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INSIDER  作者: 一条一也
序章 或る兵士の反逆
1/2

第1話 カオリ・エヴァンズ①

 アリアス村は、旧ワシントン共和国領の中でももっとも辺境に位置する小村である。

 四方を山脈に囲まれた盆地はまさに陸の孤島で、村人約2000人はほとんど自給自足に近い状態で暮らしている。


 カオリは、この春、そんなアリアス村に駐屯兵として赴任してきた。


 見渡す限り、山、山、山。

 山の中腹を開いて建設された駐屯地にある監視塔から見えるのは、田んぼと民家しかない村と、どこまでも続く青い山脈だけである。

 カオリはため息をついた。


「エヴァンズ。交代の時間だ」

「レイトン団長」

「どうした。浮かない顔だな」

 先ほどのため息を聞かれていたようだ。

 レイトンはカオリの横に立ち、鼻から深く息を吸い込んだ。

「まあ、この大自然の壮大さを前にしては、ため息のひとつも出るだろうが」

「違いますよ」

「ぬ? 眼前に広がる青々とした大地の息吹に胸を打たれていたんじゃないのか」

「あたしは隊長と違って詩人じゃないんで」

 カオリの皮肉に、レイトンは苦笑を浮かべながら「冗談だ」と言った。

「おおかた、『なんであたしがこんな田舎に……』とでも考えていたんだろう」

「……なんでわかったんですか」

「お前は単純だからなあ」

 図星だった。


 カオリは帝都ファンダリオンの出身である。

 18歳で帝国防衛軍の兵士養成所に入り、通常5年間かかる養成課程を3年で修了。21歳にして養成所を主席で卒業し、今春から防衛軍所属兵となった、いわばエリート中のエリートである。

