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雪の女王の王女  作者: 遅杉田盆栽
6/15

そのろく

 大都会の甘味は、北の田舎者の口には合いませんでした。……なんて事はないのよね、やっぱり女の子よ、甘いものには勝てないみたい。


「ほわあぁ……あまい……柔らかい……」


 さっきから桜は、どこか遠くへいっちゃってるわ、ほわほわ言いながら、銀のフォークでハチミツのたっぷりかかったパンケーキをつついてるのよ……ねぇ、それ美味しいの? なんだかずるいわ、食べたいのよ、ずーるーいー。


「なんだこりゃ、いくらなんでも砂糖入れすぎだろ」


 猫の口に、甘いものは合わなかったみたいです、道の国の王様は、甘いものが大好きだったのです、赤いお茶にも、パンケーキにも、たくさんの砂糖が惜しげもなく使われていました。教えの国では、丸い大根からお砂糖を作るんですって、へんなの、お砂糖はアレから作るんでしょ、知ってるわよ、アレよね。


「……実は私も、甘すぎるものは苦手なのです、どうですか? このくらいなら」


 イモの女王が、猫に自分のティーカップを差し出しました。やだ、間接ちっすよ、なにしてるの桜、ハチミツなんて珍しくないでしょ、あのイモ女は泥棒猫よ、ライバルよ、寝所仇なのよ、うかうかしてたら彼氏を取られちゃうんだから。


「まぁ、歓談はこのくらいで良いでしょう、ともかくこちらの状況をお知らせします、そのあとであなた達の意見を聞かせてちょうだい、冬の呪いに囚われなかった、あなた達の意見を」


 はっと、桜が意識を取り戻しました。全く仕方ない子ね、わたしがいなきゃダメな子なのよ、うん、でも、それより王様までパンケーキに夢中だったのは、どうかと思うわ。


 日差しの女王が、こんこんと説明をはじめました、それは、どこか歌うような心地よい旋律で、皆の心に、すーっと染み込んで行くのです。怖そうな目をしてたけれど、案外優しい声ね、先生とか向いてそう。




 輝く道のお城には、祈りの塔があります。


 それは、お城の中で一番高いところ、空に近いところ、見渡せるところ、溶けるところにあるのです。


 四人の女王様は、三ヶ月ごとに交代でそこに入り、神様に祈りを捧げ、空に溶けて季節になるのです。


 三ヶ月後に、次の女王様が扉を三回叩きます、それが季節の終わりの合図、扉を開けられるのは、次の季節の女王様だけ、四人はもう、この祈りを何百年も繰り返してきたのです。


 ですが、今年は違いました、いつまでたっても冬が終わらないのです、不思議に思った王様は、そよ風の女王様を呼びに行きました、ですが、春をつかさどる女王様の姿はどこにもありません。


 そよ風の女王様の姿は、日差しの女王様の千里眼でも見えません、芋の女王様が動物に聞いても分かりません、いつまでたっても扉をノックされない雪の女王様は、冬の終わりが分からないのでしょう、それからずっと雪を降らせ続け、北の方では、ついに海が凍りはじめてしまったのです。


「……それから先のことは、教えの国から来られた、あなた達のほうが詳しいでしょう」


 話を聞いているうちに、少しだけ桜は反省しました、皆が寒くて困ってるのに、自分だけ甘いパンケーキにとろけてしまったことが、申し訳ないと思ったのです。


 ううん、そんなことないわよ、桜は頑張ってるわ、お父さんに怒られても、寒い雪山で震えても、慣れない旅で体調を崩しても、怖い怪獣に追いかけられても……それでも泣かなかったのは、みんなのためにって、頑張ってたからなのよね、知ってるわ、いま、見てきたもの。


「そうだな、だから、早くなんとかしなきゃな」


 猫さんは、ぽんと桜の頭に手を置きました。傷だらけでゴツゴツしてるけど、あったかくて優しい手なのよ。


「はい、もちろんです! 」


 桜のやる気も戻ったみたい、でも、パンケーキにフォークを刺したままじゃ、台無しなのよ? 学習しなさい。


「教えの国の現状も知っておるが、仇敵だからと、笑って見ておく訳にもいかぬだろう、罪のない民草に被害が及んでおるし、なによりこのままでは、道の国まで冬に飲み込まれてしまうのだからな」


 王様は立派な髭をつまむと、悩ましげに目を閉じました。へぇ、意外にいい王様なのかしら、戦争好きだっていうから、もっと野蛮なひとだと思ってたわ、やっぱり人間は見た目によらないのね。


「……とりあえず、俺にひとつ考えがあるんだが」


 全員の目が、猫に集まりました。なにかしら、ここは頼れる男らしく、ばばんと解決しちゃって欲しいわね、そしたらもうモテモテよ、桜といっしょに、イモの女もお嫁さんにできるかもね。


「祈りの塔とやらを、叩き壊してみたらどうだろう? 」


 全員が、パンケーキに注意を戻しました。猫のざれごとに付き合っている暇はないのよね、これだから乱暴な男はダメなのよ、なんでも腕力で解決すると思ってるんだから。


「ええ、知っていましたとも、呪いに囚われぬからといって、賢者とは限りませんよね」


「普段、脳味噌を使わぬ仕事をしているから、こうなるのだろう、我が国も注意させなければならないな」


「ううん……祈りの扉は、強い呪いで封じられていますので、人の力では……ね、どうでしょう」


「ふあん」


「ばーかばーか、猫のばーか」


 皆は猫さんを無視して、別の方法を話し合うのですが。


「……それが一番、手っ取り早いと思うんだけどなぁ」


 ひとり、猫さんだけは、口をへの字に曲げて、ブツブツと文句を言っていました。はいはい、そうね、そうかもしれないわね。




 ばーか。



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