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花ひらひら  作者: 柊ゆうか
1/9

掛け軸に落ちた先は…

このお話は読んでる方に選択してもらいます。

上から順番に読むと変になるかもしれないので、というか変になるので、初めは一人に絞って読んでください。

あと、多少金太郎飴になるのはご容赦くださいね。

出来るだけ金太郎飴にならないように頑張ります。

その日は雨が降っていた。

雨雲に覆われたどんよりとした空を、ただただ眺めていた。

頬を伝うのが雨なのか、自分の涙なのか…


…私を育ててくれた爺様が亡くなった。





心にぽっかりと穴が空いたように、すきま風が冷たく通っていく。


爺様の部屋を、一人で片付けながら辺りを見渡すと、まるでこの家まで泣いているように暗かった。


「爺様がいないだけでとても広く感じるのね」


何気なく止まってしまった手は、片付けを中断するには充分で、どこを見るわけでもなくさ迷う目線は爺様の姿を探してしまう。


コツン…


(…?)


足元に転がった物を拾い上げ、私は頭に?マークを浮かべた。


「巻物?掛け軸?…かな?」


『それを開いちゃいか~ん!!』


爺様の声が聞こえた気がした。


(…あ、そう言えば。)


子供の頃、爺様にイタズラしようとこの巻物を持ち出した事があったんだ。


その時の爺様は血相変えて走ってきて…


「…ぷっ」


そう、八十を超える爺様がそれはそれは物凄い勢いで走ってきて、巻物よりも爺様に呆気を取られたんだった。


その時はそれで終わったんだけど…


もう爺様はいない。


少し寂しくなる胸を押し殺し、巻物を開いてみる。


「ん~?何の変鉄もないただの絵ね」


水墨画とでも言えばいいのだろうか。

隅には爺様の名前が書いてあった。


(爺様が自分で描いた物だから見られるのが恥ずかしかっただけ?)


「な~んだ…つまんない」


隠すほどの事でもないのに、当時の私は十歳の子供。

何を期待していたのか、少しだけがっかりしている自分に苦笑しつつ、目から涙がこぼれ落ちた。


(開いたままの掛け軸に落ちてしまう!)


涙の雫は掛け軸に滲まず波紋を描いて消えた。


まるで水たまりに落ちた雨のように…


「えっ!?」


(目の錯覚?気のせい?)


好奇心からかあんなものを目にしてしまったからか、私は吸い込まれるように手が動いていた。


「えっ?えっ!?えぇ~!!」


ゴポッ…ゴポポ…


文字通り私の手は掛け軸に吸い込まれ…手どころか腕を引っ張れる感覚にズボッ!!と頭まで入ってしまい私の意識はそこで途絶えた。






「…???…なんか…頭痛い」


撫でた頭には何故か布のような物が巻かれてあり、コブのようなものまであった。


(片付けの途中で何処かに頭でもぶつけた?)


欠伸をしながらいつものように布団を畳もうと起き上がった時だった。


(あ…れ?こんなの私持ってたっけ?)


綺麗に掛けられた着物。


(風を通そうと出したんだっけ?)


爺様が亡くなってから、ぼぅとすることが多く何をしていたのかよく忘れることがあったけど…


「ん?んん?なんで私、服の上から肌襦袢着てるの??……えっ?ここ…どこ?」


私の家は良く言えば昔ながらの和風、悪く言えば時代錯誤なおっそろしく不便な家。

だからだろうか…


目が覚めた時、自室のように感じたのは。


(え~と…私は…爺様が亡くなって…遺品の整理をしていて…)


そこまで考えて、掛け軸に吸い込まれた事を思い出した。


「あ~!!あの掛け軸!!」


私の回りにはそれらしい物はない。


「…そもそも吸い込まれたとかないわよね?」


有り得ない。

どうせ掛け軸開いて寝てしまったか…頭にコブがあるから、物が落ちて来て気絶した所を様子を見に来た近所の婆様辺りが発見して連れ帰ったのだろう。


(そっそうよね!…たぶん。…人を探そう)


部屋の出入りは外に面した渡り廊下。


「時代劇みたいな造り…うちとどっこいどっこいね」


長い渡り廊下を何処と無く歩いていてふと気付いた。


(…汚い。ちゃんと掃除してるのこれ!)


