10 愛弟子の危機感のなさに覚える危機感
ルディの「本当ですか!?僕、強くなれますか!?」
を、間違って「本当ですかい!?」にしちゃって大爆笑してました。
いやあ、一文字違うだけで印象ってこんな変わるものなのかと、
改めて日本語ってすごいなあと、そう思わされました。
そして、一ヶ月が経った・・・・
「【ファイアーボール】」
手から放たれた炎球が、六メートルほど離れた的の真ん中に描かれた、赤い印を打ち抜く。
「ふうん。なかなかやるねえ。もう、結構魔力量も上がってきたんじゃないかい?」
「有難うございます!」
「う~ん、今までは魔力容量を増やすためにひたすら魔力を消費することを考えていたけど・・・・ここまで多くなってくると消費するのも大変だねえ。よし、中級攻撃魔法にいってみようか」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
であった頃の噛みつきようとは見違えるように、眩しい笑顔を浮かべるティーゼ。その笑顔には一点の曇りもなく、ファルが生まれてくるのがもう少し遅ければ、外聞的にも法的にも問題なかったのになぁ、なんて、危険な考えを浮かべてしまうほどである。
「で、キミの方はどうなんだい、ルディ」
「見ててください・・・・【サンダーボルト】」
ルディの指から放たれた雷撃が、先ほどティーゼが当てた場所に寸分狂わず命中させた。コントロール力もさることながら、的を貫通させた上に炎上させてしまったところを見ると、威力も申し分ないようである。
「素晴らしい。一か月でこれとはねえ。魔法の才能ははっきり言って人並だけど、努力でそれをカバーしている。つぎの賢者は君だね、ルディ」
「いやいや、まさかそんな。・・・・賢者?」
「今の賢者はレアルだからねえ。君は、その次」
「あ、そうですか」
「しかし、問題は魔法属性をすべて使えるわけじゃないってとこかな。水魔法に雷魔法、それと闇と風は使えるみたいだけど、土、火、光が使えないとなると・・・・」
「すみません・・・・適性がないみたいで」
「う~ん、僕らは全属性あったから、何とも言えないなあ。もしかしたら、なんかの行動が関わってるのかもしれないねえ」
大賢者たちは、最初から全属性が使えた。なので、なぜ取れない場合があるかなんて言うのも良く分かっていない。
「まあ、そこはティーゼがカバーしてくれているんで、問題ないです。」
「ティーゼ、もしかしたら君よりも優秀かもしれないよ?空間魔法だって適正あるって出たし、容量はまだ低いけどアイテムボックスは使えるようになったしねえ」
「それはティーゼがおかしいんですよ。元々火魔法使えてたんだから。手からよく火花バチバチ散らして脅かしてきたんですよ」
「手から火花を・・・・?そりゃすごいねえ。ティーゼはもしかしたらルディと正反対のタイプかもしれないねえ。ルディが努力型なのに対し、ティーゼは多分感覚型かな?ティーゼは多分ちょっとやったら覚えちゃうタイプだねえ。でも、それにかまけないで練習もすれば凄いことになると思うよ」
「有難うございます、師匠!」
「ははは、師匠だなんて照れ臭いねえ。今まで弟子なんて持ったことないから、なんだか嬉しいねえ」
「レアルさん・・・・」
「ん、ルディ何か言ったかい?」
今さっきレアルが賢者と言っていたくせに、レアルを弟子にしたと言う事実を抹消せんと耳の遠くなった老人の物まねをしてすっとぼけるファル。まったく、大賢者とは思えない悪魔の所業である。
「まあ、レアルの事は良いとして、ルディ。君は努力によっての魔力容量と魔法威力の伸びしろがほかの人よりもはるかに多いみたいだねえ。どんなに努力しても限界があるけれど、キミはその限界がほかの人よりも高いみたいだよ?」
「え、本当ですか!?僕、もっと強くなれますか!?」
「なれるとも。必ず、キミは努力さえ怠らなければ僕を超える賢者になるだろう。そのうち、大賢者になったっていいんじゃないかな。進んでなるようなもんでもないけど。めんどいし、ハゲるし」
「ハゲ・・・・!?でも、ファルさんは一杯あるじゃないですか」
「話は突然変わるようで変わらないんだけど、錬金術ってすごいよねえ。なんたって、極めればどんな薬だって作れちゃうんだからねえ」
