第一話 ~同居~
「ふぁ~、おはよう」
「……」
キリコが目覚めるとアルツは腹筋やら腕立てやらトレーニングをしていた。ツンと鼻につく汗の臭い。あまりの汗臭さにキリコはお風呂に入るように言う。
「風呂だと?」
「そうよ入って」
「お前がホースで水をかけてくれればいい」
その言葉にキリコはアルツが長年お風呂に入ってないことを悟る。そしてアルツを風呂場に連れて行き服を脱がせてお風呂にいれる。
「いい、美女に洗ってもらえるんだから喜びなさいよ」
「……」
相変わらず無口のアルツ。キリコがタオルで背中をこすると案の定アカが溢れ出てきた。
「汚いわなねぇ。あなた何年お風呂に入ってないわけ?」
「……」
「ふ~ん、答えられないんだ?」
「……こんな事されたのはじめてだ」
「え? 生まれて一回もお風呂入ったことないの?」
キリコは聞くんじゃ無かったと肩を落としため息をつく。頭や手足をあらい問題はアソコだけなのだがキリコは自分で洗うように言う。
「そこだけは自分で洗ってね」
「……」
「あ~、もうこうやって洗うの」
なんだかんだでアソコも洗ってあげたキリコ。だが、おかしいことに無反応だ。普通の男子なら反応してもおかしくはないがアルツのアソコは反応がない。キリコは一瞬自分を疑う。
(私って魅力ないのかな?)
アルツの肩を見るとそこには『No.2』と刻まれていた。
「アルツ君、これって?」
「……」
アルツは後ろを振り向きキリコの首をガシっと鷲掴みにして睨みつけて言葉を放った。
「いいか、この事は誰にも言うんじゃない」
その気迫にキリコは苦しみながら首を縦に振る。するとアルツは手を離し風呂場からでて服を着ると家から出ていこうとした。
(この子普通じゃない)
キリコがそう思ったが事態は遅かった。もう運命の扉は開いていた。キリコがアルツを保護したときそれは既にはじまっていた。決して開けてはならないパンドラの箱を開けてしまっていた。
「そうだお前は俺を匿ってくれた。それに詫びねばならない」
突如としてアルツは部屋に戻ってきた。そしてキリコにある物を手渡す。それを見たキリコ目を丸くして腰を抜かす。
「この金の延べ棒どうしたの?」
「俺の報酬だ」
どうやらこれ以上は聞いてはいけないみたいだ。キリコは取り合えずソファーにアルツを座らせてパンとコーヒーをご馳走する。
自分も食べながらひとまず落ち着くことにした。アルツは早く食べる癖があるのか3分程度で間食。
「ねえ、アルツ君一体君は何者なの?」
「……」
核心をついた質問には答えようとしないアルツ。そんなアルツに対しキリコは優しく後ろから抱きしめて言う。
「オーケー、わかった。もう何も聞かないだから約束してこれ以上誰も傷つけないって」
「……」
アルツはそれに答えるかのようにうなずく。そして、ソっとキリコの手をほどくとキリコを押し倒してキリコの胸に顔を埋める。
キリコは抵抗しなかった。出来なかったこともあるし、なによりもアルツは泣いていたのだ。泣いて母親を呼んでいた。
「ママ、ママ怖いよ。助けてママ」
キリコは頭を優しく撫でる。少年はその優しき女性に何時間もすがっていた。夕方になりキリコは大学へ行く時間になった。
「アルツ君、出かけなくっちゃいけないのお留守番してくれる?」
「任務か?」
「う~ん、そうねあなたの任務ね」
「了解した」
キリコは急いでドアを開けて出掛ける。それを見送るアルツは敬礼していた。アルツはキリコのことを次第に新しい『指令官』として受け入れる。
「ただいま」
大学の授業が終わりキリコが帰宅するとアルツはいなかった。慌ててキリコは付近を探し回るがアルツは見つからない。警察に届け出ようにも得体の知れない少年を匿った知られたら自分も捕まりかねない。
「アルツ君」
キリコは心配でならないが明日は朝からバイトが入っているため仕方なく今日は寝ることにした。
部屋の電気を消しベッドにもぐり込み今日の出来事を整理し眠りにつく。