振り返ると、私が歩いてきた跡が残っていた。


「足跡付いてるし…足の裏見るのが恐ろしい。人いるの?…ここ」


入り組んだ迷路のような家の中をさ迷い。

たどり着いた先は台所…乱雑に重ねられ、大量に積み上げられた洗い物。

長く使っていないであろう釜戸、煤と埃まみれの調理台。


「……ほんとに人いるの~?だれか~いませんかぁ!!」


お化け屋敷、廃墟のような状態の家の中で、さすがに怖くなってきて人の姿を求めて叫んでみた。


「だれもいないの~…」


心細くて目尻に涙が滲んだ時だった。


「あ~?誰かいるのか?」


眠そうな顔で頭を欠きながら姿を表したのは歳が近そうな男の子。


「人いた~!!あっあの!」


人に会えた嬉しさが勝って私はその男の子の手を取り握りしめた。


「良かったぁ…誰もいないんじゃないかと思って不安だったの!」


「おっ…おま…」


(おま?)


「なっ…ななな、なに考えてっ…!」


(???)


手を握られたまま、赤い顔で固まっている目の前の彼は、あからさまに目線を逸らしている。


「あっ!これ?気が付いたら着てて…ごめんなさい!あなたのだった?」


そう言って私は肌襦袢を脱ぎ出すと…


「うわあぁぁ!!!!何考えてんだ!!脱ぐな!!それでも女か!?」


「…?何慌ててるの?大丈夫だよ下に服着てるし」


私は気にせず脱いでいると…


「だあぁぁ~!!!!脱ぐなって言ってるだろ!!!!」


止めようとする男の子と脱ごうとする私。

取っ組み合いのような状態の時に…


「何を朝から騒いでいるんですか…はぁ。まったく貴方はもう少し落ち着きを……!?…可也斗どういうつもりですか?うら若き乙女をこんな汚く埃っぽい薄汚れた場所に連れて来て…そのような狼藉を働くなど!!」


「きょっ恭之助!?…誤解だ!!」


(あっ…他にも人いた)


「問答無用です!!貴方のその腐った性根を叩き直してあげましょう!!」


「だあか~らぁ~誤解だ!!ってお前も脱ぐなぁ!!!!」


「え?」


「え?じゃねぇ~!!!!」


「あ~お前ら何やってるんだ?」


(あっ!また人出てきた)


「錦!!貴方も言ってやりなさい!!可也斗が女子に狼藉を!!」


「違うつってるだろ!!」


(……う~ん賑やかな人達だなぁ)


服は来ているから全然問題ないんだけど…取り合えず肌襦袢を脱ぐのは止めておいた。


「あ~もうめんどくせえ!これ着てろ!!」


そう言って最初に出会った男子が、自分の羽織っていた衣を私の頭に脱ぎ捨てた。


「いらな…」


「着ろ!」


思いっきり睨まれて、私はそれを仕方なしに着るのであった。


そして、今さらだけど疑問を口にした。


「…あの、ここどこで、…す、か?」


私の言葉に三人の目線が集中して、一瞬たじろいてしまう。


「ここは俺の屋敷。あっ名前は東雲錦。こいつは弟の…」


「…東雲可也斗。言っとくが、それは俺のじゃねぇ!どう見ても女物だろう!」


少し不機嫌に言う可也斗に、私は一瞬(?)となったのだけど、直ぐにそれが肌襦袢の事を指しているのだと理解した。


「女物なのは分かってるよ?ただ貴方の家族の持ち物なら勝手に着てたのは悪いなぁと思って、それに変でしょ?脱ぐべきじゃ…」


「…ねぇ!!だいたい俺が着せるように言ったんだ!脱ぐな!!ってかそんな格好で彷徨くな!」


「いや…だから変でしょ!むしろ脱いでも問題ないでしょ!」


「問題あるわ!!」


さっきからどうも話が噛み合わない。

何をそんなに怒っているのか…

だいたい今は夏。

しかも最近は雨ばっかりでジメジメしてしょうがないんだし…こんなに何枚も着てられない。


(そう言えば、今日は涼しいな)


