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心落ち着く皆の時間と、小さな後悔

 僕が教会に帰ると、アリスお婆ちゃんとコルムは手遊びをしていた。

それはじゃんけんみたいなもので、小指を子供、人差し指をお父さん、親指をお母さんに見立てて、同時に指を立てる。

 子供はお母さんに勝って、お母さんはお父さんに勝ち、お父さんは子供に勝つ。

そんな遊びを静かにやっていたようだ。


「お待たせ。帰ったよ二人とも」

「あ、おかえりめたる。どしたの?」

「何でもないよ。ちょっと外の空気を吸ってきただけ」

「そうかい?何かあるならこの婆にすぐ言うんだよ」


 アリスお婆ちゃんには僕の気持ちは隠しきれなかったのか、心配させてしまったみたいだ。


「うん。もう大丈夫。ちょっと大声出してきてすっきりしたから」

「それならいいんだけどねぇ。メタルもまだ子供なんだから、無理はだめだよ」


 アリスお婆ちゃんに子供だからといわれるのは、僕がお金を稼いでるんだけどって思う反面、甘えても良いんだよって言われてるみたいでちょっと嬉しい。

 はぁ、食事を取れるようにしてればそのうちお婆ちゃんの手作り料理を作ってもらって食べたりできたんだけどなぁ。


 そんな事を思いながら、僕も一緒に手遊びをしてたら、授業が終わったのかそれまで静かにしてたい子達が僕達の方へやってくる。

 コルムも長いすから立ち上がって合流する。

アリスお婆さんは、僕の背中をぽんと叩いて、行ってきなという感じにそちらを見た。

だから僕もコルムの後をついて、小さい子達との話に加わった。


 コルムの友達になったのはアイムっていう、オレンジ色のつんつん髪の男の子。

それからシャムちゃんっていう、シャム猫みたいなふわふわの短い銀髪の女の子。

最後に灰色の髪を肩まで伸ばしているおかっぱ頭のジェムちゃん。

その子達が早速コルムと今日は何をして遊ぶかを話し合っている。


「おれはおいかけっこしたい!」

「しゃむはね、おままごとしたいなー」

「あたしも、おままごとがいい……」

「わたしもおままごとがいい!」

「おまえら、またおままごとかよ。ほんとしょーがねーなー」


 アイム君の希望が通るのは四日に一度くらい。

女の子が多いグループだから仕方ないのかな。

でもそんな子もただじゃすまさない。


「よし、つきあってやるから。きょうのめたるにーちゃんととぶのはおれがさいしょな」

「いいよ。わたしはいつでもとばせてもらえるから」

「ずるい!しゃむがいちばん!」

「あたしはたかいところにがてだからいい……」

「ともかくおれがいちばん!じゃなきゃおままごとはなし!」

「んー。しかたないなー」

「じゃあ、ごはんたべたらどこであう?」

「にしもん!まちのそとであそぼ!」

「えー、やくしょのそばのひろばでいいだろ」

「つかれるからなー。しゃむもひろばにさんせー」

「あたしも……」

「じゃあ、めたるにはこんでもらう!」


 コルムの言葉で皆の視線が僕に集まった。


「僕が運ぶの?」

「うん!めたるならふわーってとんでまちのそとまでいけるでしょ?」

「それは行けるけどね。他の皆はどうなの?」

「めたるにーちゃんがはこんでくれるならおれはいいかな」

「しゃむもいいよー」

「はぁ、しょーがない……あたしもそれでいい」

「じゃあ、おひるたべたらめたるといっしょにみんなのいえにいくね!」

「おう!じゃ、またあとでな!」

「じゃねー」

「ん。じゃああとでね」


 僕の意思はあんまり関係なく事は決まってしまった。

でもまぁ、良いかな。

この世界ってTVゲームもないし、暇を潰そうとすると結構苦労するんだ。

カードゲームは……紙がぺらぺらだからなぁ。

トランプなんかもつくれないんじゃないかな。