「あ・・・・苦労、してるんですね」
「ティーゼ、可哀そうな目をこちらに向けるのはやめてくれないかな、心がズキズキ痛むから」
生暖かそうな表情をするのはやめていただきたいと、心の中で懇願する大賢者。大体、ティーゼは12歳だというのに、なぜそんな表情をするのか。・・・・12歳だったら、普通なのだろうか?結構な時間森に引きこもっていたので、良く分からないが。
「ファルさんはどんなもんなんですか、魔法。せっかく新しいおうちの庭で試し打ってるんだから、ファルさんもやってみたらどうですか?」
「う~ん、まあティーゼがそういうのならやるっきゃないよね。ちょっと離れててね。危ないから」
「「はい」」
二人が十分以上にファルから距離を取る。ファルは若干その距離の長さに傷つきながら、手に魔力を集中させる。
「【ファイアーボール】」
素早く飛び出した炎の玉が、的の端に命中する。パチン。そんな音を立てて、火が弾けた。
「ファルさん?」
「大賢者様?」
「いや、僕はほら、パワータイプだから、繊細な調整が苦手なんだよ。ほら、今ので大体わかったからまだちょっと離れててね?」
そういうと、またも手に魔力を集中させる。ルディとティーゼから見ると、手に集まっている魔力の量は、さっきと全くと言っていいほど変わらないものだった。
「【ファイアーボール】」
又も素早く飛び出した炎の球が、的の端に命中する。ズドン。そんな音ではとても表せないほどの轟音が鳴り響き、的が突き立っていた地面ごと吹き飛んだ。衝撃波は半径三メートルほどまで影響を与え、地面と的の近くにあった塀の一部を、少し抉ってしまったようだ。
「ぶおわっ!」
「わぷっ!」
どうやら、土やら草やらの破片が、二人に降り注いでしまったらしい。さっきまでルディが水魔法を練習していたため、地面は水でぬかるんでいた。そのため・・・・
「ぶ、うえっ・・・・」
「うあ・・・・あうあうあ・・・・」
二人の全身と、おまけに口内にたっぷりと泥がプレゼントされてしまっている。そのまま飲み込むわけにも、特にティーゼは吐き出すわけにもいかないので、どうしようかとあうあう言っている。それを見て危ないオジサンが。『ふむ・・・・中々。』などと言っている。本当に危ない。
「う~む。泥だらけになってしまったし、どうしようか。」
ファルとしては、魔法の訓練で泥だらけにしてしまった分、このまま返すのもちょっと・・・・と思っているが、じゃあどうするのかと問われれば、どうしようかなあとなってしまうような状態であった。つまり、困ったことになったということだ。
「ファルさん、この新しくできたおうち、お風呂ってありますか?」
「ん?まあ、あるにはあるけど。まさか・・・・」
「貸していただけないですか?」
「ううん、まあ、僕は構わないんだけど。ルディ、キミは?」
「え?は、入ってもいいんですか?」
「わかってるとは思うけど、一人ずつだからね?まさか、そんなこと考えてもいなかっただろうけどねえ」
「あ、そんなのもちろん分かってますよ」
「え、一緒に入らないの?」
「「・・・・・」」
ティーゼのその言葉に、まるであほなものを見るような目でティーゼを見てしまう。どちらの内心も目線通りで、「何言ってんの、この子は。」である。本当に、何を言っているのであろうか。この場には、危険で銃の威力に振れ幅のある怪しい猟師と若いオオカミ。それに、小さくて美味しそうな子羊だというのに。
「ティーゼ、キミねえ。」
「え?え?」
「ティーゼ、流石にそれはないよ。ところで師匠、服ってどうするんですか?あと下着とか・・・・」
「僕がマリエルさんのところに行ってもらってこようか。」
「あ、じゃあファルさんにお願いして、私たちはお邪魔しちゃおっか」
「あ、ああ。・・・・いっとくけど、一緒に入らないからな!」
そんな言葉を背に、ティーゼの危機感のなさに、危機感を覚えるファル。「大体、もし僕が変態だったら、ティーゼの服がどうなっちゃうかもしれないのに」なんてヤバめなことをぶつぶつと呟きながら、マリエルさんの家に向かう。・・・・変態ではないと信じたいところではあるが、そういう発想が出てくるファルはもう手遅れなのだろう。ティーゼの服に何をしでかすつもりか心配である。