「まったく…可也斗、私の紹介も終わってないのに彼女にじゃれないでくれないかい?」


「じゃれてねぇ~!!」


「ま~可也斗はともかく、私は天羽恭之助。この妖怪が今にも出そうな汚い屋敷に居候している」


「は、はあ…」


「おや?足が汚れてしまっているね、大方人を探して屋敷を彷徨いたのかな?」


何故かジリジリと寄ってきて、顔を覗き込まれたので…頷いておいた。


(ちっ近い!!)


「可也斗、後で彼女に水を用意してあげなさい」


「はぁ!?なんで俺が!!」


「私の言う事が聞けないのですか?」


(なっなんだろう…今黒いものが見えた)


可也斗はムスっとしたまま押し黙ってしまい、錦さんは溜め息をついてから、恭之助さんを押し退けて頭を撫でてくる。


(なんなの…)


「良かったら君の名前を教えてくれないか?」


「あっはい。桜井雪野です。あの、なんで私はえっと錦さんのお家にいるのでしょう…」


「桜井?あ…雪野殿だね。まぁ、聞きたいことは色々あるだろうけど、取り合えず着替えておいで?」


「はあ、そうですね」


「可也斗、部屋まで送ってくれるか?俺は朝飯の用意するよ」


「…わかった。おい!こっちこいよ」


「あっうん。あのそれじゃあ失礼します」


「また後でね」


「じゃあね、雪野殿」


錦さん、恭之助さんと別れた私は、可也斗の後を付いて歩いた。


歩きながら私が彷徨いた所より、汚れていないことに気付いた…決して綺麗とは言えないが。


「この辺はまだ綺麗なんだね」


私が言葉を選んでそう言うと、可也斗は小さく息を吐いた。


「どこが綺麗なんだ。ま、お前が勝手に彷徨いた辺りよりは、だけどな」


「掃除しないの?」


「…時間がねえ」


「そうなんだ」


まあ、あんまり深く聞くのも悪いから話はそこで途切れ、私はぼんやりと庭を眺めがら後を付いていく。


(庭…綺麗)


さわさわと木々が葉を揺らし、柔らかな風が肌を撫でていく。


「……んにちは」


「あ?なんか言ったか?」


「うっううん!なんでもない!」


(…あ、あぶない…思わず声に出てた。気を付けないと)


「いつまで突っ立ってんだよ、置いていくぞ?」


「あっ!待って!」


私は庭をもう一度見つめた後、可也斗を追いかけた。


「走るな!!女だろう!」


「なんで!?女でも走るでしょう!っていうか可也斗が待ってくれないから!」


「いきなし呼び捨てかよ!」


「だって同い年くらいでしょ?」


「…十八。」


「ほら!同いじゃん!私のことも雪野でいいから!」


「…別にいいけど」


「……?なんで顔赤いの?」


「うるせ~!!さっさと着替えろ!」


「えっ?あ~着いた!」


いつの間にか私が始めに目覚めた部屋の前に立っていた。

取り合えずさっさと脱ごう。


「あれ?可也斗どこいくの?」


「水!!汲みにいくんだよ!俺が居たら不味いだろ!」


「???別に構わないよ?」


「俺は構うんだよ!!ってかお前も気にしろ!!……なんなんだよこの女…」


可也斗はぶつくさ言いながら部屋から離れていった。


(…わからん…なんで怒ってるんだ?)






一方その頃、錦達は…


「ところで錦、先ほどはよくもさりげなく私を押し退けてくれましたね」


「お前が近付きすぎて雪野殿が困っていただろう」


「そう言う貴方は彼女に気安く触れていましたけど?」


「あ~まぁ、ついな。あいつらにいつもしている感じになっちまった」


「本当ですかね?下心があったのでは?」


「それはお前の方だろう?」


二人の思いを表すかのように釜戸の火は燃え上がり、かき混ぜる鍋の中身は怪しげに煮えたぎっていたのであった…

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