そのいち
むかしむかし、あるところに、ロディさんと、エバーさんが住んでいました。
ロディさんは山へ柴刈りに、エバーさんは川へ命の洗濯に行きました。
旦那さまにだけ働かせて、じぶんはリバーサイドでのんびりティータイムするつもりなのね、いやらしいわ。
とはいえもう十二月です、本格的に寒くなってきた「道の国」、エバーさんは新調したばかりの可愛らしいコートを着込んで、近くの川に向かいました。
近所の奥様方と、ひとしきり、たわいのない井戸端会議に花を咲かせた後で、エバーさんは川面に釣り糸を垂らします。なんだ、ちゃんと働くのね。
そうして、お日様が頭の上にやってきた頃には、バケツに一杯の岩魚が釣れていたのです。
そろそろ帰ろうかしらと、釣り名人のエバーさんが、アラサーになって少しだけ、ほんの少しだけプヨプヨしてきたお尻を持ち上げると、エバーさんの前に、大きなモノが、どんぶらこ、どんぶらこ、と流れてきたのです。
エバーさんは驚きました、なんと目の前に流れてきたのは、丸太を縛っただけのイカダだったのですから。
「なぁ、そこの可愛いお嬢さん、ちょっとお話していかないか? 」
イカダを岸に寄せて声をかけてきたのは、黒いジャケットを着た、黒髪の若い男の人です。顔に傷があるせいで、ほんの少しだけイケメンかもね? というくらいの七十点さんよ。
「なんで、ナンパみたいな言い方するんですか! ……すみません、私たち都に行きたいのですが、道を教えていただけませんか? 」
こちらは礼儀正しそうな女の子ね、長い黒髪をポニーテールにして、薄茶色のコートの下には赤いミニスカート、生足で寒くないのかしら、若いっていいわね、首に巻いた白い毛皮がとってもお洒落な、この可愛らしいお嬢さんは九十点くらいかしら。
二人は、「猫」と「桜」と自己紹介しました。挨拶は大事よね。
そしてエバーさんは、またまた驚いたのです。だって、二人は北にある「教えの国」から来たって言うんだもの。
「こんな時期にそんな遠くから、お山を越えて、何しに来たんだい? 冬のお山には、白い悪魔がたくさん出るんだよ」
エバーさんのおじいさんも、そのまたおじいさんも猟師をしていましたが、みな冬の山で死んでしまったのです。
「まぁ、悪魔は大したことないさ、それよりもあんた、今年の十二月は……何ヶ月続いているか、知ってるかい? 」
「ばかにしないでおくれよ、これでも若い頃、ちゃあんと学校に行ったんだから……ひとつヶ月の、半分くらいだよ」
エバーさんは、得意げに胸を張りました。昔は、クラスで一番の大きさだと言われていたそうよ、きっと、栄養がぜーんぶ、胸に行っちゃったのね。
「……猫さん、やっぱり」
「うーん……なぁ、お嬢さん、今年の十二月は「何回め」か分かるかい? 」
エバーさんには、分かりません。だって、そうでしょう? 十二月は、十二月なんだもの。
ちょっと、なに言ってるのか分からない、といった顔を見せているエバーさんに、黒髪の猫が、ぐいっと顔を近づけて言うのです。ちょっとだけ、ドキっとしちゃうわね。
「お嬢さん、悪い事は言わない、今のうちに、食べ物もマキも、ありったけ集めておきな……もうすぐ、北から冬が来る、今のぬるい寒さじゃない、本当の冬が来る……今年の十二月は、もう、六ヶ月も続いているんだ」
猫と桜は、教えの国から、それを調べに来たそうなの。
道の国の都には、この世界の季節を変える四人の女王様がいるから、きっと、その人達なら、何か知っているはずだろうと考えたのよ。
何だか、少し面白そうね、ふきんしんかしら。
でも、最近ちょっと退屈だし、しばらくこの二人の旅に、ついてってみようかしらね。