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花ひらひら  作者: 柊ゆうか
4/9

可也斗 1 なにやってんだよ!!

「なにやってんだよ…」


(あれだけ、着物を着ろって言ったのにな。それとも本当にアイツはそういう商売してるのか?)


「だったら、俺の方がなにやってんだよって感じだよな」


(…けど、そんな感じしなかったんだよな)


「ただの馬鹿か?」


雪野を探すのはそう難しくは無いと高を括っていた。

あんな格好で彷徨けば、絶対に人の目に付くし騒ぎにでもなっているかもしれない…そう思っていた。


なのに見たって奴は居ても本人が見つからなかった。

日が暮れ初めても見つからない事に段々焦ってくる。


(これだけ探しても見つからないってことは…そういう事だよな?)


そう思うと残念に思っている自分がいる。


(なんでがっかりしてるんだよ…俺は)


諦めてそろそろ帰ろうかと思い始めてしまう。


(そもそも普通に家に帰りついているかもしれないだろ?っていうかその可能性の方が大きくないか?)


「マジでなにやってんだって感じだな……はぁ。あの辺りまで行って帰るか」


町から離れた辺りは畑が広がっていて、夕暮れ時の今、人はいない。

そんな畑の一角、道沿いの少し小高い場所に一本の木が揺れていた。


何となく見つめるその木の下に、小さな影が見える。

それは距離が近くなるとうずくまっている人のように思えた。


(…っ!!)


見覚えのある姿に慌てて走り寄ると、確かに雪野だった。


「おい!お前!!―雪野!おい!」


(こいつマジでなにやってんだよ!!)


抱き起こして見れば体のあちこちに擦り傷を作って血が滲んでいた。


「――雪野!!」






誰かが呼んでる。


(爺様?)


『こりゃ!!いつまで寝とるんじゃ!!起きんか雪野!!』


なんだ、爺様か…


「――きの!!」


(あれ?やっぱり違う?誰だっけ…)


「雪野!!しっかりしろ!!」


うっすらと目を開けるとぼんやりと顔が見える。

それが男だということを理解すると、さっきの事が鮮明に思い出されて恐怖が込み上げてきた。


「いやぁぁ!!離して!!触らないで!!」


「お、おい!落ち着け!!俺だ!!」


「離して!!やめてぇ!!嫌!!やだやだ!!」


「――雪野!!!!」


ビクリと震える体を可也斗は苦しいくらいに抱きしめてくる。


「落ち着け、俺だ。可也斗だ…分かるか?」


「か、やと?」


「ああ。…はぁ、なにやってんだよお前は」


耳元で優しく言われて、落ち着きを少し取り戻した私は、顔を見ようとゆっくりと体を離した。

それに合わせて可也斗も腕の力を緩めてくれる。


可也斗の腕の中で見上げると彼も私を覗き込むようにして目が合った。


(あ、本当に可也斗だ…)


短い付き合いだけど、知っている人に会えたのには少しだけホッとした。


「…なんで?どうして可也斗がいるの?」


「お前を探しに来たんだ」


「なんで?」


「勝手に出ていったから」


「…ごめん。でもいたたまれなくて」


(あんな疑いの目で見られたら…)


そう言うと隠れるように俯いた。


「お前なにやってたんだよ?帰ったんじゃなかったのか?」


「ほんとう…なにやってるんだろ~」


「はあ?」


「自分でも良く分からない。家に帰りたかっただけなのに…外に出たら知らないとこだし。歩いてたら知ってるとこに出るかなと思ってたら、空にでっかい蓮の蕾浮いててワケわかんないし、人に聞こうとしても何故か叫んで逃げるか、変な目で見られるし」


「まあ、そうだろうな」


(コイツ分かってないのか?)


「なんで!?変な男の人に買った!とか意味わかんない事言われて手首捕まれ、小屋の中引きずり込まれて襲われかけるし!!」


「それはまあそうなるだろうな」


(…それでさっきの反応か)


「だからなんで!」


(本当に分かってないのか!?)


「襲ってくれって言ってるようなものだろ?」


「えっ?理解できない」


(いや、俺の方が理解できない)


「その格好。俺は何度も着物を着ろと言っただろう」


「へっ?普通の……普通じゃ、な、い?」


(今、気付いたのか!?)


「女が肌を出して町中歩いてたら、そういう商売してると思われるな」


(……ショック!!)


(うわっ!!コイツ、マジで今気付いたのか!?…どういう育ち方してるんだよ)


「…気を、付けます」


「ああ。まあ、おっお前がそういう…その、商売してるなら、その…別に、止めないけどな」


(何を言ってるんだ俺は…)


「なっ!!してるわけないじゃない!!」


(馬鹿じゃないの!!)


怒って勢い良く顔を上げると目の前に可也斗の顔があった。

少しでも動けば唇が触れてしまいそうなほどの距離に、一気に顔が熱くなっていく。


(う、うわあぁぁ!!近っ!!…ってか私、今…可也斗の腕の中!?な、なんでこんな事に!?…って私が悪いのか!?)


(や、やべぇ。身動きできねぇ…ってなんでコイツ顔、赤くなってるんだよ!!俺まで照れるだろうが!!)


「あ、あの。ごめん!!」


慌てて押し退けるように離れると心臓がバクバクと激しく波打っていた。


(び、ビックリしたぁ。まだドキドキしてる…)


「お、おう」


(…助かった)


今だ波打つ心臓と赤い顔を落ち着けようと深呼吸すると、冷たい風が肺に入ってくる。


「クシュン!!」


(…寒っ!!)


「そんな格好してるからだろ…ほら、コレでも羽織ってろ」


バサッと可也斗がさっきまで着ていた衣を、頭の上から被せられる。

その衣の間から覗き見ると、可也斗の頬が少し赤い気がして少し可笑しくなった。


(可也斗も照れてる?)


