届けたい気持ち
*第1話ー鈍い先輩
花竹渚、高校2年生。
私には、好きな人がいます。
その人は、一つ年上の相澤拓先輩。
先輩は、かっこよくて、優しくて、色んな人にモテるけど、モテる事に気付いていない人です。
そんな彼と出会ったのは、半年前の事。
♪
段差もない所で転んで、プリントを廊下に散乱させてしまった、私は、その場に縮こまっていた。
横を通って行く人は、皆、クスクス笑っているから。
はぁー、こんな時、どうすればいいんだろう。
いいや、勝手に笑わせとけば。
ーその時だった。
私の目の前が一瞬だけ、暗くなった気がして、上を見上げてみると。
『………はい。』
私に、プリントを差し出してきた、1人の男の子がいた。
『あ、ありがとう。』
両手で、プリントを何故か受け取る。
『………ん。』
そう言って、右手を差し出してきたものだから、彼にプリントを渡してしまった、私。
今、思えば、何で、プリントを渡したんだろうって思う。
で、彼の手を使わずに立ち上がった。
そして、その彼をよく見てみると…………え?
『あ、ありがとございました、先輩?』
靴の色が、違った事に今更になって気付く。
『……はい、じゃあね。』
………え?
先輩は、そのまま、プリントを持ったまんま、行ってしまったんだった。
『………えっと、…え?』
………あのプリントって、1年上のクラスに渡すヤツだったよね。
わ、私、自分の仕事なに、自然的に先輩に押し付けちゃたってこと?
でも、今から先輩を追いかけたって、遅いよね。
そのまま、動かずに考えていたのだった。
♪
そして、半年たっちゃたけど、私たら!
また、同じくプリントを同じ場所で散乱させてしまっていた。
あ〜、もう。
あの時は、拓先輩がひろってくれたけど。
今は、この場所にいないんだから、拾わなくちゃ。
……ん?何で、先輩の名前を知らなかったのに知ってるかって?
それは、半年前の話の続きで、教室に戻った時に、あまり話さない真島鈴葉ちゃんが、急に言い出した一言が、【相澤拓先輩にプリントを拾ってもらったみたいですね。】と、言われたから。
て、それよりも、プリント!
そう思った時には、プリントが辺りになくて、上を見ると。
「………あ、拓先輩!」
プリントを、また拾ってくれていた先輩がいたのだった。
「………ん。」
そして、今度こそ、差し出してきた右手を握ろうっとしたら。
「………まぁいいや。」
手を引っ込めようとしていた、先輩の手を握った、私は。
「……拓先輩、今日もありがとうございます。」
そう言いながら、立ち上がると、先輩は何も言わずにプリントを渡してきた。
まぁ、今日のプリントは私のクラスのプリントだったからなんだけどね。
そう思っている最中にも、スタスタっとこの場を去ろうっとしている先輩に気付いて。
私は、今度こそ、先輩の方へ走っていき。
「拓先輩、待ってください。」
先輩を呼び止めるが、止まってくれる気配もなく。
どうしようっと思ったら、
「渚、鈍い先輩には、告白あるのみ何じゃないですか。」
…………え!
突然、現れた、鈴葉に驚くが、彼女の秘密を知ってしまったら、あんまり驚かなかった。
「ありがとう!」
そして、どうにか先輩に追いつく事ができた私は、周りの事を気にせずに。
「相澤拓先輩が、好きです!」
そう、告白したのだった。
♪♪
まぁ、そう先に告白されてしまった拓は、立ち止まり。
周りの冷やかしの声を聞く耳を持たずに。
クルッと向きを後ろに変えて、好きな人に近づくに連れて、不安な顔をしている渚が愛おしく思えていて、ギュッ渚を抱きしめる。
「……拓、先輩?」
………何で、不安そうな声をだすのか。
そう思いながら、コソッと唇を渚の耳に近づけて、
「好きだよ。」
そう囁くのだった。
*終わり*