序章‐魔物が蔓延る世界には‐
はい。大賞に向けて書いた、奴です。これは書きだめがないので、ちょっと大変かなーと思いますが、頑張って更新していきたいと思っています。
魔力の多さと、既存の科学的反応。それらを活用し、俺は長年の目標だった大魔法使いになった。一部の国、地域では、【大賢者】とまで呼ばれている。
しかし、いくら個人が強くても仕方がない。この世界には、危険と悪意...........魔物が蔓延っている。
...........この世界には、人間が蔓延っている。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ファイアストーム」
ズゴゴゴゴゴゴ...........
その言葉とともに放たれた竜巻...........否、炎の竜巻が四メートルはあるだろうか...........大型の熊の魔物を舞い上げる。
「ガァァァァァァァァァ!!!」
「おーおー。いいじゃんか。なかなかにこんがりするな。」
今日の晩飯は決まりだな...........と呟いた男は、フードの奥でため息をつく。薄汚れたフードマントをかぶり、それ以外に物を持っていない手ぶらな男。その風体は、誰から見ても明らかに怪しい。
「・・・・やば。」
そう呟くと、のんびりした動作で手を振る。...........と、男の手の動きに反応したかのように炎の竜巻が収まり、ガラス状になった地面が現れる。炎が収まったとはいえ、急激に熱されたガラスが冷たい外気に触れ、ビキピキと異様な音を奏でていた。
「寒っ・・・・今日は冷えるな。」
それもそうだ。今の季節は真冬。こんな防寒具なしのボロいマントで、外に居られるほど甘い寒さではない。
「メシ・・・・・ちっ。焦げてるじゃねーか。」
それもそうだ。地面がガラス化するほど高熱をしばらく忘れて当てっぱなしにしてしまったのだ。食える肉なんて、残っていないだろう。・・・普通なら。
「お。まだ結構残ってんじゃん。さすがはファイアーグリズリー。伊達に長い名前じゃねーな。」
問題はファイアーの部分だと思うのだが。普通は長い時間あの炎に触れていて、無事に残っているハズはない。・・・・灰にならないことが無事なのかはともかく。一般的な生物なら、十秒と経たず炭になったろう。しかし、火に当たっていたのは魔物。生物とは一線を画す存在。魔物とは、ある日突如現れた、人類の敵。その敵は、今までの常識以上に強く、規格外だった。
「ハフ・・・ハフハフ・・・・うん、うめぇ。焼いただけだが、流石は高級食材。それだけでも十分に美味い。・・・・さっきから何ぶつぶつ言ってる?お前もさっさと食わないと、冷えちまうぞ?」
「ああ、すみません。」
魔物が現れる前。それも、かなり昔から存在した魔法。その魔法は争いに使われるほど強大では無く、あくまで生活を豊かにする道具の一部だったのだ。しかし、ある日奴らは現れた。魔物。何が原因だったかは定かではない。・・・魔法を研究するものが生み出してしまった失敗作。動物を兵器開発しようとし、開発個体が流失してしまった結果。ここより別の世界からやってきた、異世界人。黒魔術で召喚された、下級悪魔や中級悪魔。様々な仮説がある。
とにかく、人類が持っていた武器は、刃物や弓しかなかった。だが、魔物には強さがある。素人が問題なく剣で倒せる者。玄人なら遠方から弓でなんとか倒せる者。......そして、素人でも玄人でもどうしようもない強さを持つもの。そこで、ある狂った魔法研究科は思った。『私たちには剣ではなくもう一つ、魔法があるではないか。』と。そして、魔法を器用に使える者たちが集まり、研究は次第に大きなものへとなっていった。百年、二百年......五百年。さらに月日は流れ、本格的な魔法研究が始まってから三千年の現在。人類は、魔法を武器とし、魔物から対抗できつつあった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「んなこたぁ、この世界では常識だろ。魔導学院や騎士学院で、真っ先に習うだろうが」
「そらそうですけど、信じられなくないですか?三千年前も前には、魔法なんて武器にならなかったんですよ?ライターや何かと一緒で、便利道具だったってんですから」
「確かに、信じられないよなあ。こんなファイアーグリズリーなんかも、昔は一軍隊に匹敵する強さだったらしいじゃねえか」
「それは、大賢者であるあなたがおかしいんですよ」
とはいえ、今ではレベルの高い騎士が十人いれば、対応できるくらいなのだが。
「なんだおまえ。俺が異常だって言いたいのか?」
「あらゆる意味で異常でないのであれば、大賢者だなんて呼ばれませんよ」
「・・・・まぁ、それは一理あるかもな」
「でしょ?じゃなかったら、こんな寒い中でうっすいマント一つで平気なわけないんですよ」
「だーうるせえな!お前だって一般人に比べたら薄着だろうが!」
「僕が賢者様に弟子入りしたばかりに普通じゃなくなっちゃったんですよ!」
「なんだ、俺を病原菌のような扱いしやがって!このやろ、このやろ!」
「ちょ、マント引っぺがそうとしないでくださいよ!寒いんだから!」
「それ取り上げられたって、肌寒いだけだろうが!」
「大賢者じゃないんだから、普通に凍えますよ!」
猛吹雪の中、大人二人がマントを引っ張りあって、大きな声を張り上げて、喧嘩する。吹雪の外から見ていたら、姿が見えない分、子供同士の喧嘩に見えることだろう。
ヒュオォォォォォォォォォオッッッッ――――――――――――――――!
「だから、誰のおかげでお前の魔法の腕が王国一と言わしめるほどになったと思ってんだって!」
「僕は別に王国一にならなくって良かったんですよ!生活が便利に送れて、周りのみんなからバカにされなければ!」
「じゃーなんでわざわざ俺のとこに、わざわざ紹介状までもらってきたんだ!?騎士長にでも教わればいいじゃないか!?」
「騎士長がせっかくならって、紹介状書いたんですよ!こんな大賢者の世話をすることになるとは思ってもいませんでしたけどね!」
「魔法は教えただろう!?」
「ええ、魔法は教わりましたよ!魔法はね!」
「なんか言いたそうじゃねえか!?」
「言いたいことも言わせてくれなかったのは、どこの誰なんですかねえ!!!」
「ああ!?お前の幼馴染がどんなに感謝したと思ってんだ!」
「そのお陰で僕は振られたんですけどね!王宮直属になった僕には釣り合わないってねえ!」
「それを理由に振ったんだよ!もともと好きじゃないってな!」
「涙をぼろぼろ流しながらですか!?」
「それは――――――――――――――――すまん。」
「なん――――――――――――――――いえ、こちらこそ感情的になり過ぎました」
ビュゥオオオオオオオオオオオオ――――――――――――――――――――――――!
「――――――――――――――――」
「――――――――――――――――」
話し合いがようやくひと段落したところで、吹雪に、いや、吹雪の奥の何かに反応して、首をそちらに向ける。
「聞こえたか?」
「聞こえました」
「やっぱりお前も普通じゃねえな」
「そっちこそ。行きましょう」
喧嘩を蒸し返すようにボソッと呟いた大賢者の一言に、ぼそっと返す王宮直属魔導士。はたから見ると、なんだかんだでいいコンビの様である。