偉い人達の前での力の証明
僕は悪い人達を燃やした日、ジトラン様にイブンの町に帰っていいか聞いた。
そしたらジトラン様がこの国の首都であるエクセートに行って王様に報告をする時に、僕が居ないといけないから着いて来いと言われた。
僕は王都の位置を一度確認したら僕はすぐにイブンの町から間に合うように合流するって言ったんだけど、ジトラン様は駄目だと言った。
何でそんな事を言うのか解らなかったからちょっと視てみたら、どうやら今回の戦いにすらならなかった戦いの勝利の証として僕をおみこしに載せて帰るらしい。
僕の事を神様の使いとして帰る途中の道沿いに居る人達に見せて、この国は神に守られているってアピールしたいって。
僕は焼くのを我慢した。
僕が神様を嫌いなのをジトラン様は知らない。
何も悪い事をしてない。
それに、僕が王様に会わなきゃいけない理由もちょっと解る。
魔法なんてない世界で、選んで燃やすなんて事できるって、僕が居なきゃ証明できない。
ただ神様の使いっていう扱いをアリスお婆ちゃん以外からされるのは何だか嫌だなと思った。
でも、僕みたいな人間じゃない人……もう人じゃないけど……を説明するのに神様を使うのは仕方ないのかな。
そういうわけで、僕は組み立てられたおみこしに載せられて移動する事になった。
兵隊は最低限なのかな、四十五人で騎馬兵が十人、弓兵が十人にそれから食べ物と水を積んだ荷車を引く人が十五人。
後はできるだけ急いでそれぞれが元居た街に戻るんだって。
エリステルの軍隊が全部で三千五百人くらいいたから数は揃えたって言ってたけど、こっちが揃えられたのは千五百人くらい。
僕が居なかったら危なかったのかな。
そういえば僕が敵の軍の数を教えた時ジトラン様顔を青くしてたっけ。
僕が見てることに気づいたらすぐに元に戻ったけど。
そんなジトラン様の言う事を聞いて僕は王都までゆっくり半月くらい掛けて移動した。
その間大声で騎馬兵の先頭の人が僕の事を宣伝するのがちょっと憂鬱だった。
神、神、神、僕からお父さんとお母さん達と友達を奪った神という単語が連呼される。
僕に表情があったら、思い切り酷い顔をしていたと思う。
だからか、つい見せしめの為とジトラン様が僕の手の中に捕まえていろと指示した敵の悪い人が時折苦しそうな声を出させてしまった、反省。
しばらく経つと話というのは広がるのが速いもので、僕は道中で早速神の使いなら証拠を見せろという人達に出くわした。
僕はその度に適当な物を焼いてみせる。
それは鎧だったり、岩だったり、その時々で死んだばかりで埋葬する前の遺体だったりした。
最後の遺体はどちらかといえば僕を信じている人達が使うもので、棺も骨も残さず焼いて。
「全て天国に送りました」
なんていうと、酷く感激された。
この国の人達の焼くことで天に昇ると信じている心は強い。
僕には不思議なくらい、根付いている。
こうなると、今度は遺体だけじゃなくて、食べ物や服なんかも焼くように頼まれるようになった。
死んだ人のところに届けて欲しい、という事らしい。
そういう物に力を使うのは楽しいもので、綺麗に焼いてあげると皆喜ぶ。
喜ばれると僕も嬉しい。
嬉しいと力を使うのが楽しくなる。
コルムとアイム君、シャムちゃん、ジェムちゃんを空を飛ばせてあげる時みたいに。
そうして平和的な焼くという行為をしながら僕は二週間と三日掛けて王都に辿りついた。
ゆっくり進んだ僕達よりも噂話は伝わっていたのか、丘とジトラン様の住んでいるモーブの、大人の身長の二倍くらいの塀の、更に三倍くらいの高い塀に囲まれた王都は盛り上がってた。
