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雪の女王の王女  作者: 遅杉田盆栽
9/15

そのきゅー

「久々に笑わせてもらったぞ、なかなか愉快であった……しかし、そろそろ話を戻さねばならぬな」


 好物の赤い甘いお茶をすすりながら、王様は言いました。そうよね、議題は真面目なのよ、なんてったって世界の危機なんだもの。


「そうですね……もう、猫さんはもっと真面目にやってください、いつも言ってるでしょう」


 桜は、猫の肩をペチペチと叩きましたが、叩かれた本人は、抱きしめた王女様の頭に顎を乗せて、なにやら考え中なのです。目を閉じて、寝てるのかしら? なんだか、日向ぼっこしてるカメみたいね。


「猫さん、聞いているのですか……猫さん? 」


 まるで、眠っているのかと思うほど大人しかった猫が、ゆっくりと目を開きました。


「……なぁ、戻すと聞いて思い出したんだが、皆はいつ、この十二月の繰り返しに気が付いた? 」


 猫に聞かれて、皆はうんうんと考え始めます。それはそうよね、だって半年も前の事だもの、私なんて昨日の晩御飯だって覚えてないのよ? わかるはずないじゃない。


「……わしは、たしか大臣の帳簿をみて気付いたのだが、それがどうしたと言うのだ? これから魔王の討伐について話し合うつもりなのだが」


 王様は首を傾げます。そうよね、冬が繰り返してるのは間違いないんだし、今は魔王をやっつける相談が先じゃないかしら、穴の中にはいないけど。


 他の人もだいたい同じみたい、だって十二月が終わったのに、周りの人がまだ十二月だって言ってるんだもの、不思議にきまってるわよ。


「……なぁ、なにか変じゃないか? 同じ季節を繰り返すにしても、三ヶ月ごとに戻るのが道理だろう、なぜ、十二月ばかりが繰り返すんだ」


「それの、なにがおかしいのですか? 雪の女王様が出てこられないから、一年が終わらないって事でしょう? 」


 桜の意見に、みなもうなずきます。


「雪の女王が出てこられないのが原因なら、一年の区切りは関係ない、あくまで冬の終わり……春の三月を迎えられずに、二月が繰り返すはずだろう、もしくは、そこから十二月に戻るのなら納得もいくが……この中の誰も、一月二月を経験していない、何故だ」


 今度は、みなが悩み始めました、猫の言うことにも一理ありますが、そんなに細かいことを考えても、意味が無いような気もするのです。


「ふむ、それならそれで、お前の考えはどうなのだ、言ってみろ」


 王様に聞かれた猫は、王女様の頭に顎を乗せて、しばらくこめかみの辺りを揉んでいましたが、ピタリと手を止め、こう言ったのです。


「……日差しの女王に見えない場所が、もう一つあるな、例の、祈りの塔とやらだ……そよ風の女王なら、中に入れるんだろう? 」


 猫の言葉に全員がびっくりしました。なるほど、灯台もと暗しね、人間足元はお留守になりがちなのよ、気を付けないとね。


「いえ、それは……まって、いえ、でも……」


 日差しの女王は混乱しています、首をふりふり、あれこれ考えながら、忙しく手を動かしていました。うーん、つまり、どういうことなの? なんだか分からなくなってきちゃったわ……あ、イモ女も考える事をほうきしてるわね、くやしいけど完全同意よ、今回だけは手を組みましょう。


「どうなんだ? 三ヶ月待たずに扉を開けられるのか? ……もし、開けたら、どうなるんだ」


「日差しの女王よ、教えてくれ、それは本当なのか? もしそうなら、雪の女王はどうなってしまうのだ? 」


 王様も心配そうね、そうよね、雪の女王は二人目の奥さんみたいなものだもの。


「……分かりません、そのようなこと、考えた事もないのです……ですが、祈りの間では、時の流れを感じることはできませんから、そよ風の女王が、もし、三ヶ月を待たずに部屋の扉をノックしたとしても、雪の女王は迎え入れるでしょう」


 あれ、じゃあ、今はその部屋の中に二人が居るって事? なら日差しの女王がノックすればいいんじゃない? あ、桜が同じことを言ってるわ、うふふ、やっぱり気が合うわね。


「いえ、もう私達はノックをしています、部屋の扉は、開きませんでした、そよ風の女王が中にいるとは」


「出てきたくない、理由があるのかもな」


 みなは悩みました、この話が本当かどうかは、まだ分かりませんが、つじつまは合っているような気もするのです。


「……つまり、なんらかの理由で、そよ風の女王と雪の女王は、祈りの塔の一番上の部屋にいると、そして、そこから出てこないと、そういうことか? 」


「あるいは、出てこれない、のかもな」


 しん、と静かになった部屋に、猫の声だけが響きます。


「……とりあえず、俺にひとつ考えがあるんだが」


 全員の目が、猫に集まりました。なにかしら、ここは頼れる男らしく、ばばんと解決しちゃって欲しいわね、そしたらもうモテモテよ、桜とイモ女といっしょに、王女様もお嫁さんにできるかもね。


「祈りの塔とやらを、叩き壊してみたらどうだろう? 」


 全員が下を向いて、ため息をつきました。


「ええ、うすうす分かっていましたとも、そうではないかと」


「大臣はおるか! 騎士の叙任前には、学力試験を行うように厳命せよ! 」


「ばーか」


「ばーか」


「ばーか」



ばーか。




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