厚紙とかダンボールみたいな紙ってあるんだろうか。

なんて考えているとアリスお婆ちゃんから声が掛かった。


「あの子らも皆家に帰ったようだし。ご飯を食べに行こうねぇ。今日はどこがいいかの」

「そうだね。僕は匂いなら東通りの煮込み壷亭のシチューが好きだな」

「んんん。わたしはピザたべたい!」


 コルムの言うピザは、クリオっていう北西の森、で獲れる三種類の精獣の内の一種類、トルトルという精獣。

 それから獲れる粘液袋の中身を、薄い生地の上に塗って好きな具を乗っけて焼いて食べる料理だ。

多分、地球でのピザとそう変わらない料理だから僕に解りやすいようにピザって翻訳されているんだ。

コルムはそのピザの具をお肉一杯にして、トマトと人参を一緒にするのが大好きだ。

トマトも人参も、見た目はピンクだったり黒かったり全然違うんだけど、どういうわけか僕には地球の野菜の名前で聞こえる。

 食べられないから解らないけど、同じような味、ってことなのかもしれない。


「ピザもいいねぇ。小さいのなら食べきれない事もないし。私はほうれん草とクリームのが好きだよ」


 アリスお婆ちゃんのいうほうれん草も、勿論色がオレンジで地球のとは違う。

それにしても二人の好みのトッピングにできるかは、その日仕入れられたか次第なんだけどな。

それはともかく話は決まったようなので、僕達も教会の外に出る。


「じゃあ東通りのオリゴのピザ屋でいいかな?」

「うん!」

「頼むよメタル。私もお腹が空いたよ」


 僕は二人を抱えて空を飛ぶ。

屋根の上を通り越して街の中をロの字型に通る大通りの東側に向かう。


「しかしメタルのこれは楽だねぇ」

「えへへ、かぜふいてるよぅ」

「二人にいいなら僕も嬉しいよ」

「ふふ、本当にいいこだよメタルは」

「いいこいいこ!」


 二人して僕の身体を撫で回す。

直接的なくすぐったさは感じないけど、心の方はそうじゃなかった。

なんだか照れくさくて、スッと飛ぶ速度を速くする。

そうすると、東の通りにはすぐに着いてしまった。

僕は人を踏まないように誰も居ない路地裏に降りたのだった。




 ピザ屋さんでお腹を満腹にしたコルムと、腹八分目になったアリスお婆ちゃんをまず西門に連れて行く。

 そこで門番の人に二人をお願いして、僕はアイム君、シャムちゃん、ジェムちゃんの順に家を訪ねる。

その時にそれぞれ。


「やった!あとでもっとたかくとんでくれよな!」


「じゃあおかあさん。みんなとあそんでくるねー。とんでめたるさん」


「……あんまりたかくとばないでほしい」


 なんていう、三人まったく違う反応を見せてくれた。

アイム君はとにかく飛べるのが楽しいようでそればっかり。

シャムちゃんは他の子に比べてしっかりしてる感じ。

ジェムちゃんはしっかりと僕の腕を抱え込んでいた。

そんな三人それぞれの反応を見ながら、僕は西門で待つコルムとアリスお婆ちゃんの所へ、一人ずつ連れて行ったのだった。


 四人が揃ってまずする事はおままごとの役割分担と、おままごとにつかう道具の出し合い。

家を表すござを持ってきたのはアイム君。

シャムちゃんは包丁代わりの小さなペーパーナイフと板を持っていて。

ジェムちゃんは子供サイズのクッション四つを持ってきた。

コルムはすっかりお気に入りになった背嚢から、僕とアリスお婆ちゃんがおままごと用に買ってあげた、小さな木製のお皿やコップを取り出す。


「あいむはおとーさんよね」

「さんせい」

「さんせい!」

「まぁおとこはおれしかいないしな」


 まずお父さん役が決まる。

アイム君はお父さんが良い人なのか、ちょっとお父さんと呼ばれるのが嬉しそうだ。


「わたしこどもがいい!」

「じゃあシャムがおかあさんね」

「あたしは……ねこでいいや」


