僕と王様の話
人気のない入り組んだ道を進む。
どうやら王様はこっそり僕と会いたいのか、裏道みたいな道順で僕を連れてくるように命令したみたいだ。
別に堂々と会えばいいのに。
僕と王様が会うのになにか問題があるのかな?
ああ、王様に会う人って皆偉い人だもんね、僕はちょっと違うからそのせいかな?
僕の納得を他所に、白い木の扉の前に到着して、僕を案内していたお兄さんがドアをノックして中の王様に失礼しますと声をかける。
中から王様が入るように返事をすると、案内のお兄さんは扉を開いて僕を中に入れる。
僕はここでも広間の時のように跪かなきゃいけないのかなと思ったので、部屋の中に入ったら跪いた。
「立つがよいメタルよ。ここには余計なこと申す領主達は居らぬ。楽にせよ」
王様が言うので僕は立ち上がる。
立ち上がると王様は見上げなきゃいけないくらいの身長で、椅子に座っていたときから大きな人だとは思っていたけど、更にその実感を強くした。
「それにそなたが我が国の為に天から降り立った使者ではないという事も、ジトランからの報告で知っている。そこで私の考えている事が……視えるか」
「僕が本当にこの国の力になるかどうかですか。僕としてはそのつもりなんですけど」
「何故か聞かせてくれないか」
「この国にはアリスお婆ちゃんとコルム、それにペルドさんとオーブル……他にも色んな人が居ますからね」
「そうか。だがこの国の多くの人間はそなたと関係のない人間ぞ。それでも護国の使者になるというのはどういう心持か」
「王様。僕はそれが誰、とかどんな人か、っていうのはあんまり関係ないんです。ただ、子供が、お父さんとお母さんと居られるようにする。それだけです」
僕の答えに王様は満足していない様子で、更に質問してくる。
答えられることは全部答えよう。
でも王様、そちらの質問が終わったら次は僕の番ですよ。
この国は、僕のしたい事をどんな風にやってくれるのか、それを聞きたいんだ。
「そなたには何か褒章を与えねばならぬと思うが、何を望むかな?」
王様はこの質問の答えで僕を視ようとしてる。
大人の人はこうやって人を試す人が多い気がする。
今思えばオーブルさんがペルドさんが言っていたようにすぐには会わなかった理由、解る気がする。
大多数より優れた力を持っていても皆と同じように出来るかっていう人格面を見られたんだと思う。
まぁ、それはさておき答えなきゃ。
「僕の望みは大体二つです、王様」
「ほう。一つの功績に二つの望みを求めるか」
「安心してください、無茶な事は言いません。それに内一つはオーブルっていう町長さんに僕が使われてるときから、ジトラン様にも引き継がれてる約束です」
「なるほど。そなたの譲れぬ所の、この国に仕える件と、褒章という事か。良かろう、申してみよ」
「まずアリスお婆ちゃんとコルムがイブンの街で安心して暮らせるように保護する約束を」
「ふむ、確かにジトランともその様な約束をして動いていたな。認めよう」
僕の言葉にゆっくりと頷く筋肉質な王様。
毎日鍛えてるのかな?