 誰もが、カオリは防衛軍最精鋭部隊である特殊作戦群"フェニックス"に入ると思っていた。

 他ならぬカオリ自身でさえ、そのことを信じて疑わなかった。

 だが、カオリが配属されたのは、帝都から数千キロも離れたアリアスの駐屯兵団だった。

 裏でどのような思惑が働いていたのかも今となってはもはや知りようもない。ひょっとすると、そんな裏事情などなかったのかもしれない。

 ともあれ、カオリは、帝国の中央から遠く離れたこの寒村で、ただただ平和な田園風景を監視するだけの日々を過ごすことになったのだった。


「養成所じゃさぞ優秀な成績を収めてたらしいじゃないか。そりゃ、お前にとっちゃ退屈だろうが」

 レイトンはアリアス村の駐屯兵団長だ。

 カオリが赴任してきてからの付き合いなので、まだ知り合って数ヶ月しか経っていないのだが、実に的確にカオリの胸中を言い当ててくる。

「知ったようなことを言わないで下さい」

 とはさすがのカオリも言えない。レイトンは上官だし、なによりその言葉は図星だったからだ。

「でもなあ、退屈ってのも悪かないもんだぜ。俺らが暇してるってことは、それだけ村が平和ってことだからな」

「この村が平和でも、この世界は平和じゃないですよ」

「世界とはまた……大きく出たな」

 レイトンは呆れ顔で頭を掻いた。

「別に大きくないです。あたしは、この世界を《奴ら》から守るために防衛軍に入ったんですから」

 カオリは悪びれもせず言う。

「団長だってそうでしょう」

「そりゃまあ、そうだけどよ」

「ですから、あたしがこんな田舎でくすぶってるのは世界の損失なんですよ」

「大きく出たな……」

「別に大きくないです」


 と、そこに1人の兵士が遅れてやってきた。

「悪い、エヴァンズ! 遅れちまった……って、団長? なんでいるんですか」

 兵士は気まずそうな表情を浮かべている。

 カオリとレイトンの会話はそこで打ち切りとなった。

「なんで、じゃねえだろ。当たり前のように遅刻してるんじゃないよ、お前は」

「す、すいやせん……」

「平和ボケしすぎですよ、ナッシュ先輩」

「うぐ……すまん」

 年下のカオリに叱られて、ナッシュは情けなく肩を落とした。

「で、団長。平和がなんでしたっけ」

「ああもう……わかったよ。お前を早く取り立てるよう上に申請しておくから、今はそれで我慢しろ」

「そうですか。ありがとうございます」

 カオリはニコッと笑ってから、踵を返し監視塔の階段を下りていった。


 その背中が完全に見えなくなったのを確認して、ナッシュが言う。

「なんすか、あいつ、こんなド田舎の寒村にはいたくないとか言ってたんすか」

「はっきり口にしたわけじゃないさ」

「カッ! お高く止まりやがって。ちょっと養成所での成績が良かったからって、調子に乗りすぎなんですよ。一回、根性を入れ直してやりましょうか」

「やめとけ。返り討ちにされるのが関の山だ」

「団長ォ……」

 ナッシュが送るジト目を華麗にスルーしつつ、レイトンは笑う。

「まあ、長い目で見てやれ。あいつだって暫くすれば、この村の良さに気づくだろうよ。エヴァンズはまだガキに毛が生えたような新米だ。自分が守ろうっていう『世界』がどんなもんかさえわかっちゃいない」

「え、あいつ、自分が世界を守るとか言っちゃってるんすか」

「話の腰を折るなよ」

 苦笑を浮かべるレイトン。視線の先には、アリアスの田園が広がっている。この高さからでは、農作業にいそしむ村人たちは米粒大にしか見えない。

「世界なんてものは存在しない。あるのは、人と、彼らの営みだけだ。この村で過ごしていくうちに、あいつもきっとそのことに気付く」

「……俺らには俺らの役目がある、ってことっすね」

「そういうことだ」

 レイトンはナッシュの肩にポンと手をおく。

「そして、役目を破った者には罰が下る。ナッシュ、遅刻した罰だ。今日のトレーニング、外周5周追加」

「団長ォ……」

 ナッシュは情けない声をあげた。


   ***


 昼食後の腹ごなしに駐屯地内を軽くジョギングしていたカオリは、路上におよそ軍事基地には似つかわしくないものが落ちているのを見つけた。

 子供用の野球帽である。

 罠の可能性も警戒しつつ拾い上げてみると、なんのことはない、それは本当になんの変哲もないキャップだった。

 だが、いったいなぜこんなところに。

 その疑問は、しかし、すぐに解決した。

 よく見れば、近くの生け垣の枝が乱れており、1ヶ所だけ不自然に膨らんでいる。ちょうど子供1人分くらいのサイズだ。


(尻を隠して帽子隠さず……)


 カオリは一直線に生け垣に歩み寄ると、無造作に腕をつっこみ引っ張り上げた。

「う、うおぉっ!?」

 生け垣の中の子供は、カオリに襟首を掴まれ宙ぶらりんの状態になった。

 年の頃は十歳くらいだろうか。いかにも悪ガキといった風の、いたずら好きそうな少年だ。

「は、はなせえ!」

 懸命に両足をバタつかせる少年。だが、襟をつかんだカオリの右腕はびくともしない。

「どっから入ったんだ」

 煩わしさを感じつつ、カオリは尋ねる。


 駐屯地の入り口には衛兵がいる。こんな子供がその目をかいくぐって侵入したとは思えない。となると、あり得べからざることではあるが、外壁のどこかに抜け道でもあるのだろう。

