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雪の女王の王女  作者: 遅杉田盆栽
3/15

そのさん

 猫と桜は、トコトコと大きな道を歩いていました。もう、どんぶらこはできないのね、少しさみしいわ。


 冷たい冬の川に落とされた桜は、裸にされて、猫のマントをすっぽり被っています。なんだか、てるてる坊主みたいで可愛いの。


 すごく寒そうに見えるけど、こんな格好してても風邪はひかないわ、だって桜はまじない師だもの、とっても便利なおまじないで、てるてるの下はあったかいのよ。


「はくしゅん」


 そうでもないみたい。


「大丈夫か桜、そんな格好で」


「すこし温度を上げたから、平気です……心配してくれたのですか? ありがとうございます」


 赤くなって照れる桜は、そもそも誰のせいでこんな目にあっているのか、忘れてしまったのでしょう。桜はちょっと、簡単すぎるわね。


「いや、そろそろ都につくから、恥ずかしくないのかな、と」


「誰のせいだと思っているのですか! 」


 あ、忘れてはいないのね。


 丘の向こうには、道の国の都が見えてきました、高い壁に囲まれた大きな街です、みっしりと詰まった赤いレンガの屋根が、壁の外にまであふれて広がっていました、教えの国の都より、ひとまわりもふたまわりも大きな街なのです。大都会ね、みんなのあこがれなのよ。


「でも、都の人達も冬が終わらないことに気付いてなかったら、どうしましょうか? 」


 ここに来るまでに、いくつかの村で聞いてみたのですが、やっぱり誰も知りません、みんな、何ヶ月たっても、今は十二月で、いつも通りの当たり前だと思っているのです。なんだか怖いわね。


「どうにも信じられないが、季節を変える女王様達がいるんだろう? そいつらに聞けば答えが分かるさ……まぁ桜は心配すんな、ぜんぶ俺に任せておけ」


 胸を叩いて笑う猫は自信満々です。こうみえて、教えの国で一番の騎士なんですって、人は見かけによらないわよね。


「猫さんは、もっと普段からやる気を出して下さい、そうすればお父様だって認めてくださるのに……七つの試練だって、まだひとつも終わってないのですよ……まさか私と、結婚したくないとでもいうのですか」


「今回ので、七つ分にしてくれないかなぁ、けっこう大きな仕事だと思うんだけどなぁ」


 どこかのんびりとした猫の答えに、桜はがっかりしました。やっぱり悪い男よ、女の子の気持ちをもてあそぶあくどいオオカミ猫なのよ。


「はぁ、もういいです……でもなんで今回は、こんな遠くまで来る気になったんですか? いつもなら面倒くさいとか言って嫌がるのに」


「そりゃ、みんなが困ってるからさ、竜の牙を抜いてこいだの、月のしずくをすくってこいだの、そんなくだらない事とは、違うだろ? 」


 なんでもないように、猫は言いました、でも、それを聞いた桜はとても喜んだのです。なんだ、いいとこもあるじゃない、見直したから七十二点にしてあげるわね。


 あ、でも悪い男には違いないのよ、だから、そんなうっとりしちゃダメ、まったく桜は簡単なんだから。


 ほら、当の本人は桜のことなんか見てないのよ、そっぽを向いて、道べりの立て札なんか見つめてるの、失礼しちゃうわね、こんな可愛い子を無視して、桜の胸なんか板と同じ厚みだ、とでも言いたいのかしら。


「とりあえず、街に着いたら城に向かうか……あぁ、いや、先に飯からだな」


 可愛らしく板を鳴らした桜を見て、猫は笑いながら言いました。そういえば、もうそんな時間ね。


 てるてる板の桜は、ポカポカと猫の背中を叩きながら、それでも早く早くと急かすのです。仕方ないわよ、食べ盛りだものね、でも、今のうちだけよ、あと十年もしたら、すぐにお腹がプヨプヨになっちゃうんだからね。


 あ、そういえば、猫はさっき何を見ていたのかしら、ちょっと気になるわね、どれどれ、へぇ、ほぉ。


 立て札には、こう書いてありました。


「ふゆがおわらぬとしるものはしろへこいほうびをとらすぞ」


 なにかしら、なんだかとっても面白そう!



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