僕達が大きなトラックも通れそうな門を潜ると、聞こえたのは歓声だった。
「銀の使徒様万歳!ジトラン様万歳!」
「悪辣なエヴァンデルの矛を焼き払った炎の使い手様!このパンを焼いてください!天国の祖父に届けたいんです!」
「おお……国を守る天使様…」
「メタル様ー!祝福をください!炎の祝福を!」
「おお…おお…ありがたやありがたや…」
「銀の使徒様のあの身体、鎧じゃないのよね。本当に不思議なお方……」
「うーあー」
「ばんざーい!ばんざー!」
色んな声が聞こえる。
隊を細くして街の人達が道の脇から手を振ったりする中を進む。
とりあえず、物を焼いて欲しいというお願いには即座に答える。
するとそこかしこで歓声が上がる。
中には何が起こっているのか解っていない子供の声も聞こえる。
そういう子達には手を振ると、良く解らずに振り返してくれるのが今までの旅で解っているのでとりあえず手を振る。
僕の行動一つ一つでさらに盛り上がる人々。
その間を静かに進んで、僕はお城の門の中に運ばれていった。
門の中に入ったらみこしからは降りて、ジトラン様に連れられて灰色の石と白い漆喰っていうの?で作られたお城の中に入る。
その時に、移動中ずっと捕まえていたエリステルの領主を城の人に預ける。
人質にするんだって。
入り組んだ内部をジトラン様と一緒に艶の無い黒の、学校の制服みたいなきちんとした服のおじさんに結構豪華な部屋に通された。
お城の中の飾りつけとかが地球に居た頃のTVで見た豪華ホテルに似てる、なんて思いながら待っていた。
そしたら背もたれの無い小さな茶色い革張りの椅子に腰掛けていたジトラン様が口を開いた。
「お前が陛下の御前に召しだされたら跪き、頭を下げろ」
「なんでですか?」
「そうするのが作法だからだ。巷で神の使いと呼ばれるお前が頭を下げれば王の権威は高まる」
「王様の権威っていうのは良く解らないけど、膝をついて頭を下げれば良いんですね?」
「そうだ。そして陛下が面を上げよというまでその状態でいろ。言われたら上げていい」
「ふむふむ」
「その後、陛下がお前に名前を聞いたり、何をしたかを聞いてくるからお前はそれに素直に答えれば良い」
「解りました」
「お前の功績を疑う領主がお前を馬鹿にするかもしれないが無視しろ。お前の力の証明する方法はこちらで用意している」
「解りました。とにかく僕は王様の前で言われた事だけをすれば良いんですね」
「そうだ。本当はもっと細かい作法などがあるが覚えきれんだろう。後はただ待て」
その後は僕はジトラン様に言われた事を何度も頭の中で復唱して、忘れないようにしながら待った。
ジトラン様は僕と必要以上に喋ろうとしない。
多分下手な事を言えば視られるのが気持悪いんだと思う。
会話が無くなってからもそれなりに待ったけど、それより王様に会えるって言うのが楽しみだった。
王様ってやっぱりひげとか凄いのかな。
派手な王冠を被ってて、真っ赤なマントにふわふわの毛皮をつけて、派手な服を着込んで杖なんか持っちゃったりしてるのかな。
僕は実物の前に行くまでそれを楽しみにしようと思っていたので、ずっとセンサーホーンの感知範囲を狭くしてる。
ああ、どんな人かな。
心を躍らせる僕は案内の、タスキを太くしたような刺繍がされた布を掛けたキラキラした服を着たお兄さんとジトラン様の後ろについて歩き出した。
石造りの廊下にある両開きの大きな扉、大人の人が片方に一人ずつ押して開くような扉を通って灰色の床が続く大きな広間に入る。
真正面の奥にある椅子には体格の良いおじさんが、黒いマントの下に真っ黄色の布地に赤い糸で良く解らないマーク、多分この世界の生き物のを刺繍した服を着ている。
