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雪の女王の王女  作者: 遅杉田盆栽
2/15

そのに

 どんぶらこ、どんぶらこ。


 猫と桜を乗せたイカダは、大きな川を下っていきます。もう少し暖かい季節なら、素敵な眺めだったでしょうね、残念だわ。


「エバーさん、良い人でしたね、お弁当まで貰っちゃいましたし……道の国は、とても野蛮だと聞いていましたから、すこし、意外です」


 教えの国と道の国は、とても仲が悪いのです、昔から、お隣同士で何度も戦争してるからなのです。でもそれは国と国とのことだもの、同じ人間どうし、仲良くしなきゃ。


「そうだな、大きかったし」


 あ、これぜったい胸の事だわ、男ってみんなそう、いやらしいわ、やっぱり仲良くしちゃダメね、いやらしい。


「なんですか! 何か私に不満があるのですか! 言いたい事があるなら、はっきり言えばいいじゃないですか! 」


 桜は腕を振り回してぷりぷり怒りました。当然よね、こういうことは、ガツンと言ってやらないとね、男ってすぐに調子にのっちゃうからね。


「不満なんてないさ、桜はいつでも可愛いよ」


 あ、これダメな奴だわ、女たらしよ、あぁ騙されちゃダメ、なに赤くなってるのよ、ちゃんと見なさいよ、あいつ顔が笑ってるじゃない。


 桜は、良いところのお嬢様なのかしら、世間を知らないのね、流されやすい女の子よ、あらら、イカダの上なのに、目を閉じてしまったわ。


 なにしてるのよ、そんな簡単に許しちゃダメよ、危ないから、ほら、悪い男が近付いてきちゃったわ、桜を抱きしめて、ジャンプするのよ。


 んん? ジャンプしたわ。


 飛び上がった猫の足元、水の中から、大きなヘビがあらわれました、真っ赤な口を大きく開けて、勢いよく飛び出してきたのです。縄でしばっただけのイカダなんて、簡単にバラバラにされちゃったわ、苦労して作ったのに、かわいそうね。


「みずへびだな」


 猫がばしゃんと飛び降りたのは、バラバラになった丸太の上でした、猫は浮いた丸太を転がして、上手にバランスをとるのです。まるで大道芸人ね、拍手拍手。


「うそ、こんなに大きいなんて、やっぱり精霊が暴れてる」


 肩に担がれた桜は、太ももの間に手を入れられて少し暴れましたが、すぐに諦めたのか、大人しくなってしまいます。非常事態だもの、恥ずかしがってちゃダメなのよ。


 大きなしっぽで川を叩いたみずへびは、頭を上げて今にも噛み付いてきそうです。人間なんてぺろりと丸飲みにしちゃう大きさよ、丸太の上でどうするつもりなのかしら。


「こんなの、丸飲みにされちゃいますよ! どうするんですか、丸太の上で! 」


 あら、桜もそう思う? 気が合うわね。


「とりあえず、されちゃおうか」


 くるくると丸太を足で転がしながら、猫はみずへびが大きく口を開けたところに、なんと桜を放り込んだのです。


「えぇっ!?」


 なにか、信じられないようなものでも見たのかしら、桜の目はドングリみっつぶんくらい大きく開いたの。


 ぱくり。


 大きなみずへびは、桜をぺろりと飲み込みました。さよなら桜、悪い男を信じるからこうなるのよ、でも、お腹の中なら寒くはないわね。


 可愛いご飯をいただいたみずへびは、上を向いて桜を飲み込もうとしました、でもその瞬間に、腰の刀を抜いた猫が、その首を、すぱっと切り落としてしまったのです。なるほど、美味しいものを食べて油断しているところをねらったのね、やっぱり悪い男だわ。


 輪切りにされたみずへびの喉から、すぽんと桜が出てきました、冬の川に落ちた桜は、真っ赤な血とみずへびのよだれで、身体中がぬるぬるとしています。


 おかえり桜、なんだか汚いし、くさいからよく洗ってね。


「……猫さん」


「大丈夫か桜、飲み込まれてしまったときは心配したぞ、でも良かった、すぐに洗ってやるからな……臭いし」


 猫は、ワハハと笑いましたが、桜の目はひえひえです。当然よね、ヘビの餌にされかかったのだもの、こんなの愛想をつかされてもしかたないわ。


 でも、服を洗って、その白い肌をほめられながら身体を拭いてもらうと、すぐに桜はご機嫌になってしまうのです。


 うぅん、素直なのは良いけれど、なんだか心配になっちゃうわね、お母さんってこんな気持ちなのかしら。


 お父さんかな?


 なんだか楽しくなってきちゃった、このさいだもの、桜がお嫁に行くまで、みていようかしら、なんてね。



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