表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雪の女王の王女  作者: 遅杉田盆栽
4/15

そのよん

 道の国の都は、大都会でした。


 まっすぐのびた広い道には、馬車と人がひっきりなしに行き交っていたし、道の脇には全部二階建て三階建ての建物が並んでいました、、街の中はガヤガヤとうるさいけれど、みんな笑って楽しそうなのです。なにより、美味しそうなにおいが、そこらじゅうに、なのよ、もう、もう。


「ほわぁ……ほわぁぁぁ」


 ぱっくりと口を開けたまま、桜は通りの端で立ち止まり、右へ左へ頭を振っているのです。もう、恥ずかしいわね、いなか者まる出しじゃない、あ、あすこに大道芸人がいるわ! 何かしら、子供も集まってる、行きたいわ、行きましょう。


「ひな鳥かお前は、ほら、人さまの邪魔になるから、もっと端っこに寄れよ」


 旅慣れているのか猫の方は落ち着いたものです、開いたままの桜の口に串焼きを突っ込んで、猫は道べりに連れて行きました、屋台で買ったお肉の串焼きは、甘くて辛い味のついた、とっても柔らかいお肉でした、こんなものは教えの国にはありません。なにそれ、美味しいの、何だかずるいわ。


「ほわぁぁ、美味しい……あったかい」


 串肉の他にも、白くてあったかくて柔らかいおまんじゅうを、猫はたくさん買ってきたのです、中身はお肉とお野菜でした、二つに割ると、モワッと湯気と一緒に、鼻の中からお腹まで伝わるような、いい匂いがするのです。あ、桜の口からよだれが垂れてるわ、はしたない。


「まったく、落ち着いて食べろよ、またお母さまに怒られるぞ」


 猫はマントの端で桜の口元を拭いてあげました、すっかり乾いた服を、元どおりに桜は着込んでいたのですが、なぜだかマントだけは離さずに、コートの上から被っていたのです。わかるわ、オトメごころよね、可愛いとこあるじゃない。


 でも、両手におまんじゅうを持って、おくちいっぱいに、もっちゃもっちゃしてたら台無しだわ、やっぱり子供よね、花よりダンゴなのよ。


 ……でも、あの食べ方、なんだか楽しそうなの、いつかやってみたいわね、あんなふうに、いっぱい、食べさせてもらいたい。


 結局、おまんじゅうを五つと串を五本も食べた桜なのです。さすがに食べ過ぎじゃないかしら、食べ終わってから顔を赤くしたって、もう遅いのよ、減点ね、オトナの女を気どるには十年早いんだから、おぼこのくせに。


 お腹の重たい桜を休ませるついでに、二人は遠回りして道の都の観光です。桜はずっと驚きっぱなしなの、けれど一番の衝撃は、赤レンガの屋根が続く大通りをいくら歩いても、全然くさくないことなのよ、教えの国とは大違いなんだって、ご飯食べてる人がいるから、くわしくは言わないけどね。


 川を渡るめがね橋を越えたら、お城が見えてきました、「輝く道のお城」と言うそうです。お化粧石でおおわれたお城は、お日様の光がはね返って、ちょっと目が痛いくらいなのよ、夏になったら目に優しくするために、白い布をたらんすですって、なんだか本末転倒よね。


「たのもーう」


「猫さん! もう少し言い方が」


 突然やって来た怪しい男なのですから、お城の兵隊は槍を構えて、猫たちを囲んでしまいました。ごめんくださいが正解だったかしら?


「俺たちは、立て札を見て来たんだが」


 すると、周りの兵隊たちは、大きな声で笑いはじめました。なによ、かんじ悪いわね、失礼しちゃうわ。


「何ですかあなた達は! いきなり他人を笑うなんて、失礼にも程があります! 」


 桜はぷんぷんなのです、せっかく美味しいご飯で幸せな気持ちになったのに、これでは台無しです、晩ご飯はもっと美味しいものを食べなければおさまりません。


 でも、たぶん怒らなくても美味しいもの食べたはずなのよ、意外にずるい女ね、こんなところだけ大人になってしまったのよ、お母さん悲しいわ。


「立て札を見たのか、また、褒美の文字につられた卑しい者たちなのだろう」


 お城門の扉から現れたのは、立派な服を着た大臣でした。まるまると太ってるし、なんだかタヌキみたいね。


「褒美なんかに興味はない、俺たちは女王様に会いに来たんだ」


 大臣の前に、猫は進みでました。タヌキと猫の対決ね、どっちが強いのかしら、わくわく。


「女王様だと? ……まぁ良い、今年の十二月は何回目だ」


「六回目が終わって、七回目も半分くらいかな……いいから早く案内しろ、しまいには押し通るぞ? 」


 なんだか乱暴な猫ですが、大臣の方はびっくりしました、これは、王様から毎日聞かされていた答えと同じだったのですから。


「お待ちを、少々お待ちを! これ、お前、このお二方を控えの間に案内してさしあげなさい」


 タヌキの大臣は、パタパタと走り去って行きました。あ、こけた。


「猫さん、道の国の王様は、分かっているのでしょうか? 」


「さてな、けど、こうやって人を集めてるんだ、やる気はあるんだろうよ」


 兵隊さんに案内された二人は、立派なお部屋に通されたのです。でも、なんだか悪趣味ね、きらきらし過ぎて落ち着かないわ。


「とりあえず桜、今のうちに確認しておくが」


「え、あ、はい」


 珍しく、真面目な声の猫さんなのです。思わず桜がかたい返事をしちゃったのも、無理のない話なのよ。


「……王様から褒美をもらったら、それは山分けでいいかな? 」


「あぁー! もうっ、どうして猫さんは! もうっ、もうっ! 」


 泣きそうな顔で、猫の肩をポカポカ叩く桜だったのですが、いつの間にか開いた部屋の扉から、銀髪の女の子が覗いているのに気づき、その手を止めるのです。誰かしら、可愛い子ね。


「んんっ……あら、どうしたのですか、私たちに何かごようかしら」


 小さい子相手に、精一杯背のびした受け答えの桜なのです。うーん、たった今、恥ずかしいところを見られたばかりだもの、説得力がないわよね。


「わたしを、たすけて、未来のわたし、お空にあるものは、みなここにあるの」


「ほほう、謎かけか? 生意気な奴め、いいだろう相手になるぞ」


 猫さんは、問答無用で女の子を担ぎ上げたのです、銀髪の女の子の小さな体をくるくる回すなんて、みずへび退治より簡単なのよ。


「お待たせいたし……ひ、姫さま! 」


 がちゃりとドアを開けた大臣が、目玉を飛び出させたので、猫と桜は、また兵隊さんたちに囲まれて、縛られたまま王様に会うことになってしまいました。



 なんだか、締まらないわね。


 縛られてるのにね。


 わはは



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