王冠は思ったよりちっちゃかったんだけど、でも金ってたしか重いんだよね。
なら漫画みたいな大きな王冠な分けないかって納得した。
そしてジトラン様進まないなぁと思っていたら、扉を押し開けた人達が声を上げた。
「ジトラン領領主、クオストゥ・ジトラン様のおなり!」
掛け声と共にジトラン様が歩き出したんだけど、僕は呼ばれてないのにいいのかな。
でもとりあえずあれが王様かぁ、と思いながらジトラン様に続いて歩く。
僕の視界にどよどよとしたざわめきが立ったけど、面倒くさいから視ずに放って置く。
ジトラン様がしばらく歩いて、急に膝をついて頭を下げた。
ああ、ここでそうするんだと思いながら僕もそれに続いて頭を下げる。
「良く来たジトラン。それとそなたはメタルと申したか。こたびはエリステルの領主の暴発を押さえ、我が国への被害を最小限に抑えた功績、大儀であった」
「はっ、御言葉有難く存じますイシュラーダ陛下」
「うむ、二人とも面を上げよ」
王様の言葉でジトラン様が顔を上げたのが分かる。
僕も続けて顔を王様に向けた。
「ふむ。久しぶりだなジトランよ。メタルの方は……なんとも奇妙な顔つきよな。そなた真に神の使いか?」
王様が僕に言葉を向ける。
ジトラン様が僕を見て何か言いたそうにしているけど、多分変な事を言わないようにとか、そういう事だと思う。
でもあらかじめジトラン様が言っていた通りに話を進める。
「はい。僕はこのエクセント王国を守護する為に遣わされました」
僕の言葉に周囲のおじさん達が再びざわめく。
今度はきちんと全部視た。
信じられないという人、神に愛された国だという事に浮かれる人、僕を利用しようと早速親しい領主と囁きあう人達、色んな人達が居た。
それで、王様はというと。
「ふむ、にわかには信じられぬな。それを証明する事はできるか?」
王様は信じられないなんて言ってるけど、それもジトラン様が先行させた騎馬兵を使ってやり取りした手紙での打ち合わせ道理の言葉だ。
当然僕にも答えが用意されている。
「今回の働きは証拠になりませんか?」
僕の言葉に王様は足を組んで唸る。
それから周囲の領主を見回してから口を開いた。
「だがなメタルよ。ここに集まる者達の多くは本当にエヴァンデルのエリステルから軍が攻めてきたのか信じておらぬ者も多い。余りにも早く事が片付いた故にな」
その言葉にこそこそと、王様の言うとおりと言う様に頷く領主の人達。
これも取り決めどおり。
僕ではなくジトラン様が王様に言う。
「陛下。お許しが頂けるのであればエリステルの領主と、その配下の首を御前にそろえてお見せします」
ジトラン様が僕に指揮官の首を残して焼かせた理由がこれだ。
王様がゆっくりと頷いてジトラン様に許可を出すと、ジトラン様は一度広間を出て行ってしまう。
「さて、ジトランが居らぬ間に聞かせてもらうが。そなたの力は真か?」
「どの力でしょうか」
「まず最も信じられぬ見通す力だな。誰でも良い。見通してみせよ」
「解りました。では……」
僕は適当な領主を指差す。
「貴方は王に街道の更なる整備をして貰いたがってる。でも今この国に、一度にそれに手をつけ初めて全てをやりきるお金が無い事を知っていて、順番争いで国が割れるのを恐れて言えないで居る」
僕の指の先の領主さんの一人が驚いた顔をして、口を手で覆っている。
これを周りの領主さん達が見て、ざわめきが広がる。
まさか……とか、やはり……みたいなそれぞれの反応の違いがあるのは情報収集能力の違いか、親しいか親しくないかの差かな?
