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プロポーズ、再び。

ゴッツいおっさんから諭されて、不満そうな顔でうつむいたライラさん。ツンと顔を上げたかと思ったら「冒険者の方って随分と見栄っ張りなんですね」と呟いた。あくまでも自分のせいではないと言いたいんだろう。


「ま、この街にゃあSランクはカルーだけだが、他の街にゃあもうちょいいるもんさ。行けねぇ頂きじゃねぇ」


へぇ、そうなんだ。それでも冒険者としてはエリートなんだろう、かなりの高みにいるんだろう事だけはわかる。やっぱりカルーさん、凄いんだなぁ。


「そんな情けねぇ事言う野郎にゃあんたからもハッパかけてやってくれや。美人に言われりゃちったぁ気張るだろうよ」


そう言って苦笑するおっさんに、ライラさんがちょっぴり頬を膨らませて何か言い返そうとした時だ。




「居た!ガラドさん、大変だ‼‼」


若い男が叫びながら走ってきた。

あ、あの人確かギルドの受付で見たことあるな。


「どうした」


おっさんが振り返る。あんたがガラドさんなのか。


「カルーがヤベエもん狩ってきやがった!」


あ、カルーさん帰ってきたんだ。

それにしても何狩ってきちゃったんだか。この人若干青いんだけど。


「すぐに解体して『クラ』っちゅう居酒屋?に運べとか言うんだけどよォ、とにかく量がハンパねぇんだ!全然終わんねぇよォ」


手伝ってくれと、おっさんをぐいぐい引っ張っている。

でもさ、ちょっと待て。『クラ』って俺の店だろ!ヤバいのって何⁉量がハンパないって何持ちこもうとしてんの⁉


「へぇ、そりゃ面白そうだ」


「え、ちょっと待……」


立ち去ろうとしたおっさんを呼び止めようとした瞬間。


「あっ、クラちゃん!」


ヤバい物を大量に俺の店に持ちこもうとしているらしい、件の人が現れた。


「なんでこんなトコ居んの……?」


カルーさんは呆然と俺を見ながら呟いているが、それはこっちが言いたい。ていうか、言いたい事が色々ありすぎて処理できないくらいだが。


「おうカルー、お前さん面白そうなモン持ちこんだらしいなぁ」


どれから言おうか迷ってるうちにおっさんに先をこされてしまった。


「うん!アタシやったよおっちゃん!これでクラちゃんに正式に……」


言いかけて俺の顔を見る。ポッと恥ずかしそうに顔を赤らめてうつむいたカルーさんだが、その腕には黒々としたなんか爬虫類っぽい巨大なしっぽが抱えられていた。しかも今日は何故だかシックなタイトスカートで、いつになくメイクまでしているもんだから、腕に抱えた巨大しっぽとのギャップが凄い。


「おう、さっさとしねぇとあの姉ちゃんに先こされるぞ」


おっさんがニヤリと笑って顎を向ける先には、ポカンと口を開けたライラさん。ライラさんが唖然とした表情で見ている先には、ギルド方向から大量の肉を積んだ荷車が列になって進んで来ている。


あの先頭の荷車。


なんかシャレにならないのが乗ってるんですけど。



「ド……ド……ド……ドラゴン……?」



ヘナヘナと、ライラさんが座り込む。

気持ちは分かる。だって、なんかすげぇでかいドラゴンの頭が、こっち睨んでるんだよ!


「クラちゃん!」


「はい⁉」


いつの間にか、カルーさんにがっつり両手を握られていた。


「アタシ、クラちゃんのために飛竜を狩ってきた!」


マジか!あれか、俺の店に持ちこもうとしてるヤバいヤツ!


「クラちゃんのためならアタシ、どんな獲物でも狩ってみせる!食材で絶対に苦労はさせないから!だから……だからアタシに、毎日美味しいご飯作ってください!」



え⁉あれ、俺のために?

あれ以来、姿見せないと思ったら、わざわざあんなすげぇドラゴン狩りに行ってたっていうのか?



「あ、アタシと……結婚、してください!」



真っ赤な顔で、ドラゴンのしっぽをバッと差し出すカルーさん。

耳もしっぽもピルピルと震えて、緊張がこっちまで伝わってくる。




プロポーズに、ドラゴンって。


なんだかおかしくなってきて、堪えきれずにまた俺は笑ってしまった。あり得ないと思うのに、なんとも彼女らしい。




『ねぇクラちゃんさぁ、マジでアタシの嫁にならない?』


酔って絡んで彼女が言ったあの言葉。最初に聞いた時には何の冗談だと思ったもんだが、今なら素直に信じられる。カルーさんはきっと、最初っから本気で言ってくれてるんだって。



またも俺の顔をマジマジと見つめている彼女に、俺は初めて意識して笑顔を向けた。


彼女の顔が、さらに真っ赤に染まる。

俺だって、そんなカルーさんを可愛いと思ってる。


「そうですね。俺がお嫁さんになるのは無理ですが」


少し意地悪を言えば、一気に耳としっぽが死んだように垂れ下がり、もはや絶望の表情のカルーさん。その感情表現の豊かさも、とても気に入っている。


そう、俺もカルーさんが好きなんだ。多分、すごく。

本当は普通にお付き合いしてゴールインが望ましいけど、プロポーズにドラゴン引っ提げてくるような破天荒な人が相手じゃしょうがないよな。


「だからカルーさん、カルーさんが俺のお嫁さんになりませんか?」


カルーさんが、信じられない、という顔で俺を見る。耳はシャキーン!と立って俺の息遣いまで聞き逃がすまいとしているようだ。観念して、俺も素直に伝えよう。


「俺もカルーさんが好きです。結婚、しましょう?」


俺はその日初めて、カルーさんから全力の抱擁を受けた。

うん、折れるかと思った。

読んで下さった方、本当にありがとうございました。


このお話がこんなに沢山の方に読んで頂けるとは思っていなかったので、驚くと共にとても嬉しかったです。完結したので感想欄も開けております。執筆活動に時間をあてたいのでお返事は書けませんが、ご自由にお書きください。


ありがとうございました!

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