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雪の女王の王女  作者: 遅杉田盆栽
8/15

そのはち

 ごちそうは、目のくらむほどに豪華でした、大きなテーブルの上には色とりどりのお料理が並べられているのです。なにこれ、子豚もガチョウも丸焼きなのね、王様のごはんにしてはずいぶんワイルドじゃない、肉食なのかしら。


「なんだこいつら、邪魔くさいな、俺は勝手に食うから、ほっといてくれ」


 なんだかイスとイスの間が広いと思ったら、ひとりひとりにメイドさんが付いてるのね、こんがり焼けたお肉をとりわけて、いろんな野菜で巻いてくれるのよ、いたれりつくせりじゃない、あぁ、スープもイイ匂いがしそう。


「……猫さん、お願いですから大人しく食べてください、恥ずかしい」


「なんだとふざけるな、飯は自由であるべきだ」


 桜の方は落ち着いてるのね、ほわほわ言ってないし、あぁそうか、ごちそうには慣れてるのね、もっと庶民的な料理の方が良かったみたい、残念ね、明日は街でたべましょう。


「そもそも、のんびりしてる暇も無いだろう、人払いしてくれ、思いついた事もいくつかあるんだ」


「……お待ちください、せいては事をしそんじると言うでしょう? 食事は自由、という意見には賛成ですが、作り手と食材に対する感謝の気持ちを持って、ゆっくりといただくべきです」


 日差しの女王様はキツい目をしているけど、言ってる事はその通りね、ご飯を食べる前には「いただきます」食べた後には「ごちそうさま」よ、忘れちゃダメなのよ。


 でも、役割的に、そういう事はイモ女が言うべきじゃない? 実りの秋の女王様なんでしょ? なに「あれ、これ私が言うべきせりふだったかしら」みたいな顔してるのよ、というかご飯食べすぎよ、自分のお腹実らせてるんじゃないわよ、綺麗な見た目で騙されてたけど、さてはこいつポンコツ女ね。


「そうだな、すまなかった、少し、気が急いていたみたいだ」


 猫さんは素直にあやまると、後は静かに食事をしていました。いや、メイドさんにちょっかい出しはじめたわ、やっぱり礼儀知らずよね、飼い主なんだから、桜はもう少し、猫を厳しくしつけるべきだと思うわよ。



 食事が終わると、部屋を移動して会議が始まります、お茶の乗った小さなテーブルを囲んで、みんなはソファに腰かけました。ふかふかね、ゆったりなのよ、でも、お腹いっぱいでこれじゃ、ちょっと眠くなっちゃうかもね。


「最初に、聞きたいことがある」


「……猫さん、私も聞きたいのですが……なんで王女様を膝に乗せてるんですか」


 猫さんは、自分の膝に王女様を座らせているのです。はっ、言われてみればそうね、なんだかすごく自然な流れだったから、違和感がなかったわ。


「俺はガキが嫌いなんだよ、こいつみたいに笑わないガキは特にな」


「なに言ってるのか分かりません」


 わからないわ、嫌いなら抱っこしてあたまをなでたりしないものね……それとも、これがツンデレってやつなのかしら。


「だから、もう少し笑うように調教してる」


「なに言ってるのか分かりません」


 そうは言いつつ、桜も王女様のほっぺたをつつき始めるのです。もちもちしてるものね、気持ち良さそう、でも、私だってもちもち具合には自信があるのよ、いつか分からせてやりたいわ。


「それで猫よ、聞きたい事とは何だ」


 王様は、どことなく機嫌が良さそうでした、王女様の姿を、こうしてゆっくり見るのも久しぶりなのです。なんだか寂しいわね、きっと王様も、日頃はどこかよそよそしいのよ、だって家庭環境に問題があるのだしね、でも、仕方ないわ、自分のまいた種だもの……二重の意味で。


 ワハハ


「とりあえず、王妃さまはどこにいるんだ? まだ顔も見てないが」


 王様は、少し悲しそうな顔をしました、ふたりの女王様達もです。


「妻は死んだ……もう十年も前の事だ……言い訳になるが、わしも当時は気落ちしていた……雪の女王もな、妻とは親友であったのだ、それで」


 んん? 奥さんが死んじゃったの? それで、雪の女王様と慰めあったってこと? うーん、そう言われると、なにか、少しかわいそうかしら。


「……ふうん、俺は別に責めないが、女を抱く理由は、良い女だから、でイイだろう……寂しかった、なんてのは相手に失礼だぞ? 」


「猫さん! 何言ってるんですか! やめてください、小さな子の前で! 」


 真っ赤な顔で、桜が怒りました。そうよ、いやらしい話はきらいなのよ、私もさっき言ったような気もするけど、それはそれなのよ、だってひとりごとだもの、バレなきゃいいのよ。


「ああ、ごめんな桜、お前の前で」


「私は! 子供じゃありません! むぐぅ」


 しっちゃかめっちゃかになりそうな予感がしたのかしら、王女様が桜の口をふさいだわ、なかなかやり手の王女様ね、将来たのしみなのよ。


「……正直、王妃がそよ風の女王を隠したと思ってたんだが……あてがはずれたなぁ」


 猫さんは、やり手の王女様を撫でながら話を続けました。


「私も、王妃様とは友人でした……あなたの、その考えは不快です……ですが、この状況を変えるためには、あなたのような考え方も必要なのかもしれません」


 日差しの女王様は、悲しそうに目をふせます。


「それでも、これ以上は王女様の前でするような話でもありません、ここは私達だけで……」


「駄目だ、こいつには話し合いに参加する権利がある、年の割には賢そうだしな、そもそも、終わらない冬に気づいてない連中とは、話にもならないんだ……どうせ藁にすがるんだろ、細くても本数は多い方がいい、忘れるなよ? 教えの国は、もう凍り始めてるんだからな」


 猫の声は真剣です。でも、王女様のあたまを撫でながらだもの、なんだか笑っちゃうわね、笑っちゃダメなんだろうけどね、そう考えると余計に、ね。


「ぷふぅっ」


 あ、イモ女だわ、やっぱりこいつはポンコツ女よ、あーぁ、ほら、どうするの、みんな笑い始めちゃったわ。


「ふふっ……あはははっ」


 王女様まで笑っちゃったじゃないの、なによ、みんな危機感が足りないのよ、きんちょーかんがかいむなのよ。


 でも、まぁいいか。


 いいわよね。



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