 そんなものが存在するのなら、早々に塞がなくてはならない。


「言え。どっから入った」

 抵抗をやめない少年に、カオリは顔を寄せて凄みを効かせる。だが、少年は少しも怖じ気付く様子がない。

「チッチッチ……残念だが、そいつだけは言えねーなあ」

 白い歯を見せて不敵に笑った次の瞬間、少年はカオリの目の前から姿を消した。

 否、姿を消したのではない。

 カオリの手は持ち主のいないTシャツだけを掴んでいた。

 少年は一瞬にしてスルリと服を脱ぎ、一目散に逃げ出したのだった。

「帽子とTシャツは貸しといてやるよ、軍人のねーちゃん!」

 上半身裸で駆けていく少年の身のこなしは、なかなかどうして軽快なものだった。小柄で華奢な見た目とは裏腹に、猛スピードでカオリとの距離を広げていく。

 あっという間に2人の間には100メートルほども距離ができていた。


 やれやれ。カオリは小さく鼻を鳴らす。


「悪ガキには、大人の怖さを教えてやらないとな」


 カオリは左手で右の手首を掴み。

 そして、唱えた。


接続(アクセス)――《強化(サポーター)》」


 次の瞬間、カオリは少年の目の前に立っていた。


   ***


「!?!?!?」

 突然カオリが目の前に現れて驚きに身体を硬直させている少年を捕らえるのは容易かった。

「おい、少年。あんまり大人を舐めてると――」

「すげえっ!!」

「……」

 少年はカオリの話など聞いてはいない。

 大きく見開かれた瞳には、超人的な動きで少年に追いついてみせたカオリに対する好奇の念が浮かんでいた。

「俺、知ってるぜ、今の。《接続機関(アクセスドライブ)》って言うんだろ」

「まあ、そうだな」

「ねーちゃんも《端末(ポインタ)》持ってんのか」

「一応、帝国防衛軍所属だからな」

「ほあー……」

 奇妙な声を漏らす少年。どうやら感嘆のため息のようだ。


 《接続機関(アクセスドライブ)》――それは、帝国防衛軍が誇る最強の軍事兵器である。

 旧第四帝国は、接続機関を独占している圧倒的な軍事的優位を背景に、旧七大国の残りの6つを押さえ込み、現在の世界帝国を作り上げた。

 そのメカニズムは最重要機密事項として帝国上層部によって厳重に管理されており、接続機関の使用は帝国防衛軍にしか認められていない。


 はっきりしているのは、接続機関を使用した人間はみな超人的な能力を発揮できること。

 そしてもう1つ、接続機関こそが「外敵」に対抗できる唯一の手段であることだ。


 少年は接続機関に興味があるらしい。ひょっとしたら、駐屯地に忍び込んだのもそれが目的だったのかもしれない。

 端末(ポインタ)を起動させたのは失敗だったかな、とカオリは内心で後悔した。


「少年」

「ジル!」

「……は?」

「俺の名前! ジルってんだ! ねーちゃんは?」

「……カオリ」

「カオリねーちゃん!」

 ジルはカオリに両脇を抱えられたまま、尊敬のまなざしで見つめている。もう逃げる気はないようだ。

 カオリはジルを地面に降ろすと、しゃがみ込んでジルに目線の高さを合わせた。

「いいか、ジル。お前、いったいどこから侵入した」

「弟子にしてくれよ!」

 話がかみ合わない。

 これだから子供は嫌いだ、と毒づきたくなるのをこらえて、カオリは言う。

「弟子はとらない主義だ」

「えー、ちょっとくらいいじゃん、ケチ」

「だれがケチだ」

「カオリねーちゃんすげーよ、俺尊敬しちゃった! 師匠って呼んでもいい?」

「尊敬してるなら少しはあたしの話も聞けよ」


 ちょうどそこに通りかかったのは同期のアリスである。彼女はカオリとジルを見ると、あからさまに眉をひそめた。

