったよ。周りには小さな村が点在してたっけ。森の中にポツンとあった湖だからねえ。見つけるまで時間がとてもかかった。いやあ、大変だったなあ。」
まるで、その光景を自らの目で見てきたかのように、詳しく説明するファル。目を閉じ、ゆっくりと思い出しながら説明していく様は、情景を記録の奥から引っ張り出すようにも見える。
「会ったんですか?」
「会ったよ。もし本当にあれが勇者なんだとしたら、人から竜になって500年。そんなに経ったから頭がイカれちゃったんだろうね。多分、気づいたんだろうね。自分の愛していた姫、親しかった友人は全員死んだ・・・・ってね。そんで、自我を失って暴れてたから、殺した。通称『魔法を使わない賢者』ジェーン・ペルバルナがね。」
「ジェーン・ペルバルナ・・・・」
「ジェーンですか。あの格闘バカの」
「およ、レアル君は会ったことあったっけ」
「ありますよ。偶然こっちの国に来てたみたいで、顔を初めて合わせるなり『アンタがこの国の賢者か!?よし、戦おうぜ!』とか言って、殴りかかってきたんですよ」
「その場で?」
「ファルさんの課題を修練場でこなしていたから、丁度よかったんじゃないんですかね、知らないけど」
「アレ?どしたのレアル君」
「・・・・一発KOでしたよ。急だったんで、身体強化する時間もなかったですし」
言いたくなさそうに顔を赤く染め、逸らしながら言うレアル。恐らく、いやいや課題をこなしていたところにさらに嫌なことが重なったから、最悪の思い出なのだろう。
「近接だと私も瞬殺だろうねえ、アイツは。正直、一番やりあいたくない」
「『大賢者』なのに『賢者』に負けるんですか?」
「僕たちは、中、遠距離が得意なんですよ」
「そう。魔法に特化した我々は、正直近距離戦は大の苦手なんだよねえ。格下相手ならともかく、同格、格上相手になるとさっぱり戦えない。出来て、自爆して【死なばもろとも攻撃】かなあ。まあ、遠距離戦でなら勝てると思うけどねえ。だから、そこそこ剣の扱えるルディには、身体強化や部分強化も勉強してもらうから。」
「はい!」
「ティーゼは中、遠距離、後はサポート系を主に。エンチャントとか、あとは回復。回復は光魔法の専売特許だからねえ。古代文明では、聖魔法と呼ばれるほど回復目的に使われていた魔法だし。」
「よろしくお願いしまっす!」
「じゃ、じゃあ、魔力量を高めるために、魔法的当てね。今日は、ルディが水魔法。ティーゼが土魔法!」
「「はあい!!」」
「・・・・ホントに、どうしちゃたんだろうねえ、これ。僕にゃあ見えるよ。目の奥と体全体にほとばしる炎が。」
「本当ですよね。なんでここまでやる気になったのか。と言っても、原因はそんなに考えられるものじゃありませんけど。」
「僕が昨日話したことだね?しなけりゃよかったかなあ」
「いや、今やる気が出る分にはよかったんじゃないんですか?それより、さっき言ってたこと」
「水竜かい?」
「そうじゃなくて、魔法が術者に効果がない理由ですよ。嘘、ついたでしょ」
「君には話していたっけ?」
「いや・・・・聞いてませんね」
「無かった。そんなもん、無かったんだよ。セーフティ何て無かった。ないと安全ではない、いつ破裂するかわからない。そんな状態になるはずなのに、今まで暴発もなかった。でも、それを知った瞬間から魔法が暴発するようになった。・・・・今も。例えば、これが僕の改良した【ファイア】」
そう言うと、賢者立てた人差し指に炎を灯す。ユラユラと不安定に揺れるそれは、ファルの心の内を現しているのだろうか。見ていると、切ない、悲しい気分になってくる気がする。
「見てろよ。痛いから、一回しかやりたくない。あと、聞いてろ。・・・・これが、従来の【ファイア】っ・・・・ぐぁっ」
「ちょ、ちょっと何してるんですか!?」
「こ、この通り、一度セーフティがないことに疑問を持つと、魔法発動時に負傷する。原理は解らん。これも、さっきの魔法発動の『イメージ』ってヤツかもな。」
「じゃ、じゃあ僕は」
「安心しろ。お前に教えたすべての魔法にはセーフティがかけられてる。」
