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雪の女王の王女  作者: 遅杉田盆栽
5/15

そのご

 猫と桜が通されたのは、王様に会える大きな広間でした、扉を開けると真っ赤な絨毯が、遠くの階段まで伸びています、天井は高く、巨人が立って歩けるかもしれません。すごいわね、きっと、ものすごくお金持ちなのよ。


 広間の両側には、白い石でできた兵隊さんの像が並んでいます、そして階段の真ん中あたりに二人の女の人と、さっきの女の子、そして一番高いところで、立派な椅子にすわる立派なヒゲの男の人。このおじさまが、きっと王様なのね、黙っていてもなんだかダンディなのよ、結構すてきな感じじゃない。


「道の国では、先に目上の人が待ってるんですね」


 ぽつりと桜が言いました、隣の猫に聞こえるくらいの小さな声でしたが、縄を持った兵隊にも聞こえていたようなのです、怒った兵隊は桜を棒で叩きました。まぁ、なんてひどい! 女の子に手をあげるなんて、最低ね、たまに喜ぶ人もいるけれど。


「おい」


 振り向いた猫が、兵隊さんの棒を握りしめました、手首を縛られていたはずなのに、いつの間にかその縄が足元にちらばっています。ひょっとして、手でちぎったのかしら、すごいちからね、あ、棒も折れちゃったわ。


「あぁっ、ろうぜきもの、ろうぜきものであるぞ! であえ、であえー! 」


 タヌキの大臣が悲鳴をあげると、たくさんの兵隊さん達が、外から集まってきました。いきなりたいへんよ、猫の大立ち回りなのよ、ワクワクしちゃうわね。


「うろたえるな、馬鹿者ども! 」


 立派なヒゲの王様は大きな声で、大臣と兵隊さん達をしかりつけました。なんだかちょっと怖いわね、このおじさま、人を怒鳴り慣れてるもの、そういうの、声でわかるのよ。


「大臣よ、客人に縄をかけよと誰が命じたか、反省部屋に行くのだ、他の者ももうよい、下がれ」


 みなは困った顔をしていましたが、王様には逆らえないのです、すぐに広間から出て行きました。そうよ、上からの命令は絶対なんだからね、せちがらい世の中なのよ。


「すまなかった、もっと近うよれ、話が聞きたい」


 椅子の上から、王様が手招きします。


「うわぁ、偉そうだなぁ……やっぱりどこも同じだなぁ」


「……お父様は、そこまで威張っては……いえ、なんでもありません、というかごめんなさい」


 猫と桜は、ひそひそと話しながら、赤いじゅうたんの上を向い歩きます。ふんわりと沈む柔らかいじゅうたんなのよ、ヤギかしら、ヒツジかしら、寝転んだらもこもこして気持ち良さそう。


「その方が教えの国の猫か、噂通りのたぢから男よ、見事である」


 猫と桜は驚きました、隣の国の王様が、ひと目見ただけで猫の正体に気づいたのですから。


「何を驚く事がある、日差しの女王は、千里を見通す賢者なのだ、隣の娘の事も知っておるぞ」


 王様の左にいる女の人が、スカートをつまんで、ぺこりと頭を下げました。真っ赤な髪の綺麗な人よ、少し、気が強そうに見えるかしら、きっとつり目のせいね。


「用があるのは、でばがめ女王じゃないんだが」


「も、もぅ! 猫さんは黙っててください! 失礼しました陛下、私達は教えの国より、この冬を終わらせる方法を調査しにまいりました、願わくば、妖精の女王の力をお借りしたく」


 猫さんは、どうにも礼儀を知らないのね、常識ある大人とは言えないわ、それとも、権力に屈しない俺かっこいいとか思ってるのかしら、若いわね、あいや、若いのか、忘れてたわ。


「ふむぅ、情けない話なのだが、力を借りたいのはこちらの方でな」


 桜に尋ねられた王様は、なんとも苦い顔なのです。どうしたのかしら、困ってるのかしら、そういえば、女王様は四人いるとか桜が言ってたわね、あの小さな女の子は違うでしょうから、他に二人いるはずなのにね、どこなのかしら。


「それについては、私から説明いたします」


「あんたは? 」


 王様の右、黒髪の綺麗な女の人は、秋をつかさどる「芋の女王」と名乗りました。


 ……イモ?


 くっ、と桜が下を向きます、ぷるぷる震えて、一所懸命にがまんしているのでしょう。仕方ないわね、真面目な顔して、イモの女王とか自己紹介は無いわ、失礼だけど、おヘソから蒸気が出ちゃいそう。


「そうか、だけど、あんたみたいな美人にイモはちょっと似合わないな……うん、そうだ、来年からは「紅葉の女王」と名乗ってはどうだ? 」


 芋の女王様は、びっくりした顔をしました、自分の名前を笑わなかった人に会ったのは、初めての事だったのです。


 ううん、ごめんなさい、そうよね、名前を笑っちゃダメよね、それにしても、ひどいのはそんな名前を付けた奴よ、いったい誰なのかしら。


「……ありがとうございます、けれど、これは母なる神様にいただいた大切な名前、変えるつもりはありません……ですが、あなたの、その心づかいは、この先も、きっと忘れないでしょう」


「そうか、孝行娘だな」


 芋の女王と猫は見つめあって、ふわっと笑いました。なにかしら、ちょっといい雰囲気じゃない? 大人の空気よ、いやらしい感じがするのよ。


「わかりました、お話を続けてください、はい、説明がまだ終わっていないのです、お願いします、あと、名前を聞いてすこし笑ってしまいました、悪気はありませんでしたが、失礼にきまっています、ごめんなさい」


 猫と女王の間に割り込んで、桜はぺこりと頭を下げました。ジェラシーなのね、でも、仕方ないのよ、桜があの雰囲気を作るには、あと十年はかかるのよ。


 なんだか、話の腰が折れちゃったわね、あ、王様もそう思ったのかしら、とりあえずお茶にしようだって、お城のおやつかぁ、どんな美味しいものが出てくるのかしら、楽しみね。


 それにしても、日差しの女王様はきっと夏の女王様よね、イモは秋でしょ、という事は冬と春の女王様がいないのね、いったい何があったのかしら。


 とりあえず、お茶にしてから考えましょう、甘いものは大好きなのよ。


 食べた事は、ないんだけどね。





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