「カオリ……あんた、なにやってんの」

「え」

 上半身裸の少年と、その少年のTシャツを握りしめる女。見ようによっては誤解されかねないシチュエーションである。

「や、アリス。違う、これは」

「だいたい、その子どっから連れてきたのよ」

「あたしが知りたいわ!」

「なあなあ、ねーちゃんも使えるの? 接続機関」

「は? え、なに?」


 カオスだ。


「ああ、もう! いい加減にしろって! さっさとどこから侵入したか言わないと、こいつで痛い目見せるぞ」

 カオリは右手にはめた黒いグローブをジルの前にかざしてみせる。このグローブが接続機関の端末(ポインタ)である。

「え! 見せてくれんの!? やった! 早く早く!」

「……逆効果だったか」

「え、ちょっと、なにこの子。ほんとに誰」

 混乱した様子のアリス。

「だからあたしも知らないんだって。とにかく、外壁のどっかに子供1人が入り込めるくらいの抜け道があるみたいだから。こいつをつまみ出したら探すの手伝って」

「ええ? わ、わかったけど」

 無理矢理アリスを納得させると、カオリはジルを強引に持ち上げて肩に担いだ。

「うはっ、高え!」

「うるさい。大人しく掴まってろ。振り落とすぞ」

「なあなあ、師匠。もっかい使ってよ、接続機関」

「……」

 それ以上なにも言わず、カオリはゲートまでジルを担いで歩いていった。

「ほら、ガキは家に帰んな」

「えー! そりゃないぜ、師匠」

「師匠って言うな。ほら、帰った帰った」

「ちぇー」

 ジルは暫くゲートのところで粘っていたが、やがて不満そうに口をつきだしたまま帰っていった。


「やれやれ」

 まさか子供相手に接続機関を使うことになろうとは。猫に小判もいいところだ。

 やはり平和なんて碌なもんじゃない。


 その後、日が暮れる頃になってようやく、カオリとアリスは外壁に空いた小さな抜け穴を発見したのだった。


   ***


 しかし、翌日以降もジルはカオリの前に現れた。

 そのたびにカオリはジルをつまみ出し、日が暮れるまで抜け穴を探すはめになるのだが、どんなに抜け道を塞いでも翌日になるとジルは何食わぬ顔で現れるのだった。


「おい、ジル……いい加減諦めたらどうだ。あたしはお前を弟子にはしない」

「そっちこそ諦めが悪いぜ、師匠。師匠がうんというまで俺はここに来つづける」

「毎日毎日、よく飽きないな。しつこい男は嫌われるぞ」

「へへん、知ってるぜ。こういうのを東洋のことわざで『三顧の礼』って言うんだろ」

「お前も三回で諦めてくれたらよかったのにな……」

 カオリは頭を抱えつつ、今日はどうやってジルを捕まえようかと考えた。


 厄介なことに、ジルの身のこなしは日に日に向上していた。

 はじめのうちは簡単にジルを捕まえていたカオリだったが、最近ではちょこまかとすばしこく逃げ回るジルを捕獲するのにずいぶんと手を焼くようになった。


 ジルの身体センスには目を見張るものがある。

 カオリの一挙手一投足に反応する動体視力、次の動きを予測して即座に回避に移る直感と瞬発力、そして、それらの行動を実際に可能にする運動能力。

 どれも同世代の子供とは比べられないほどずば抜けていた。

 平たく言えば、ジルには格闘センスがあったのだ。


「この……ちょろちょろと!」

「おっと」

 カオリが伸ばした右手を、ジルは紙一重でかわす。

「へへ……どうだい、師匠。降参するか」

「誰が……!」

 ジルの挑発に、カオリはとっさに右手のグローブに手を伸ばし――

 端末(ポインタ)を起動させるのをなんとか思いとどまる。

「ちぇー。結局使わないのかよ、接続機関(アクセスドライブ)

