これはその後の僕を少し語るだけの話
アリスお婆ちゃんとコルムに別れを告げてどれだけ経っただろう。
王様と教会の教主という人の前で、正式に神の使いである僕は国を守るために遣わされたという宣誓をして。
僕を教会の勢力に完全に加えればさらに勢力を伸ばせたのにという、教主の思惑に内心舌を出したあの頃。
あの後僕はこの世界で何よりも速かったフライトユニットの力で国内はもとより。
周辺各国の内部情報も探り出して、あらゆる意味で国を守るための情報を集めた。
それは単純に軍の力で奪おうとする計画だったり、まだその国でしか発明されていない金属を鍛える技術の内容だったり。
とにかく覚える事が多かった。
そういう事を何年も続けていると、僕を本当に神の遣いなのか疑っていた人々も、調子よく僕の事を護国の遣いだって思うようになっていった。
僕は、そういう人達を焼かなかった。
絶対的な安心感を人に与えるのは時間が掛かると王様に言われたから。
僕は、なんでアリスお婆ちゃんやコルムのようにすぐに信じてくれないのか解らなくて辛かったけど、それでも耐えた。
そうしたら皆の信頼はいつしか僕に集まっていた。
それは気持ちよかったなぁ。
さておき、僕が国外で集めた情報はエクセント王国の首都であるエクセートで、僕の言葉を書き記す筆記官に覚えた内容を伝えれば全部忘れても問題無いんだけど。
こびりついた記憶は中々消えない。
そしてそういう記憶は僕の中の大切な記憶を蝕んでいく。
地球の両親の顔、声、思い出。
それらが消えた後はアリスお婆ちゃんとコルムの記憶だ。
でもその頃になると僕自身を、現金な奴だと思うんだけど、飛び回る動機も変わっていった。
僕が最初に宣誓した王様が作って、代々引き継がれた契約の対価である孤児への支援。
これがちゃんと行われているか僕は各地を巡るついでに視る。
すると一部の例外を除いて皆、昔なら見捨てられていた子供を助けられている事を喜んでいた。
それもいつしか当たり前になると、もっともっとという感情を抱く人も居たんだけどね。
でもそこまで行くと僕にはどうしようもない。
だって国が出せる補助金の上限とか、全部僕はこの国のお金の管理をする人を見通して知っているから。
僕がこの国を守るようになってからの王様達も、色々頑張ってる。
麦や野菜の生産量を増やす為の研究は常にさせてるし、病気の治療の研究を志すお医者さんが居ればお金を出してる。
僕が他の国の最新技術を報告したら、それが良い物なのか悪い物なのか、大臣の人達と連日会議を開いて検討したりもする。
もしある日僕が居なくなっても、すぐ軍を編成できるように食事だけは十分に出る、予備軍役っていう制度を作って、仕事からあぶれた人に職をあげつつ力の温存もしてる。
これには孤児院の子供が就くことが多いらしい。
僕は最初思いもしなかったんだけど、孤児は育てば仕事があるというものでもなくて、孤児院から出されたら飢える事態が問題になっていたんだって。
予備軍役は、すくなくともそんな飢えた子達の受け皿になっていたらしい。
まぁそれは当然、孤児以外の職あぶれの子供達にも言えた事らしいけど。
そんな具合に、他にも色々と自分達で国を良くしようと頑張ってる。
一方で、実は外交で僕の排除か共用化を求める周辺の国からの圧力もあるんだけど、それにもこの国の人達は頑張って抵抗してくれてる。
神様が僕をこの国に遣わしたのはエクセント王国という場所を守るためだっていう文言でね。
実際、僕は今までこの国に攻め入ろうとする兵隊と、悪質な破壊工作をしようとする人以外を焼くことにはならなかった。
あ、ちなみに悪質な破壊行為をしようとする人間っていうのはエクセント王国の人間も含まれる。
僕は視られると解っていてそういう事を考える人の気持ちは解らないんだけど、まぁ国を守るために例外なく焼いたよ。
あ、でも例外が一つだけあった。
それは悪魔の呪いが出たときに迅速に、痛みを与えないように焼いて浄化する仕事では、普通の人も焼いた。
それも、もう病に冒された人だけだ。
残った人には憎まれたりもしたけど、僕は間違った事をしていなかったと思う。
それもある国のお医者さんが悪魔の呪いに打ち勝つ薬を見つけた時には心底安心はしたのだけど、薬を作る速度は呪い……疫病が広まる速度より遅い。
だから結局の所、僕が焼くことになる事は無くならなかったけどね。
こうして色んな人に助けられたり、僕の方からも助けたりしてエクセント王国は千年王国と呼ばれるようになった。
そして何時しかそれは、周囲から軍事的に遅れたりもしながら、国の形を保ったことで変わらずの国として語られる事になった。
僕はこの先も、この星が終わりを迎えるか、僕の心が擦り切れるまでここを、自分の居場所を守っていくんだと思う。
居場所がなきゃ、僕の居る意味って?って考えた時辛いから。
今思えば、アリスお婆ちゃんやコルムを助けたのも、他の国の軍隊を焼いたのも、全部居場所が欲しかったからかもしれない。
もう人間じゃなくなってしまった、僕の居場所が。
僕はそれを手に入れたんだ、奪われたお父さんとお母さんのところっていう居場所の変わりに。
自分でも、僕は変わってしまったなと思うけど、それでもちゃんと手に入れたよ、自分の居場所。
見てるかな、神様。
全部神様に貰った力のおかげっていうのは気に入らないけど、僕はちゃんと生きてる。
この世界で、ちゃんとつながりを作って僕は生きてる。
僕の生き方を見て神様は満足した?楽しかった?
僕は今満足してるよ。
お礼は絶対に言わないけどさ。
今はもう、エクセント王国は僕で、僕はエクセント王国みたいなものなんだ。
国民の人達皆が僕の家族みたいなもので、僕は皆を守るんだ。
歴代の国王様が父親なら、僕はお兄ちゃん。
だから僕は寂しくないんだ。
皆僕を置いていくけど、僕に新しい家族を残してくれる。
僕はずっと、ずっとそれを守っていれば、僕自身も守られるんだ。
ああ、でも唯一つ残念さがあるなら……お父さんとお母さんに、よくやったねってほめて欲しい。
もう顔も覚えていない二人だけど、それだけが本当に残念なんだ。
でも僕はもう止まれない。
僕はきっと走るのを止めたら、倒れたらもう立ち上がれない。
だから、僕は今日も走り続ける。
神様が視てるかどうかは関係ない。
自分の為に走り続けるんだ。




