そのじゅーに
あったかい赤いお茶をすすりながら、そよ風の女王は鼻を鳴らします、真っ赤になった目で、小さく震えているのです。少しは落ち着いてきたかしら、早く話して欲しいわ、なんだかウズウズするのよ。
「……姉様は、空に溶けてしまったの……」
ぽつりぽつりと、そよ風の女王様が話し始めました。やっぱり末っ子だけあって小さいわね、くるくるふわふわの金髪が可愛らしいわ。
「どうして、こんな事になってしまったの? 」
日差しの女王様は、相変わらず優しい声です。不思議ね、顔は怖いのにね、きっと不器用なのかしら、でも「こんな事をしたの? 」と言わないあたり、猫や王様より大人よね、年の功なのよ……あ、ごめんなさい。
「……姉様から、聞いたの、王女様が、姉様の子どもだって……だから……」
全員は、一斉に王様を見ました。まさかなのよ、やっぱりドロドロの人間関係だったのよ、いやらしい。
「ま、待て、違うぞ! わしは何もしていない! 」
王様は立ち上がると、お尻を引いて両手を振りました。何それ、かっこ悪いわ、素直にゲロッちゃいなさいよ、楽になるわよ、国のお袋さんも泣いてるのよ。
「……だって、ぐすっ、姉様が、とっても幸せそうな顔してたから……あんな顔、わたしは見た事ないもの、ずるい……」
ぶるぶる震えて、そよ風の女王様は、また目に涙を浮かべるのです。あら? そっち? お姉ちゃん子だったのね、そうか、今まで可愛がられてたのは、自分なんだものね……妹が産まれたお姉ちゃんが、お母さんを取られた的なジェラシーだったのかしら。
「それで、雪の女王はどうなったんだ? 」
冷たい声で猫は言います、桜がお尻を叩きました。もう、猫は口を出さないで、そんな言い方じゃ、またこの子が泣き出しちゃうわよ。
「……分からない、ちょっとだけ、ほんの少しだけ、脅かすつもりだったの……でも、扉を開けたら、中から雪が吹き出してきて……閉めようとしたの、でも、止まらなくて、とまらなくて……」
とうとう、そよ風の女王様は泣き出しました。日差しの女王様と、芋の女王様が、その小さな背中をなでてあげます。
「妖精の女王様は、私たち人間よりも、精霊に近い体をしていますから、たぶん、あの扉の中では、体をばらばらにして、魔力だけの存在になっていたのだと思います」
「それは、どうなんだ、戻せるのか? 」
桜は首を振りました、少なくとも、桜に出来ることは、なにもないのです。ううん、私がいたら、ぱぱっと解決しちゃうのに、もどかしいわ、やっぱり体、欲しいなぁ。
「分かりません、せめて、器があれば、そこに力を注いで……」
そこまで言うと、桜は、はっとします、何かに気付いたのでしょうか。なに? なんかイイ方法があるの? ケチケチしないで言いなさいよ。
「……それも、ひとつの方法ですが……」
「ダメ! 姉様が本当に消えちゃう! それだけは、絶対にイヤ! 」
日差しの女王様が目をふせると、そよ風の女王様が立ち上がって大きな声を出しました。
「お前は黙ってろ! ……なんだ、何か方法があるのか? 」
猫が怒鳴ると、そよ風の女王様はまた小さくなります。ちょっと、猫は大きな声出さないでよ、女の子とは迫力が違うんだから、なんだか怖いわ。
「……王女様に、雪の女王の力を集めて与えれば……新しい女王を生み出せば、終わります……この冬は」
芋の女王様が、皆を代表して、言いました。
少しだけ、辺りが静かになったわ、しん、としちゃうわね。
「やります、わたし、やります」
こぶしをにぎって、王女様が、まったく迷いなく言うものだから、王様も、他の皆も、口を出すことが出来ませんでした。
「……他に方法は無いのか? 」
最後に、猫が聞きました、皆を見て、聞きました。
「分かりません、でも、全てを元に戻すなら、これしかありません……」
やっぱり、雪は降りやみません。
窓の外には白いじゅうたん、少しづつ、埋めてゆきます。
明日起きたら、世界は真っ白になるでしょう、そうなれば、あとはもう、積もるだけなのです。
窓の外には白いじゅうたん。
綺麗だけど、ちょっと冷たい。
さて、どうしましょうか。




