13 運命・縁・理・物語
「本日の授業はこれでおしまい。今日のところは、帰ってくれないかい?」
「はい」
「・・・・」
「今日は、賢者の在り方についての授業だったと思ってくれないかい?情けない大人の愚痴を聞かせたなんて、なんか情けないからねえ」
「・・・・」
『強いなら戦場で役立てるべき』これが、王都に居たところの大賢者の考え方だ。『嫌なら参加せずとも良い。ほかに役立てるなら』こっちが、最近の考え。しかし、今思うと『強いからこそ安易にその力を振るうべきでない』とも思う。強すぎる力は危険だ。大賢者の脳内はそんな考えが巡っていた。結局、力を持つものはどうあるべきか。そんな考えが、ぐるぐる、ぐるぐると脳内を支配していく。
「君らはきっと賢者になる。だから、よく覚えていてほしいんだよねえ。僕たちが、後悔してるってことを。」
「大賢者、賢者。その実態は、魔法の数だけ人を殺してきた指名手配者さ。」
「僕たちは国からすれば逃亡中の大犯罪者。敵国との停戦条件が、僕たち二人の身柄の引き渡し。こんな情けない大人二人にならないように、君たち子ども二人は覚えておくんだよ。」
「私は・・・・私の思うようにいきます。後悔しないように」
「僕は、みんなを笑顔にしたい。自分含めて、みんな」
「僕らは本当に情けないなあ。見ろよ。もう、僕たちが言うまでもなかったんだ。立派に、覚悟完了しちゃってるねえ」
「本当ですよ。子供が時々羨ましくなります」
「僕も、ああいう風にパッと決めてたら逃げなくてよかったのかもねえ。」
「・・・・きっとそうですよね、今更遅いですけど。そう、すべきだったんでしょうね」
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「ルディ、ファルさんたちの言ってたこと・・・・」
「今僕たちが考えても仕方がないよ。要は、こう言いたかったんじゃないかな?『よく考えて、行動しろ』って。多分、自分たちが思っている以上によく考えて行動しろって。そういうことだよ。だいぶ要約しちゃったけどね」
「私たちは・・・・ファルさんたちは・・・・人を殺してるのかな」
「殺してるよ、間違いなく。戦争に行ったって言ってたし。」
「ッ!」
「仕方ないことだよ。戦争に出てる兵士一人一人に罪はないんだ。敵国から身柄を要求されるほどに、ファルさんたちは殺したんだ。」
広域殲滅魔法。多分、あれは対魔物用に開発したというよりは・・・・。魔物は中々群れることはない。ゴブリン以外は、殆ど群れを成すことをしない。じゃあ、やっぱりこの魔法は・・・・。
「僕は、人一人に全部責任をしょい込ませるこの国が嫌いだ。笑顔を奪ったこの国が嫌いだ。」
「私も・・・・私も!嫌い。嫌な仕事をさせといて、酷いことをするこの国が、王様が、政府が嫌い」
「賢者になろう。僕たちは賢者になるべきだよ。それで、内から国を変えていくんだ。僕たちなら、それができる。僕たちは、賢く、強くあらなきゃならない。それで、それで・・・・正しくあろう。僕たちだけでも。」
「私たちは、私たちは・・・・二人で賢者になろう。この不条理な国も、世界もぶっ壊して作り直してやろうよ」
「僕の『目標』は自分も他人も笑顔にすること。全部笑顔にする。そのためなら」
「私、私も。私の目的も決めた。・・・・改革。全部いい方に作り直すにはどうするかを研究してやる。生涯研究し尽くす」
「僕たちは」
「私たちは」
「「二人で賢者に、なろう」」
僕たちは、賢く、強く。そうあろう。みんなを笑顔に、僕たちも笑顔になるために、この国を、世界を作り変えてやる。みんなが、笑って暮らせるように。泣く人を一人でも減らせるように。
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「ティーゼたちは歪まないだろうか」
「歪むかもしれません。人間ですから。」
「『人間』か。ククッ。これも全て・・・・ヤツの仕業だろうな、恐らく」
「そうでしょうね。・・・・ファルさん。テーマの研究はどうですか?進んでますか」