そう思うとやっぱり可笑しくて、羽織りものを深く被ってこっそり笑ってしまった。


可也斗は羽織りものを頭から被って地面に座り込んでいる雪野の姿を眺めていた。


(…マジで帰らなくて良かった。傷だらけになりやがって…女が傷増やしてんじゃねぇよ)


「歩けるか?帰るぞ」


「えっ?」


(…どこに?)


(えっ?じゃね~よ)


「歩けないのか?……ほら、おぶされよ」


可也斗は私の前でしゃがんで背中を向けている。


「え、あ、あの…か、やとくん?」


(乗れと?…おんぶされろと!?…この年でおんぶは恥ずかしすぎじゃないですか!?)


「なんだよ、変な呼び方するなよな」


(何を動揺してるんだコイツ)


「ごめん、えっと帰るって…どこに?」


(そもそも家がどこにあるのか分からない…)


可也斗は呆れた顔で振り返った。


「はあ?送ってやるって言ってるんだよ!そんな状態で一人で帰れるのか?それともやっぱり男引っかけるつもりなのか?」


「違う!!そんなことしない!!なんでそんなこと言うの?」


(ここが何処かも分からない…認めたくないけど、ここは…日本じゃ…ない)


「おっおい、泣くなよ!悪かった言い過ぎた!ちゃんと家まで送ってやるから泣くなよ」


「だって…どうやって帰るの!私のうちはどこにあるのよ~!…帰ったって…」


(爺様はいない…)


(おいおい…まさかの迷子かよ!!)


「ほら、もう良いからおぶされって!考えるのは後で良いだろ」


私はびぃーびぃー泣きながら言われるがまま可也斗の背に体を預けた。

誰かにすがりたかったのかもしれない。


「…重い。―ぃってぇ!!アゴかっくんするんじゃねぇ!!落とすぞ!!」


ちょっとイラッとした。

泣いてる女の子に体重の事言うとかありえない。

なので、可也斗の頭上でアゴかっくんしてやった。

地味に痛くてダメージを与えてくれます。


「…どこいくの?…私を売るの?…妓楼?遊郭?商館?」


「お前なぁ…。俺がそんな薄情な奴に見えるのか?」


(大体、それなら探したりしてねぇだろうが……それにもったいねぇ)


「二千花がお前を気にしてんだよ。顔ぐらい見せてやれよ」


(二千花ちゃんが?)


玄関で別れた時、オドオドしながらも私を見送ってくれた優しい子。


「……できない。やっぱりここに捨てて行って」


「はあぁぁ!?なに考えてんだよ!阿呆か!馬鹿か!間抜けか!とんまか!それでその辺の野郎にヤられてボロボロなって死ぬとでも言うつもりか!!」


「ひ、酷い…そんなつもりないもん」


「じゃあどういうつもりだよ。どっちみち俺が見捨てたら、そうなるだろ!」


「………」


可也斗に強く言われて押し黙るしか無かった。

確かにここで見捨てられたらそうなるのかもしれない。


(でも、親切にしてくれた人達からあんな目で…あんな冷たい目で見られるの…耐えられない)


「…下ろして」


「断る!!俺はそんな薄情じゃねぇ!!」


「そういう問題じゃない!下ろしてぇ~!!」


「うるせぇ!!連れて帰る!!」


(うるせぇ~ってなによ~!!)


(何なんだよコイツは!!)


私を背負う可也斗の腕が強くなって、ますます下りられなくなってしまった。

ポカポカと可也斗の頭を叩いても、決して緩めてくれることはなく、それどころかちょっと痛かった。


とりあえず、私の心はぐちゃぐちゃで何をどうしたいのかも良く分からず、仕舞いには可也斗の首にしがみついて泣いていた。


「……何がそんなに嫌なんだよ」


しばらく黙って歩いていた可也斗がポツリと言った。

私は腫れた目を擦りながら観念するしかなかった。


「……目が」


(目?)


「私を見る目が凄く冷たかった…。疑うような、私が…まるで、敵みたいな…」


「……いつだ?」


「緑の物体食べた後…私が屋根で何してたんだって話の時…そんな事言われても私は屋根に上がった覚えもないし、爺様の巻物見てただけのはず…だったのに。気がついたら知らない家で寝てるし…可也斗に着物を着ろ~!!ってしつこく言われるし…いやそれは良いんだけど…あんな不味いご飯食べさせられて、爺様思い出して…悲しく、なる…し…ふっ、うぅ~じじさまぁ!なんで私を置いて死んじゃったのぉ!!」


(あ~なんか分かったかも…)


「じいさん最近亡くなったのか?」


私は小さく頷き、震える声で答えた。


「……三日前」


「そうか。悪かったな今朝の事はお前自身を疑ったわけじゃない。こっちにも色々あるんだよ。じいさんの事は残念だったな」


「…うん。でも…本当にあの目、…怖かった」


「悪かったよ。あいつらにも言っとくからとりあえず今日は家に来いよ。いいな?」


「…うん、グスッ……可也斗」


「なんだ?」


「グスッ…あんまり足、触らないで」


「下ろすぞ!!」


(俺が意識しないようにしてやってるのにコイツは!!)


「だって!こしょばいし恥ずかしい!!」


「まだ言うか!!」


(だあ~面倒くせぇ奴!)


「可也斗…」


「なんだよ!!」


(まだ文句あるのかよ!)


「……ありがとう」


「お、おう」


(急にしおらしくなるなよ…)


(なんか、眠いかも…)


疲れていたからなのか、可也斗の背中が意外に大きくて安心してしまったのか、とにかく急に眠くて仕方がなくて、そのまま私は可也斗に身を預けて意識を手放した。


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