2 独裁者になってみました
全知全能の神様になった田中俊介くん、
まだその能力を、使いこなせてはいないようです。
とりあえずは、自分の望むどうりの世界を創造して、その世界で独裁者になることにしました。
豪邸と称されるだけの屋敷の、その敷地面積くらいありそうな広い部屋。
その中央にでんと置かれた豪華なベット。
僕はそのベットに横たわっている。
そして、僕の胸の中で眠るのは・・・北原菜月。
僕が、世の中にこんなに可愛い女の子がいるのか、と憧れぬいていたあの美少女が、僕の胸の中で静かに眠っている。
僕は動悸がとまらない。
でもこれは・・・現実。
北原菜月は、今、僕のお嫁さん。
僕は、彼女の寝顔に見いってしまう。
目を閉じていても、彼女はこんなにも可愛い。
彼女が、目を覚ました。
僕の顔を見る。
そして、にっこりと微笑んだ。
何て、何て可愛いのだ。
そして彼女は・・・、
この僕に夢中なのだ。
僕たちふたりが眠るこの部屋は、大阪湾岸の人工島のひとつに聳え立つ、巨大で豪華極まりない大阪大宮殿の一室。
彼女、北原菜月は、皇后様。
この国の皇后というわけではない。
世界連邦帝国の皇后陛下。
そして、この僕は今、世界連邦帝国の皇帝なのだ。
全知全能の神様になった僕。何だってできる。
どんな破天荒な想像をしてもそのまま現実になってしまう。
一体どうしたらよいのか、何をしたらよいのか、困ってしまった。
僕には二十年間、平凡な男の子として生きていたその経験があるだけだ。
何だってできることになったといっても、想像力には限界がある。
冷静になって考えてみた。
普通の男だったらこういう時、どうするのか。
究極の欲望をかなえる。
素直にそうしたら良いではないか、そう思った。
いいぞ。冷静だ。
究極の欲望。
金、名誉、権力、そして美女。
これで良いだろう。
じゃあ、それらをみんな手に入れてしまおう。
それらを手にいれる、それも最高のものを手に入れるに相応しいのは、どんな職業か。
歴史好きというのは、この設問に対しては、直ぐに答えが出せてしまう。
権力者。
それも選挙で選ばれるのであれば、その権力にも限りがある。
絶対的独裁者。
それも日本だけの、というのではつまらない。
全世界における絶対的権力者。それがいい。
でも独裁者という言葉はマイナスイメージが強い。人々の犠牲の上に成り立つ。
歴史上の独裁者というのは、そんなイメージしかない。
そんなのは嫌だ。
僕は、いくら絶対的な権力をもつ独裁者になっても、人びとが不幸なのであれば、決して楽しくはないし、そんなに厚かましい人間でもない。
みんなが幸福で、貧しい人もいない。そして言論も自由。
そんな世界だけど、みんなが僕を尊敬している。みんなが僕が絶対的権力者であることを当たり前のことだと思っている。
そんな世界の独裁者になればいい、そう思った。
そのために、僕は、最高レベルの頭脳の持ち主になることにした。
そして、人びとを幸せにするという使命感を持ちながらも、独裁者に相応しい威厳とオーラが自然に身に付いている、そんな人間になることにした。
容姿についても、人間離れした美青年になってしまおうか、とも思ったが、それでは、自分が、この田中俊介という人間の元々の個性がまるで消えてしまう。
で、容姿はそのままで行くことにした。
でもこの世界では、その他の美意識は、それまでの世界と同じなのに、何故かこの僕は、世界で最も美しい容姿の持ち主。ということになってしまうことにした。
僕は、自分が、絶対的権力者となるその世界の、グランドデザインを進めた。
国家はもうなくしてしまおう。
世界統一。世界連邦。僕が独裁者になるのだから、僕は皇帝。
だから世界連邦帝国。
今ある国家は、世界連邦帝国を構成する州ということにしよう。
首都は、どこにするか。日本だな。当然。
東京? いやだな。この世界でも東京に大きな顔をさせてたまるか。
大阪だ。
標準語も関西弁にしよう。
平和な世界、みんな幸せ。世界中の人が、僕の絶対的崇拝者。
それを願って世界を創造してみた。
全知全能の神様というのは便利だ。
そう願うだけで、最先端のコンピューターで、ビッグデータを分析するより速く、その世界が現実のものになる。
そうやって、出来上がったのが、この世界。
大阪は、大宮殿をはじめとして、世界連邦帝国の首都に相応しい施設。様々な豪華な建築物が聳え立つ街に変貌していた。
あ、忘れてた。
中学時代に告白したけど断られた女の子。
高校時代、好きだったけど、想いをつげられなかった女の子。
大学生になって、一度だけデートしてもらったけど、それっきりになってしまった女の子。
その三人も、今、僕のお妃様だ。
世界中の美女を、いくらでもお妃にできるわけだけど、今は、これだけでお腹いっぱい。
充分過ぎる、
とりあえず、今のところはここまで。
神様の能力。まだ使いこなせてはいない。
これからゆっくり考えよう。
時間は、はい、無限に持っています。
神様には何の制限もありません。