 不服そうに口を尖らせるジル。

 そんなジルに対し、カオリは片側だけ唇を釣り上げニヤッと笑ってみせる。

「お前ごときに使うまでもないね」

「またまたー、息あがってるよ」

「調子に乗る――なッ……!」

 言い終えるより早く、カオリは左足をジルに向けてグッと踏み込む。

 ジルは、左後ろに一歩下がる。

 右足を踏み出すと同時にカオリが伸ばした右手は、ジルの鼻先で虚空を掴む。

「おっとと、危ね」


「……かかったな」


 不敵に笑うカオリ。

 刹那、カオリは右足を軸に後ろ向きに一回転すると、そのまま跳躍した。

「え」

 カオリの左足はジルの首を巻き込むと、そのまま地面に抑え込んだ。

「グエッ」

 倒されたジルが鈍い悲鳴をあげる。カオリの左脚がクッションになって地面に激突するのは免れたが、首をがっちり掴まれていれば抵抗はできない。

 今日も軍配はカオリに上がった。

「お前の動きは省エネを意識しすぎて合理的になりすぎだ。だからこうして動きを読まれる。予想外の攻撃に対する反応が遅れる」

「……くそ、今日こそは逃げ切れるかと思ったんだけどなー」

 ジルは残念そうに言うとグタッと全身の力を抜いた。どうやら降参ということらしい。


 カオリはジルを正門まで連行すると、おしりをポンと叩いた。

「ほら、帰った帰った」

「今日もご指導ありがとうございました、師匠」

「なっ……!?」

 そう言われてみれば。

 日々追いかけっこをする内に、知らず知らずにカオリはジルを鍛えていたのかもしれない。

 今日にいたってはもっともらしい助言のようなものまでしてしまっている。

「また明日な!」

 ニヘラっと笑うジル。その仕草がカオリの神経を逆なでする。

「二度と来るな!」

「うひゃ」

 素っ頓狂な声をあげて、ジルは一目散に走り去っていった。

(厄介な奴に目を付けられたな……)

 カオリは今日も外壁に空いた抜け道を探すのだった。


   ***


 ある日のこと。

 その日、カオリは非番――すなわち、休日だった。

 久々の休日だ、何をして過ごすかと考えたカオリだったが、よくよく考えるとこの田舎町に暇つぶしになるような娯楽などない。

 仕方ない。午前中は軽くトレーニングで汗を流して、午後は読書でもして過ごそうかと思っていたところ――


「師匠!」

 今日も今日とてジルがやってきた。

 こう毎日だとさすがに気が滅入る。

「あのな、ジル……今日はお前に構ってる暇はない。いろいろと仕事が立て込んでて忙しい」

「? 師匠、今日、非番だろ」

「……なんで知ってる」

「レイトン団長に聞いた」

「……チッ」

 カオリは上官のヘラヘラした笑顔を思い出して苦々しい気分になった。

「団長と知り合いなのか」

「あったりまえだろ! 団長はさ、俺ら村の連中にも優しいんだぜ。それに、カッコイイし、強い! 軍の仕事で忙しくなかったら、ぜひ師匠になってもらいたいくらいだぞ」

「あたしも軍の仕事で忙しいんだけど」

「師匠は団長と違って下っ端じゃんか」

「……いいか、憶えとけ。社会ってのはな、下っ端になればなるほど忙しくなるんだよ」

「ふうん?」

 ジルは良く分かっていないようだ。

「でも、今日は暇なんだろ、師匠」

「……」

 暇じゃないと返したいところだったが、生憎カオリは完全に暇を持て余していた。特にやることもない現状では、ジルに振り回されて時間を潰すのもそう悪くないように思えてしまう。


「一緒に行ってほしい場所があるんだ」

「行ってほしい場所」

「ああ。秘密の場所だ」

「秘密って……あたしにバラしていいのかよ」

「師匠は味方だからいいんだ」

「……ふうん」

 知らぬ間にずいぶんと懐かれたものだ、とカオリは半ば呆れつつ思う。

 もともとなぜか好感度は高かった気もするが。

 あれだけ邪険にしておいて、むしろ好感度が上がっているのはどういうわけだろう。


「な、な? 行こうぜ、師匠」

 キラキラとした大きな瞳に期待の色を浮かべ見つめてくるジル。

 正直、最初に感じていたほどの煩わしさはもう抱いていなかった。

「……まあ、どうせ暇だしな」

「来てくれるの」

「ああ」

「やった!」

 ジルは嬉しそうにガッツポーズをすると、カオリの手を掴んで走り出した。


「いつの間にこんな穴を……」

 巧妙に隠ぺいされた外壁の穴を潜り抜けつつ(ジルは楽々通り抜けたが、カオリはあやうく腰がつかえそうになった)呆れるカオリを尻目に、ジルはどんどん先へと進んでいく。

「秘密の場所とやらはどこにあるんだ」

「隣山!」

「隣山……」

 ずいぶんアバウトな返しである。

 これはたどり着くまでにずいぶん時間を要するな、と思ったカオリだったが、意外にも目的の場所には30分ほどで到着した。


 ジルが山道を大幅にショートカットしたためである。


 木々の間や岩道をぴょんぴょんと飛び跳ねて猛スピードで進んでいくジルは、軍事訓練を受けているカオリでもついて行くのが精いっぱいだった。

「まるでサルだな……」

 カオリは苦笑しつつジルの後を追った。


 たどり着いた先では、見知らぬ少女と少年が待っていた。

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