「ああ、平和というものは時代によって移り変わるからねえ。今の時代において、何が平和かを考えるのも、単純では」
「そっちではなくて。」
「ああ・・・・。無理だな。姉上に会いに行かないとな。そっちの研究は、出来そうにない。」
「ヤツらは僕たちになんでこんなことをしたんですかね。まるで・・・・まるでハリボテのような。何かから見て外見だけ取り繕ってるみたいだ」
まるで、ハリボテのような。何かを、欺くかのように。何かから見て、それが自然なものであると認識させるがために。ヤツらは、ハリボテを作った。
「・・・・それを知るために研究をしている」
「知ったら・・・・知ったらどうするつもりですか?」
「どうするんだろうなあ。どの道俺たちは壊し始めてる。理を、縁を、運命を。・・・・物語を」
「まっさらになるんでしょうか」
「まっさらにしない。そのための、研究でもある。」
「・・・・完成されたらどうなるんですかね。僕たちもまた、運命を修正されるんでしょうか」
「だとしたら、もしかしたら幸せかもな。」
「真実にかすりもしないで、『違和感』を受け入れることがですか?」
「『知らない方が幸せ』っていう言葉、知らねーのか?」
「知ってますよ、そんくらいは。ティーゼたちと話すときは直してくださいね」
「・・・・何を?歪みか?直せるわけねーだろ、今更」
「口調ですよ。昔の口調になってますよ」
「・・・・それくらい解ってる。」
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「――――――――で。今日は何でそんなに気合が入っているのかな、二人とも」
「ファルさんのように魔法を極めて、世界に証明してやるんです!」
「そうです!見返してやるんです!」
「いや、そりゃ良いんだけどねえ。ちゃあんと考えたのかい?昨日僕が言った事。まずは自分の為にって。自分の人生が一だよ?」
「分かってます、そんなこと。救われるべき人が救われないと、誰も『笑顔』になれない。だから、良いんです。」
「ま、まあ・・・・研究というのは試行錯誤するもんだから良いんだけどねえ」
頭をポリポリと掻き、呆れたような、恥ずかしいようなため息をつくファル。まあ、無理もないだろう。昨日は自分の恥ずかしい部分を思わず全部見せておいて、今日それについて励まされているような状況なんだから。これで恥ずかしいと思わない人間はいないだろう。
「そもそも、賢者って一般人でもなれるもんなんですか」
「なれるよ、多分。どうかしたかい、急に」
「だって、勇者とかは生まれつき魔法も力も強いそうじゃないですか。」
「・・・・アレは特別だよ。とにかく!賢者になるには、魔法の威力や魔法を何発打てるか、魔力の量、質、節約できるか、あとは魔法の知識。魔法の創造。これぐらいが出来れば、賢者を名乗っても文句はでない。」
「魔法、作るんですか?」
「ああ、創るんだ。既存の魔法を分解して、利用しても大丈夫だよ。僕は大体そうしてるが・・・・一から作るのも可能と聞くねえ。あとは、古代語からも・・・・」
「へえ、魔法って深いんですね!」
「そうだろう!?魔法というのは不思議で魅力的な力だよ。これがあるのと無いのでは、まるっきり違うだろうねえ」
「僕も、初めて手から電気が出た時は驚きましたよ!『バチッ』なんか言って」
「ああ、懐かしいねえ。僕も初めて火が出た時は焦ったなあ。熱くなんてないのに、熱い気がして川に飛び込んだっけ。」
ファルが魔法について懐かしんでいると、
「そういえば、なんで熱くないんですかね?電気もしびれなかったし・・・・」
「そういうもんだとしか言えないよねえ。まあ、僕が分解した結果、魔法の基礎の基礎部分に『使用者の魔力に触れている状態では効果が発言しない』っていう機能がついていたねえ。多分、安全のためじゃないかなあ」
「へえ、そんなのがあるんですか。」
「そうなんだよ。魔石に込められた魔法も、例外じゃないらしいが・・・・詳しいことは知らないなあ。億の専門じゃないからねえ。さ、この話はここでおしまい。じゃ魔法の授業を始めようか」
「「よろしくお願いします」」