「ふむ。今この者言った事は本当か?嘘偽り無く申せ」
王様に命令されて僕の指差した領主さんは目を白黒させながら、何とか口を開いた。
「そ、それにつきましては陛下に私から申し上げる事は……」
少しの動揺を押し隠しながら誤魔化そうとする領主さんだけど、王様の観察力はそれを見逃さなかったらしい。
「確かお主の領地は北の鉱山を持ち、そこから採れる鉱石の貿易で領地を富ませていたな。そうなると街道の整備は望む所であろう」
「それは……」
言葉に詰まる領主さんの反応に、王様は手をかざして言った。
「もう良い。その反応だけでそなたの心は解った」
すっと手を降ろすと王様は一度目を瞑り、それから目を開くと僕に視線を向けてきた。
「次は焼く能力というのを見たいな。ふむ。これはどうするか」
王様が顎に手を添えて考え込み始めた時、開いた扉からジトラン様が戻ってくる。
その後ろには壷を三つくらい抱え込んだ人が三十人ちょっとと、僕が捕まえて引き渡したエリステルの領主さんが両脇を剣を腰に下げた兵士のお兄さんに連れて来られる。
「陛下、ただ今戻りました。これなるはエリステル領主と、壷の中身は全てエヴァンデルより我が国に攻め寄せた者達でございます」
ジトラン様は僕の前で王様に向かってまた跪く。
エリステルの領主さんは僕の後ろで押さえ込まれているようだ。
さらにその後ろに壷が並べられて、壷の蓋が開けられる。
すると広場に嫌な臭いが広がる、なんだろうこの臭い。
僕のセンサーホーンに嫌な臭いがまとわり付いた、という所で思い出した。
あれはお母さんが三角コーナーの生ごみを捨てるときに燃えるごみの袋を開いた時みたいな臭いだ。
それを見てざわめく領主さん達を落ち着かせるように王様は声を張り上げ、椅子から立ち上がった。
「静まれ!誰か壷を近くへ」
王様の言葉の後、しばらく領主さん達がざわついた後、領主さん達の中でもまだお兄さんっていう格好の人が出て行って、壷を持つ。
「陛下。私めが壷をお持ちします。お傍へ寄ってよろしいですか?」
「許す。近くへ寄るように」
「はっ!失礼致します」
お兄さんが壷を持って王様の傍まで近寄る。
王様はその中身を見て、頷いた。
「確かにエヴェンデル人の首である。後はそこなるエリステル領領主、アリオン・エリステルを見れば事は明白である」
王様の言葉に領主さん達のざわめきが納まる。
そこで僕は一つの提案をする。
「王様。僕の燃やす能力の証明にその壷を一つ使っていいですか?」
僕の言葉に、王様は肩眉を跳ね上げて僕を見る。
「ほう。どうするつもりだメタルよ」
「壷も、中身も、燃やし尽くします。白い灰になるように」
僕の言葉に領主さん達は何も言わない。
ただ王様だけが口を開いた。
「よろしいでは今壷を持っている物が床に壷を置いた後、見事を灰と化してみせよ」
王様の言葉に、壷を運んだお兄さんは僕と王様の中央くらいの位置に壷を置いてその場を離れる。
僕はそれを確認すると、魂の悪い部分も全て焼かれて灰になるように願いながら白光を放つ程度の熱で壷を中身ごと焼く。
壷は眩しい位輝くと後には灰が残る。
壷が燃えた後は沈黙だけが広間に残った。
誰も何も言わない、王様も目の前で起きた事に目を見張って動けないで居る。
でも王様はさすがに復活が早かったよ。
すぐに唇の震えを抑えて言葉を吐き出したんだから。
「大儀である。しかとそなたの焼く力。本物だと認めよう」
「ありがとうございます」
その後の何でも握りつぶせる力と空を飛ぶ力も簡単に証明できた。
握りつぶせる力は運び込まれた鎧を着た藁人形を圧縮したら。
空を飛ぶ力はもっと簡単だった、広間の中で天井近くまで飛び上がるだけで良かった。
こうして僕は沢山の領主さん達に怪物的な能力の生き物としと認められた。
その後、王様が下がれといったので部屋から出たんだけど、ジトラン様と同じ部屋に通された僕はなんだかこそこそとした人から、王様が個人的に会いたがっていると伝えられたのだった。




