そのよん
道の国の都は、大都会でした。
まっすぐのびた広い道には、馬車と人がひっきりなしに行き交っていたし、道の脇には全部二階建て三階建ての建物が並んでいました、、街の中はガヤガヤとうるさいけれど、みんな笑って楽しそうなのです。なにより、美味しそうなにおいが、そこらじゅうに、なのよ、もう、もう。
「ほわぁ……ほわぁぁぁ」
ぱっくりと口を開けたまま、桜は通りの端で立ち止まり、右へ左へ頭を振っているのです。もう、恥ずかしいわね、いなか者まる出しじゃない、あ、あすこに大道芸人がいるわ! 何かしら、子供も集まってる、行きたいわ、行きましょう。
「ひな鳥かお前は、ほら、人さまの邪魔になるから、もっと端っこに寄れよ」
旅慣れているのか猫の方は落ち着いたものです、開いたままの桜の口に串焼きを突っ込んで、猫は道べりに連れて行きました、屋台で買ったお肉の串焼きは、甘くて辛い味のついた、とっても柔らかいお肉でした、こんなものは教えの国にはありません。なにそれ、美味しいの、何だかずるいわ。
「ほわぁぁ、美味しい……あったかい」
串肉の他にも、白くてあったかくて柔らかいおまんじゅうを、猫はたくさん買ってきたのです、中身はお肉とお野菜でした、二つに割ると、モワッと湯気と一緒に、鼻の中からお腹まで伝わるような、いい匂いがするのです。あ、桜の口からよだれが垂れてるわ、はしたない。
「まったく、落ち着いて食べろよ、またお母さまに怒られるぞ」
猫はマントの端で桜の口元を拭いてあげました、すっかり乾いた服を、元どおりに桜は着込んでいたのですが、なぜだかマントだけは離さずに、コートの上から被っていたのです。わかるわ、オトメごころよね、可愛いとこあるじゃない。
でも、両手におまんじゅうを持って、おくちいっぱいに、もっちゃもっちゃしてたら台無しだわ、やっぱり子供よね、花よりダンゴなのよ。
……でも、あの食べ方、なんだか楽しそうなの、いつかやってみたいわね、あんなふうに、いっぱい、食べさせてもらいたい。
結局、おまんじゅうを五つと串を五本も食べた桜なのです。さすがに食べ過ぎじゃないかしら、食べ終わってから顔を赤くしたって、もう遅いのよ、減点ね、オトナの女を気どるには十年早いんだから、おぼこのくせに。
お腹の重たい桜を休ませるついでに、二人は遠回りして道の都の観光です。桜はずっと驚きっぱなしなの、けれど一番の衝撃は、赤レンガの屋根が続く大通りをいくら歩いても、全然くさくないことなのよ、教えの国とは大違いなんだって、ご飯食べてる人がいるから、くわしくは言わないけどね。
川を渡るめがね橋を越えたら、お城が見えてきました、「輝く道のお城」と言うそうです。お化粧石でおおわれたお城は、お日様の光がはね返って、ちょっと目が痛いくらいなのよ、夏になったら目に優しくするために、白い布をたらんすですって、なんだか本末転倒よね。
「たのもーう」
「猫さん! もう少し言い方が」
突然やって来た怪しい男なのですから、お城の兵隊は槍を構えて、猫たちを囲んでしまいました。ごめんくださいが正解だったかしら?
「俺たちは、立て札を見て来たんだが」
すると、周りの兵隊たちは、大きな声で笑いはじめました。なによ、かんじ悪いわね、失礼しちゃうわ。
「何ですかあなた達は! いきなり他人を笑うなんて、失礼にも程があります! 」
桜はぷんぷんなのです、せっかく美味しいご飯で幸せな気持ちになったのに、これでは台無しです、晩ご飯はもっと美味しいものを食べなければおさまりません。
でも、たぶん怒らなくても美味しいもの食べたはずなのよ、意外にずるい女ね、こんなところだけ大人になってしまったのよ、お母さん悲しいわ。
「立て札を見たのか、また、褒美の文字につられた卑しい者たちなのだろう」
お城門の扉から現れたのは、立派な服を着た大臣でした。まるまると太ってるし、なんだかタヌキみたいね。
「褒美なんかに興味はない、俺たちは女王様に会いに来たんだ」
大臣の前に、猫は進みでました。タヌキと猫の対決ね、どっちが強いのかしら、わくわく。
「女王様だと? ……まぁ良い、今年の十二月は何回目だ」
「六回目が終わって、七回目も半分くらいかな……いいから早く案内しろ、しまいには押し通るぞ? 」
なんだか乱暴な猫ですが、大臣の方はびっくりしました、これは、王様から毎日聞かされていた答えと同じだったのですから。
「お待ちを、少々お待ちを! これ、お前、このお二方を控えの間に案内してさしあげなさい」
タヌキの大臣は、パタパタと走り去って行きました。あ、こけた。
「猫さん、道の国の王様は、分かっているのでしょうか? 」
「さてな、けど、こうやって人を集めてるんだ、やる気はあるんだろうよ」
兵隊さんに案内された二人は、立派なお部屋に通されたのです。でも、なんだか悪趣味ね、きらきらし過ぎて落ち着かないわ。
「とりあえず桜、今のうちに確認しておくが」
「え、あ、はい」
珍しく、真面目な声の猫さんなのです。思わず桜がかたい返事をしちゃったのも、無理のない話なのよ。
「……王様から褒美をもらったら、それは山分けでいいかな? 」
「あぁー! もうっ、どうして猫さんは! もうっ、もうっ! 」
泣きそうな顔で、猫の肩をポカポカ叩く桜だったのですが、いつの間にか開いた部屋の扉から、銀髪の女の子が覗いているのに気づき、その手を止めるのです。誰かしら、可愛い子ね。
「んんっ……あら、どうしたのですか、私たちに何かごようかしら」
小さい子相手に、精一杯背のびした受け答えの桜なのです。うーん、たった今、恥ずかしいところを見られたばかりだもの、説得力がないわよね。
「わたしを、たすけて、未来のわたし、お空にあるものは、みなここにあるの」
「ほほう、謎かけか? 生意気な奴め、いいだろう相手になるぞ」
猫さんは、問答無用で女の子を担ぎ上げたのです、銀髪の女の子の小さな体をくるくる回すなんて、みずへび退治より簡単なのよ。
「お待たせいたし……ひ、姫さま! 」
がちゃりとドアを開けた大臣が、目玉を飛び出させたので、猫と桜は、また兵隊さんたちに囲まれて、縛られたまま王様に会うことになってしまいました。
なんだか、締まらないわね。
縛られてるのにね。
わはは