「もしかして、初めて会ったときに右手が包帯でぐるぐる巻きだったのって・・・・」
「徹夜明けだったからな。【ヒール】すれば良かったなんて、気づかなかった」
「アホですか?」
「じゃあ、連続26日徹夜してみっか?人格変わりそうになるからな、マジで」
「怖いので、辞めておきます。そういえば、『研究目標』が、『睡眠』の賢者が居ましたよね」
『徹夜』という言葉で思い出したレアルが、ファルに質問をする。
「ああ、ウェイン・スリプル・・・・。『いねむりウェイン』だろ?」
「そうです。」
「アイツは・・・・すごいな。眠りさえすれば、ほぼ全ての毒や麻痺薬、ケガとかをなおしちまう。」
「欠損もですか?」
「欠損もだ。指で十日間、腕で二か月間だったかな?で、不老不死って噂だ。俺がガキの頃から、身長も見た目も何もかも変わってない。」
いねむりウェイン。ウェイン卿。外見は幼い子供の様で、いつも寝間着とフリルのついた空色の枕を持っている。ウェイン卿が寝ているところを誤って起こしてしまった者は、永遠に眠りの世界に落とされるとか、ウェイン卿が戦闘状態に入ると、主人格が眠って凶暴な人格が表に出てくる。相手を眠らせる何属性だかわからない魔法を使う。不老不死。大昔に魔法を戦闘に使えるまでに発展させた研究者の内の一人。ウェイン卿についての噂話は、ここでは語り切れないほどに大量にあるのだ。
「・・・・それはとんでもないですね」
「賢者っていうのは自分の研究するテーマに特化した魔法を開発するからなあ。睡眠する際に活発になる再生活動をさらに活発化させる魔法かなあ・・・・ま、自分にしか効果がないらしいけどな。」
「自分にしか効果がない、専用魔法」
「なんだ?なんか、お前も考えてみるか。俺が思いついたのは広域型殲滅魔法とかいう、自分のテーマに最も反した魔法だぞ」
「参考にしないので、大丈夫です。うーん、僕のテーマにあったオリジナルの魔法って何でしょうか」
「無理に考えなくてよくねえ?メンドクセーよ、そんなん。俺だって、戦闘で便利だから殲滅魔法作ったんだし。スタンピードの処理が楽なんだよな、これが。中心にドーン、ドーン、ドーン。はいおしまい。換金できないほどズタズタになるけどな」
「『安全』かあ。なんだろうなあ、安全って。」
「そんなん、俺に聞かれても知らんよ。まァ、自分の『テーマ』なんだし、じっくり考えると良いさ」
テーマ。賢者大賢者、研究者などが、自分を見失わないようにと定める、道しるべ。その道しるべに沿って道をたどっていけば、自分を見失わない。記号に自分が飲み込まれないように。研究すれば一国を・・・・世界さえ滅ぼすことさえできる存在達は、自分が記号に飲み込まれるかもしれないという恐怖で一杯なのだ。
「ファルさーん!ちょっと聞きたいことがあるんですけどー!」
「あー、はいはい。今そっち行くからちょっと待っててね!じゃあ、ゆっくり考えな。別に、固有の魔法を持ってる奴なんてそう多くないんだから。ジェーン・ペルバルナも、ただ単に身体強化と部分強化を極めただけなんだからさ。」
「ファルさーん!」
「はいはい!じゃ、そゆことで。結論を急いで出すのも時には必要だけど、しっかり考えるってのも重要なんだよ」
『で、何について聞きたいんだい?』
『それが、この水魔法の形状についてなんですけど・・・・』
『ああ、良いところに目を付けたねそれは――――――――』
「しっかり悩むのも重要か。そうだよな。これは、誰かに定められた人生じゃない。自分の、自分だけの人生なんだ」
『ああっ、ちょっと魔力を込めすぎッ――――――わぶぁっ!?』
『うあっ!大丈夫ですか、ファルさん』
『ああ、まあ。今日はいい天気だし。こういうのも、中々悪くない』
「こういうのも、悪くない。いつまでも、この生活が続いたらいいのに。そう、思いますよね。ファルさんも」
ルディの弾けさせた魔法でびしょびしょになったファルを見て、呟く。この生活が、いつまでも、永遠に。続いたらいいのに、と。そんなことは、絶対に不可能だとわかっていたのに。
アヤシさ満点デラックスでござ。ござござ。