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僕は脳を焼き尽くした

 昼ごろに飛び始めた僕達はまだ日が大分高い内にテトの村から北西10kmにある、イブンの町に到着する事ができた。

本当はもっと大きな街まで飛びたかったけど、アリスお婆さんの大きな街だからと言って仕事があるとは限らないという言葉。

そして、精獣を狩るような事になったら、森の近くにあるイブンの町の方が良いと言う言葉に従った。

空から遠くにみたイブンの町は沢山の何かの畑と、石の壁に囲まれて洋風な外見の木の家が立ち並んでいた。

さらに北西いに森があって、日本に居た頃の僕なら行きだけで半日が終わりそうな距離を取った町だった。

二人を町外れに下ろしてアリスお婆さんがコルムの手を引いて石の道の方へ歩くのに歩調を合わせながら質問した。


「アリスお婆さん。今から何か、宿一泊分できるお金が稼げる仕事ってあるかな?」

「うーん。今日の所はちと難しいね。一晩程度ならコルムにも我慢させるよ」

「わたしがなあに?」


 コルムちゃんの、状況の解っていない、ただ自分の名前が呼ばれたからニコニコしている顔が解る。

一晩、路地裏で寝るくらいはこの世界の人には普通の事なのかもしれない。


 でも僕が嫌だった。

こんな小さな子に、柔らかくは無くても、しっかりしたベッドの上で寝させられないのが嫌だった。

だから僕はアリスお婆さんに聞いた。


「アリスお婆さん。やっぱり僕精獣を殺してくる。精獣を買い取ってくれる場所、教えてくれる?」

「ふむ……私も娘時代に一度来た事があるきりだから場所が変わってるかもしれないけど、一応案内するよ」

「アリスばーば、どこにいくの?」

「おお、よしよし。これから狩猟買い取り所に行くんじゃよ」

「しゅりゅおーかいとりじょ?」

「そうじゃ。女の子にはちと詰まらん場所かもしれないけど、我慢しておくれよ」

「アリスばーばいっしょならだいじょうぶ」

「大人しくできるかい?」

「ん!」


 笑顔で大きく頷くコルムちゃんを見ると、僕の方がお兄ちゃんで、凄いヒーローみたいなパワーがあるんだから頑張らなきゃいけない。

そんな気がした。




 アリスお婆さんの後について街の中を進む。

街の門でも止められたし、町を行く人達皆が僕を見ているような気がするけど我慢する。

僕の姿ははっきりとした変な物なんだから。


 しばらく歩いて、強い視線を浴びながら街の一つの建物に辿りついた。

そこは木造の三階建ての大きめな建物で、入り口の脇には丸い、狼のようなマークが入った看板が下げられていた。

途中でアリスお婆さんに雑貨屋だと教えてもらった店の二倍か、もう少し広いくらいの外見がある。


「ここが狩猟買い取り所だよ」

「しゅりゅおーかいとりじょ!」


 ここで僕は気になっていた事をアリスお婆さんに聞いた。


「そういえばさ、精獣を狩るのに許可とか要らないの?」


 僕の質問に、アリスお婆さんは答えてくれた。


「そういう面倒な手間を省いてくれるのが狩猟買い取り所だよ。精獣を狩る権利分の税と、精獣の素材に掛かる税の天引きを向こうでやってくれる大きな商会が狩猟買い取り所ってだけさ。別にお上の商売じゃないんだよ」