 女の子達もそれぞれやりたい役が分かれているからか、ジェムちゃんがなるべく面倒の無い役を取ろうとするからか、スムーズに決まる。


 コルムはいつも子供役をやりたがる。

宿屋でもアリスお婆ちゃんにべったりだし、甘えん坊なのかな。


 逆にシャムちゃんはいつもお母さん役をやりたがる。

お母さんが料理上手だから料理の真似事がしたいらしい。


 ジェムちゃんは解りやすい、面倒くさがりなのだ。

追いかけっこでも適当に逃げて、適当に捕まる。

おままごとでも大抵ペット役で子供役の子にちょっかいをだしてわいわいやってる。


 良く役割分担ができてるなぁと思うけど、円滑にこういう役割が決まるから友達になれるのかもしれないね。

 僕とアリスお婆ちゃんは、お昼の後の暖かい日の光を受けながら、僕が軟化してクッションになりながら、アリスお婆ちゃんがあの子達の様子を見る。


「それじゃあまずシャムが起きておとうさんをおこすところからね。あかちゃんとねこちゃんはねててね」

「うん!」

「おう、じゃあ寝っ転がるから」

「おやすみ……」


 それぞれの役に成りきる皆を横目に、僕はアリスお婆ちゃんと話をする。


「おままごと、またアイム君は草のおかず食べさせられるのかな?」

「どうだろうねぇ。泥団子が作れる場所じゃないからマシだとは思うけどね」

「お婆ちゃんもおままごとした時、男の子に泥団子作ったりした?」

「ああ、懐かしいねぇ。井戸の近くを泥だらけにして怒られたもんさ」

「ああ、そういえばテトの村の近くには川は無かったもんね」

「そうだよ。元はといえばあの井戸はテトの村の村長の家の十代前のテトって旦那が掘り当てた物でね。村の名前の由来はそこからさ」


 のんびりと、アリスお婆ちゃんを乗せるために柔らかく押しつぶされて広がる僕の体の上で、アリスお婆ちゃんが寝返りを打つ。


「十代前って言うと何年前かな?」

「そうさねぇ、大体五百年は前じゃないかね。その頃はあの辺りもまだ森の中だったって言うよ」

「へぇ、じゃああの村は元々は森を切って作った村なんだね」

「そうそう。それで村と森がぴったりくっつかないようにあたりも切り開いてねぇ。今みたいになるのに百年はかかったってさ」

「なるほどー。でも僕が言った時はちょっと森との距離が離れすぎてなかった?」

「それは、村長も感じてたんだろうね。御領主様にも相談して、森を育てる話をしてた所だったんだよ」

「そっか……。あの村の跡地は、森に飲まれるのかな?」

「これといった産物の無い村だったからねぇ。しかも悪魔の呪いの出た村だし。そうなるだろうねぇ」


 そう話すアリスお婆ちゃんの声はどこか沈んでいて、僕は言っちゃいけないことを言ったのかも知れないと思った。

 特に悪魔の呪いという部分ではアリスお婆ちゃんは深く沈みこんだ。

アリスお婆ちゃんもコルムも、多分ずっと悪魔の呪いを忘れないんだろう。

いや、コルムはまだちっちゃいから忘れてしまうかもしれないけれど。

アリスお婆ちゃんは忘れないと思う。

僕がお父さんとお母さんや、友達の事を忘れないように。


 あれ?でも僕は最後にお母さんの料理で何を食べたか思い出せない。

……大丈夫。

お母さん達の顔は思い出せる。

お父さんはたれ目で眉もそんな太くなくて、ちょっととぼけた所のある顔で、朝起きたすぐ後以外はいつもきっちりと髪を整えていた几帳面な人。

お母さんはいつも眠たそうな眼をしていて、髪をヘアピンで留めていた、気がつけばお昼寝しているのんびりした人。

思い出せる。

僕はまだお父さんお母さんを忘れてない。

忘れない。

でも、僕の頭はそういう設定になっていない。

僕は神様に忘れない頭をお願いしなかった。

僕はまた一つ、ああすればよかったを抱え込んだのだった。

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