そのじゅーいち
こんこんこん
空は灰色、雪は白
こんこんこん
わた雪つもる、ふかふかじゅうたん
こんこんこん
とってもきれいね、でも、どうして泣いてるの?
こんこんこん
これはノックよ、責めてないの
大丈夫、帰ってきたから
「雪の女王は帰ってきましたよ、だから、お願い、ここを開けてちょうだい」
祈りの部屋の扉の前で、日差しの女王様は、優しい声で語りかけました、隣には芋の女王様と、なんと、塔の中にいるはずの、雪の女王様。
でも、扉の中から返事はありません、三人は少し下がって待ちました、鍵穴から見えるように、雪の女王様の姿が、中からも見えるように。
「……姉様? 」
ちいさな、ちいさな声が聞こえてきました、少し震えて、とてもかすれたちいさな声でした。
まだ、扉はひらきません、だから三人は待ちました、今日は日が暮れるまで待つと、そう決めていたのですから。
きぃ
そのときです、ほんのわずか、重そうな木の扉が開いたのです。
やったわ! 扉が開いたの、作戦が成功したのよ。
でも次の瞬間、扉が内側に大きくはね開けられました、猫の仕業なのです。ああっ、なんて乱暴なのかしら、扉を蹴飛ばしたのね、誰だか知らないけど、中にいた子が扉にぶつかって転がっていくの、痛そうなのよ、かわいそう。
「猫さん! 」
どこから現れたのか、桜が悲鳴をあげました。大声を出したから、姿を消すおまじないが切れちゃったのね、王様の姿も見えてきたし、雪の女王様はみるみる縮んで、王女様になっちゃったわ、びっくりね、知ってたけど。
あれから相談した内容は、王女様をおまじないで大人にして、そよ風の女王様をだまそうというものでした。猫が言うには、中にいるのはそよ風の女王様ひとりきりなんだって、みなは半分しか信じてなかったけど、猫のカンは当たってたみたいね……私? 私は信じてたわよ、だって、見てきたもの。
「動くなよ、殺しはしないが、手足をもぐぞ」
倒れたそよ風の女王様に乗っかると、猫は腰の刀をのどもとに突きつけました。やだ怖い、目が本気なのよ、というか「もぐ」って何よ、なんだか生々しいからやめて欲しいわ。
「猫さん! 何してるんですか、乱暴はやめて」
桜はもちろん、二人の女王様も、王様も王女様も、猫に飛びつきました。あたりまえよね、まだ若い女の子を、コワモテが押さえつけてるのよ、なんだか犯罪っぽい絵面だもの、そよ風の女王様なんて鼻血がでてるじゃない、なんだかぐったりしてるし、かわいそうだわ、かわいそうよ、この野蛮人。
「ああ、もういい、分かったから離れろ……全く、お前たち、状況が分かってるのか? 何はともあれ、こいつの確保が最優先だろうに」
「だからといって、女の人に手荒な真似は見過ごせません! 」
桜は、ずいぶんと怒っています。これはアレね、身近な人の荒ぶってる姿を見るのは、なんとなく嫌な気持ちになるアレね、わかるわ。
でも、桜が怒るのも同じことじゃないかしら、これは後で説教ね。
「ちっ……話を聞く前に、二、三発殴っても許されるぞ、こいつはな」
猫のほうも、同じくらい怒っているようです、しぶしぶ、そよ風の女王様の上から退きましたが、まだ、ブツブツ言っているのです。もう、男のくせに神経が細いんだから、そんなんじゃ減点よ、昔の事はすっきり水に流して、彼女を許してあげなさい、二、三発殴ってもいいから。
「そよ風の女王よ、どうしてだ、なぜこんな事を……雪の女王は、どこにいるのだ? 」
猫が先に暴れたからかしら、普段は少し怒りっぽい王様だけど、優しい声でそよ風の女王様に聞いたのよ、ひょっとしたら、最初から、これが猫の狙いだったのかしら。
ですが、そよ風の女王様は泣くばかりです。涙と鼻血で顔中がくしゃくしゃなのよ、せっかく可愛いのに台無しになっちゃう。
「ね、怒らないから、ちゃんと説明して? あぁ、先にお茶にしようかしら、あなたの好きなクルミと干しぶどうのパンもあるのよ」
「……ごめんなさい、姉様ぁ……ごめんなさい」
日差しの女王様にすがりついて、そよ風の女王様は泣き続けました。ううん、しばらく落ち着かないわね、これは……というか、イモ女も何かしなさいよ、さっきから隣でうんうん頷いてるけど、あんたの方がこの二人よりお姉さんなんでしょ? この役立たず、胸だけ実り。
「……やまないな、雪」
「やまないの、だから、誰かが止めないといけないの」
今朝からふり始めた雪は、少しづつ、地面を白く染めてゆきます。
「今年は早いなぁ、なんて、教えの国の奴らも、最初はのんきに言ってたんだ」
なんとはなしに、王女様の頭を撫でながら、塔の窓から、猫は灰色の空を見上げました。
こんこんこん
涙も雪も、止まらない
あやしてあげましょ、抱っこして




