そのじゅーさん
猫と桜は、いつものお部屋でお茶を飲んでいました。ううん、くつろいでるのは猫だけね、桜は腕組みして窓の外を見ているの。
「そろそろ、始まりますね」
「そうだな」
祈りの塔では、新しい女王様をお迎えする儀式の準備をしています。聖杯に雪を満たして、王女様が飲み干すんですって……大丈夫かしら、なんだかお腹こわしそうね。
「……猫さん、他に方法は無いんです、分かってください……私だって……」
「俺は分かってるよ、納得してないのは桜の方だろう? 」
お砂糖を入れてない赤いお茶は、猫の好みに合うのかも知れません、昨日から猫はこればかり飲んでいます。でも知ってるわよ、こっそりお酒を入れてるでしょ、騙せてるのは桜くらいよ。
「……道の国で決めた事です、私に口は出せません」
「これだけの大ごとだ、皆が納得して、すっきり解決、とはいかないさ」
猫の、いつもののんびりした口調に、桜は腹を立てました。わかるわ、男っていつもそうよ、ひとにやきもきさせるだけで、自分からはなーんにもしないのよ、桜、言ってやんなさい。
「どうして、そんな平気な顔していられるんですか! 猫さんだって、王女様のこと可愛がってたじゃないですか! ……妖精の女王様の力なんて注いだら、人の心は耐えられません……もう、元の王女様ではなくなってしまうのです」
ほろりと、桜の目から涙がこぼれました。
「そんなの……かわいそうです……どうにか……どうにかなりませんか……言ったじゃないですか……猫さん言ったじゃないですか、俺に任せとけって」
桜は顔を手でおおって泣き始めます。ちょっと、なんとかしなさいよ、男でしょ、塔を壊してやるとか言って自信満々だったじゃない、お願いよ。
「……じゃあ、やるか」
「ふぇ? 」
赤いお茶を飲み干して、猫は立ち上がりました、腰に手を当てて、のびをするのです。
「いやー、実はな、流石に迷ってたんだ、桜の手前、国同士のいざこざにする訳にもいかないだろう? だから珍しく自重してたんだが……いとしのお姫様から許しがでたんだ、もう遠慮はいらないな」
わはは、と猫は笑います。あれ? ちょっと何する気よ、なんだか不安になってきたわ、ほら、桜の顔がみるみる「しまった」って感じになってるじゃない。
自慢の刀を腰に差して、猫は歩き出すと、客間の立派な扉を蹴破りました、大きな音を立てて転がった扉を見て、外にいたメイドさんが悲鳴をあげます。
「これは景気付けだ、行くぞ桜、遅れるなよ! 」
「ち、ちょっと、まって! せめて何をする気なのかを……」
駆け出した猫の後ろを、桜が慌てて追いかけます。あーもうしっちゃかめっちゃかよ、でもいいわ! 許します! このさいどーんとやっちゃいなさい。
きっと大丈夫だから、私がみてるもの。




