第一話 prodigiumの箱
磨師連載中にも関わらず、ああ、書け書けと。
長い間、あたためてた作品です。
磨師とは違った世界観をどうぞ!
アコをよろしくお願いいたします!
「アコ・グラース・サンジェルマン・ベルナリオル!」
私を第一声目、必ずフルネームで呼ぶのは一人だけ。
「ベルナリオル家のお嬢様が何の用です?」
ミス・ニコルが不機嫌そうに眼鏡のテンプルを上げながら言う。
「あの、外泊許可を頂きに上がりました。えへへ。」
アコは首を亀のように引っ込めながら言う。
「ンマアッ!呆れた!外泊だなんて!ふしだらな!貴女のお婆様が聞かれたら、さぞや悲しむでしょうね?私は、貴女をお婆様、いえ、理事長からよくよく教育を任されておりますのよ!」
「いえ、ミス・ニコル、外泊はお婆様の所なんです。」
アコが言うとミス・ニコルは声を荒げた。
「嘘おっしゃい!だったら何故、私を避ける様に動いてたのかしら?」
「だって、ミス・ニコルは話を聞く前に必ず怒るし。」
ミス・ニコルはその年齢は四十代、
細身に長身で神経質そうな顔をした眼鏡の学長である。
この学園は私、アコの祖母[メリル・サンジェルマン・ベルナリオル]が理事長を勤める全寮制の高校である。
「まあ、そんなわけなのよ。あはは。でね、今日、決行するわ♪」
「諦めろ。退学になるぞ。」
軽くいい放つアコに冷たく感情の無い顔で答える、眼鏡をかけた男。
彼はヤナセと呼ばれていた。
「第一、アコの父が持っていたと言う、prodigiumの箱も存在すら、怪しいものだ。」
「ヤナセ、とにかく私は決めたから!あなたの手助けなしでも大丈夫だから!」
アコは強く言い放った。
事の始まりはアコの父が亡くなった事だった。
アコの父は考古学者でイギリスのオックスフォードで研究を続けていた。
研究論文に没頭するあまり、自分が病魔に蝕まれているにも関わらず、病院にも行かなかった。
そして命を落としたのだ。
アコは研究一筋で母をほったらかしにした父を恨んでいた。
そんな父が残した形見の品の中にprodigiumの箱があったのだった。
箱の存在を知ったのは、父の助手をつとめていたMr.バロウズが生前箱を見せられていたからである。
❲父の研究室❳ 現在バロウズの研究室
「prodigiumの箱は歴史的出土品ではありません。ギリシャで最近、作られた大理石の箱で…。先生は何故かラテン語で奇跡の箱と呼んでいたんですよ。一度だけ見せてくれたんです。私に何かあったら、娘に渡して欲しいと言って、いつも引き出しにしまっていたのですが…。」
バロウズはそう言ってアコとヤナセの前にに紅茶を置いた。
「ありがとう。」アコはそう言って一口、口をつけた。
「歴史的価値は別として、何故箱は行方不明に?」
ヤナセは相手の目をじっと見て冷たく言った。
「それはわかりません。ただ、気になるのは、ある論文をお書きになられていたんです。これは歴史的新発見だってね。ですが、ある日、書いていたデータをすべて消してしまわれたんです。」
バロウズはそう言って溜め息をついた。
「助手のあなたも父の論文の内容は知らないのですか?」
アコは眉を潜める。
「はい、残念ながら。わかっているのは、先生はアンデス文明に打ち込んでおられました。が、その型破りで破天荒な振る舞いから学内の教授逹から異端視されておりまして、私は資金ぐりに困る先生の活動のため、コミュニティ考古学に…。」
バロウズが途中まで話すと、それを邪魔するかのようにヤナセが言う。
ヤナセはティーカップに口をつけずに置いた。
「アコ、口をつけるな!Mr.?あなたはいつも先生にティーをだされていたんですか?」
バロウズが何を言われているか、分からないと言った様子
「カップから微量にイパナシュスの香りがする。」
ヤナセは鋭い目付きで睨むように言った。
「イパナシュス…別名イカロスの羽根。一部の古代ギリシャ人が治療のための麻酔薬として使われたとする薬草。微量なら体外に排出され、毒物としての検知が難しい。常用すれば肝機能障害などを起こし死亡する。」
「Mr.バロウズ?あなた、アコの父にこれを飲ませて自然死に見せかけ殺害した。そして箱を奪った。違いますか?」
「何て事!先生を殺した?ふざけないでくれ!」
バロウズは真っ赤な顔で激怒した。
❲オックスフォード大学研究室❳
「ペイトン・サンジェルマン・ベルナリオル」アコの父いわく
「歴史教育の分野において。ペルーでは日々、歴史の教科書を塗り替えるような新しい発見がたくさんある。。最近の研究では、約1000年前の人々と、同じ場所に暮らす現代の人々との間には明らかな遺伝的な繋がりがあることも明らかになっているんだ。面白くないか?」
「歴史的事実や新発見などは直接的金銭につながるメリットはない、医学の発展や科学にも影響は少ない。開発にも繋がらない。だから、国や行政機関の理解力は乏しい。大学側も大胆な発想力は控え目で保守的だ。しかし、そこからは、なにも生まれないんだよ!あと一歩だって時に資金を打ち切ったりする。」
「そんな事をよく言われてましてね。」
父をよく知る、ミス・クレアは若く、美しい女性だった。
ボランティアで発掘などを手伝ったりしていた事もあるという。
「バロウズさんですか?彼、先生を殺したり、あり得ませんね。先生のために金策に走ったり、広報活動に自分の研究時間を費やしていたほどですから。」
「ただ、エドワード・ハンス…。彼、何か知ってるんじゃないかしら?」
アコとヤナセはオープンカフェに来た。
「エドワード・ハンスか、あの日本人な。」
ヤナセが言う。
「日本人?おかしいじゃない!エドワードなんて!」
アコが言うとヤナセは呆れ顔で言う。
「知らないのか?有名な奴だ。ま、もっとも僕は興味ないが。
本名 江戸川範治
アコの親父さんの研究していたアンデス文明、インカ帝国の専門書の著者だ。」
「父と同じ…?」
「そう、キミの親父さんが調べてたのはおそらく、インカ帝国。まあ簡単に説明すると当時、インカ帝国の首都はクスコで、標高3,400m。マチュ・ピチュから、さらに千メートル程高い場所に、その首都があった。アンデス文明は文字を持たないため、この遺跡が何のために作られたのか、首都との関係・役割分担など、その理由はまだ明確にわかっていない。この辺が研究の対照とされ、発掘物からの研究がなされている。ミス・クレアの言う通り、アコの親父さんと同じ研究をしていた。まあ、江戸川は大学を除籍されていたらしいがね。」
「ヤナセ、あんた凄いね。」
アコが喜ぶように言うとヤナセは眼鏡を上に上げて溜め息をついた。
「ヤナセ、江戸川に会う必要があるわね!」
「横縞な感じがしてきたがな。」気付くと夜も更けてきた。
アコとヤナセは父の研究室に、一先ず戻る事にした。
しかしながら、今はバロウズの研究室で、彼を酷く怒らせてしまったので入れてもらえるか心配だった。
研究室のあるアパートのドアのチャイムを鳴らした。
しかし、返答はない。
すると後ろから不意に気配を感じ、二人は振り向いた!
アコ
ヤナセ イチジョウ