「そうなんだ。じゃあ僕みたいな子供でも精獣を狩ってくればお金になるんだね」

「そうなるね。けどお前さんいくつなんだい?外見じゃ全然解らないよ」

「僕、十一歳」

「十一歳!?あたしゃもっと年のいったお偉い方かと思ってたよ」

「事情があってね、こういう身体になったのは今日なんだ」

「そうかい。あんたも大変だね」

「……家族を亡くしたコルムちゃんやアリスお婆さんだって、大変だよ」

「そういってくれるかい。じゃあ私とコルムは買い取り所の中の待合で待ってるから。なるべく早く帰っておくれ」

「うん。他に気をつけることある?」

「うーん。確か精獣を一年の内に狩っていい数が決まってたはずだよ。だからまず中の受付で、今狩って良い精獣の種類と数を確認しておきな」

「解った。じゃあ待っててね、アリスお婆さん、コルムちゃん」


 買い取り所の中に入りながら、コルムちゃんをアリスお婆さんに任せて手を振りながら別れた。

中は結構静かで、人がいない。

正目の奥のカウンターであくびをしているお兄さんが一人だけ。

僕はそのお兄さんの所に進んでいって、置いてあるベルを鳴らした。


「うわっ!?ととっ、なんだぁお前!?」


 ベルの音で眼を覚ましたお兄さんは、僕の姿にびっくりしたようで、椅子ごと後ずさる。

そんなに驚かなくてもいいのに、と思いながら僕は言った。


「こんにちは、僕メタルです。こんな格好だけど……怪しくないっていうか、えっと、悪い生き物じゃない、と思います」


 僕の答え聞いても、こちらを怪しそうに様子を伺うお兄さんはじりじりと距離を離そうとしてるみたいだ。


「お前何の用だ?」


 僕を警戒しながらも、用件は聞いてくれるみたいで安心した。

僕はなるべくお兄さんを驚かさないように言う。


「精獣を狩りたいんですけど、今狩れるのはどんなのが、どのくらいいますか?」

「せ、精獣を狩るのか?お前が?」

「はい」


 椅子から立ち上がって、僕の事を上から下まで見るお兄さん。

何か不味い事を言っただろうか。


「良く解らんが、一応答えてやる」


 返ってきた答えに僕は安心した。

ここでお前には教えられないとか意地悪されたら、本当に困ってしまう所だったからだ。


「良く聞けよ、この辺りで今狩っていい精獣は……」


 お兄さんの説明によると、今狩っていい精獣は三種類ほどいるらしい。

その中でも一番強くて、高く買い取ってもらえるのがガレオス。

お兄さんの説明では森の木の高さの半分ほどの背の高さの、四足歩行の大きなトカゲに角が二本ついた生き物らしい。


 それって恐竜じゃないかな、と思いながら、今日の時点で狩っていい数は50匹ほど。

今日のうちに50匹以上狩っても罰則は無いけれど、明日以降も狩った分だけ狩っていい数は来年の春を越えるまで戻らないという注意を受けた。

さらに、精獣の買取はこのカウンターではなく、この建物の裏手の解体場とさてい?なんだか買い取る素材の値段を決める場所に周らなきゃいけないらしい。


「ありがとうございましたお兄さん。色々教えてくれて」

「あ、ああ、良いんだよ。仕事だからな。なんか妙な奴だけど、気を付けて言って来いよ」

「はい、それじゃあまた」


 お兄さんに挨拶して、買い取り所の扉をくぐる。

後は歩いて町を出て、アリスお婆さんやコルムちゃんを連れていた時には出せなかった速度であっという間に森に着く。


 森と言ってもこれはジャングルと言ってもいいじゃないだろうか。

空を飛んだ高度はさほど高くなかったけど、水平線の向こうまで街の北西側の草原を挟んで森が続いていた。


 僕は更に森の奥まで飛びながら、センサーホーンの機能を目一杯働かせて、ガレオスらしき反応の位置を感じ取る。

大小さまざまな生き物を感じるけど、あの大きさは間違いないだろうという生き物がいる場所に飛んでいく。


 森の中に降り立つと、そこには確かに僕の三倍くらいの高さの大きな角付きトカゲが現れた。

僕の気配に気づいたのか、ゆったりとこちらを向こうとしたガレオスだったけど、僕はまともに勝負なんかする気はなかった。

センサーホーンでガレオスの脳の位置を探って、一瞬で脳を蒸発させる。


 その瞬間、ぐらりと白目を剥く時間もなくガレオスは倒れた。

生き物を殺した、でも僕は思ったより嫌な気分にはならなかった。

殺し方があんまりにも現実離れしていたからか、コルムちゃんを宿に泊める為のお金を稼がなきゃいけないからかは解らない。

でもとにかく、僕は生き物が殺せた。


 後は硬さを替えてガレオスの胴体を包むように引き伸ばした片手で死体を持ち上げ、次のガレオスを捜す。

一匹でいくらになるのか解らないが、二匹捕まえておけばしばらくは大丈夫な気がする。

だからもう一匹。

ガレオスはそんなに狩れる人がいないので、人の邪魔になることも無いと思う。




 町に帰ってからは、また町に入るのが大変だった。

ガレオス大きいし、僕は小さいから二つの死体を持ち上げて運ばなきゃならないと思ってたんだ。

だから門番のおじさんに買い取り所まで飛んでいいか聞いたら、慌てて搬送する業者を手配してやるから待てと言われた。

僕がお金を持っていないことを話すと、獲物はあるんだから、充分後払いが聞くといわれたので、僕はおじさんの言うとおりにした。


 僕とガレオスの死体が解体場に着いた時には軽い騒ぎになった。

どうもガレオスの見た目に傷が無いのが驚かれたみたい。

どんな風に倒したのか聞かれたから、素直に頭の中を焼いたって言ったら余計に驚かれた。


 ちょっと能力の実演もさせられたけど、それも済めばほぼ無傷……ガレオスの脳は別に素材にならないらしい……の良質な獲物に、結構な値がついた、と思う。

金の板一つと銀貨二十枚を渡されて、入れる物が無いといったら銀貨を一枚渡すように言われて、銀板8枚と大き目のウェストポーチみたいな入れ物を渡された。

これがどの位の価値になるのかはアリスお婆さんに相談しなければわからない。

たしか百二十万円、円なのは多分日本人の僕向けに翻訳されているからだろうけど、実際の単位は違うんだと思う。

その辺りは僕が気にしてもしかたないので、買い取り所で待っているはずの二人の下へ向かった。


「ただいま、アリスお婆さん、コルムちゃん」

「おやもう帰ったのかいメタルや。……大丈夫かい?」

「何が?」

「大丈夫ならいいんだよ、ばあの余計な心配だったね」


 アリスお婆さんは椅子から立ち上がり、僕を抱きしめて背中を叩いてくれる。

それは小さい頃お母さんにあやされた時や、もう居ないお祖母ちゃんにお母さんに叱られて慰めてもらってた時のような感じがして、僕は思わずアリスお婆さんに抱きついた。


「めたるどうしたの?」

「大丈夫じゃよコルム。メタルはちと大変な仕事をしてきたんじゃ」

「そうなの?めたる、よしよし。いいこ。おとーさんがつかれたときにこういうとね、おとーさんげんきになったの。だから、めたるもげんき。ね?」


 僕のお腹のよこをちっちゃな手で摩るコルム。

僕は、アリスお婆さんの抱擁と、コルムちゃんの手の感触になんだか救われた気分になった。

理想の力を手に入れても、僕にこの世界で何ができるのかなんて解らなくても、今はこの二人を守っていこう。

そんな気分に。

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