「次が僕の欲しい褒章です。街に孤児が出たとき、全てを救えとは言いません。お金の許す限りでいいですから、集めて食事と教育を与える制度を作ってください」
「ふ……む。似たような事は教会の神官達が行っている。彼らの領域に土足で踏み込むのは余りよろしくないな」
「では、王家が教会のしている事を助けるという名目で予算を組んでください。少しでも教会の救いの手から零れ落ちる子供が少なくなるように」
僕は少し言葉が足りないかなという気がしたので、更に一言付け加えた。
「もっといえば、教会の孤児受け入れの条件が緩和されるような状態と法律を作って欲しいんです王様。それさえ叶えてくれるなら、僕はこの国を守るための戦いなら何でもします」
僕のこの言葉に王様はゴクリと喉を鳴らす。
その目には僕に何をさせるかで渦巻いている。
「王様、親と引き離された子供を助けるだけで、邪魔な領主も、街に潜む不利益な悪人も、他の国から攻めてくる悪い人も、皆、皆焼いてあげますよ」
王様は僕の要求と刺す釘に、ピタリと思考を中断してその流れを変える。
「攻めてくる敵は?そなたからは攻めぬのか?」
確認するようなその言葉に、僕は頷く。
「王様。僕はできる限りお父さんお母さんを無くすような子供をだしたくないんですよ。だから、それを広げる攻める炎は持っていないんです」
「では邪魔な領主や悪人を焼くというのは?」
「戦争したがりとか、この国の人を無闇に傷つけるような、国を無闇に乱すような人は焼いた方が良い事くらい、僕みたいな子供でも解りますよ」
僕の言葉に王様が唸る。
そしておひげのはげた口の周りを苦々しそうに動かしながら言った。
「全て焼けば事が済むという事ではないのだよ。もしそうならこの世はなんと簡単なものか」
僕は王様を視る。
そこには確かに王様の王様なりの国を上手く維持する方法見たいなものが視えた、きっとそれは難しいことなんだろう。
「王様。国をきちんと治めるって難しい事で、正解なんてないのかもしれない。だから僕はその判断を、きちんとそういう事を専門に教えられた人に任せようと思う」
「……つまり、この国の次代の王となり、それに相応しい人間を王として立てる限り、そなたはこの国を守り続けるという事か」
「そうなりますね。王様、僕まだ十二……もう少しで十三歳にしかならない子供なんです。視通せるから騙される事はないと思うけど、難しい判断ってできないんです」
「王の権力の一部になることを望むか」
「僕の得を忘れちゃダメだよ王様。僕を使うことで浮くお金で、お父さんお母さんが居なくなった子供をできる限り救う。アリスお婆ちゃん達の生活の面倒も見る。いいかな?」
僕の言葉に、王様はしばらく考え込んで口を開いた。
「もしそなたが王に相応しくないと判断した王はどうなる?」
「んーと。代わりに王様になるのに相応しい人が居たら焼かせてもらうよ」
「……王の剣であり枷であるか。なるほどな」
王様は僕から視線を外して右に左に歩き始める。
「余は、そなたの条件を飲んでも良いと思い始めている」
王様はだが、と続けた。
「教会だ。教会は自らの権威を保つ為にお前が王に仕え、王の権威となる事を望むまい。神の使いたるお前の力を自らの物にしようと動くだろう」
「焼きますか?」
「は?」
「だから、王様が神様の使いを部下にするのに反対する教会の人。今の僕の立場なら焼かれた方が悪い者になりますよ」
僕の言葉に王様は耳を塞ぎ首を振る。
その顔は青い。
「そなたの言葉はまるで悪魔の囁きのようだ。余がそれを望めばそなたはそれを容易くなすのだろうな。そなたそのものが余の理性を溶かす毒のようだ」
「僕は悪魔なんかじゃない、ただの小学生です」
「しょうがくせい?なんだねそれは」
「……忘れてください。この国で言う商家の見習い小僧みたいなものです」
「そうか。まぁ、そなたの要求は最大限考慮しよう。だがそなたの扱いについては教会の教主と良く話し合わねばならん。無闇に焼かずに待ちなさい」
「解りました王様。僕は王様が僕の求めた条件と、心を忘れない限り王様の言う事をきちんと聞きます」
「それならばよろしい。ではそろそろ下がりなさい。余はそなたの意に応える為に様々な駆け引きを、領主に限らず行わなければならないから」
王様を視る。
その言葉に嘘はないようだった。
僕は安心して、鼻歌が歌えるならそうするくらいの上機嫌で王様の部屋を出た。
あれから、全てを決めるのには時間が掛かるといわれたので僕には少し自由になる時間ができた。
多分、それが最後のアリスお婆ちゃんとコルム達に会う、最後の時間になるだろう。
その後は僕は休むことなく、この国の維持の為に動き回る事になると思う。
だって僕はこの国のヒーローになるんだから。




