僕の望みとは違う『信じる』
僕は家に居るアリスお婆ちゃんの所へ歩いていった。
飛ぶ気にはなれなかった。
お婆ちゃんに会いたいような、会わせる顔が無いような。
そんな中途半端な気持ちを抱えて歩いてお婆ちゃん達の家へ向かった。
「ただいまアリスお婆ちゃん」
「おやメタル。今日は仕事は良いのかい?」
「うーん。今日はっていうかさ。明日からこの町以外でお仕事することになったから。今日は休み」
「あら、それじゃ私とコルムも引っ越しかね」
僕から意識を外して、ご近所への挨拶をしなきゃねと言うアリスお婆ちゃんの肩にそっと手を置く。
「違うよアリスお婆ちゃん。町を出るのは僕だけ。後のことは町長さんに頼んであるから。安心して」
「そんな!私達を置いてっちまうのかいメタル!?」
「聞いてアリスお婆ちゃん。今度僕が仕事をする場所はちょっと危なくなるかもしれないんだ。そんな場所にお婆ちゃん達を連れて行けないよ」
「メタル。お前さん子供なのにそんな場所で仕事するなんて……何をしに行くんだい」
僕に縋りつくようにして聞いてくるアリスお婆ちゃんを安心させるように抱き止めながら、僕は言う。
「安心して。まだ危なくなるかどうかは解らないから。全部僕の調べ物次第なんだ」
「そうは言ってもねぇ……メタルの稼ぎで暮らしてる私が言えた義理じゃないけど、メタルが心配だよ」
「アリスお婆ちゃん。僕はお婆ちゃんが心配してくれるだけで凄く安心できるんだよ」
「でもねぇ……」
声に申し訳なさをにじませるアリスお婆ちゃんに、僕も少し甘えたかった。
「あのね、お婆ちゃん。僕はもしかしたら人も殺さないといけないかもしれないんだ」
「それは……炎でかい?」
「多分、そうなると思う」
僕は正直止めて欲しかったんだと思う。
アリスお婆ちゃんにそんな事やめなって言って貰えれば、本当はしたくない事、全部かなぐり捨てて、別の国に三人で逃げる選択をしたのかもしれない。
でも、アリスお婆ちゃんの言葉はそうじゃなかった。
「ああ。お前さんがあの白い炎で焼くなら大丈夫。きっと間違わない。なんせメタルは炎の神様の使いなんだからね」
僕を完全に信頼しきったアリスお婆ちゃんの言葉。
それは確かに僕の中の何かを壊した。
「本当に、僕なら大丈夫だと思う?」
「本当さ。メタルはちゃんと燃やすべきものだけを燃やす、そんな力があるよ。私はあの神々しい炎を見てから、その事だけははっきり解ってるんだよ」
「そっか。僕なら大丈夫かぁ」
「え?どうしたんだいメタル。なんだか元気が無いよ」
僕は元気の無い声を出しちゃったみたいで、アリスお婆ちゃんを心配させてしまった。
こんなんじゃいけないよね。
これからどのくらい離れてることになるのか解らないんだから、心配させちゃいけない。
だから精一杯の元気を出すんだ。
「うん。アリスお婆ちゃんがそう言ってくれるなら、きっとそうだね」
「自信を持つんだよメタル。お前さんは正しい。だから安心してお前さんは燃やすべきものを燃やしなよ」
「解ったよアリスお婆ちゃん。僕は自分が正しいと思った時に燃やす事を躊躇わない。約束する」
「そうそう。それでいいんだよメタル。お前さんは神様の使いなんだからね」
僕はアリスお婆ちゃんを放すと、頷いた。
神様の使いなんて絶対嫌だけど、与えられた見通す力を信じて僕は力を使おう。
貰った力が元になるけど、それは僕が考えて、僕が使う。
そこまで考えて気づいた。
僕は今までずっとそうしてきたじゃないか。
アリスお婆ちゃん達の村を焼いた時も、ガレオスを狩った時も、オーブルさんの出した条件にしたがって力を使っていた時も。
僕は、僕なりに考えて、僕の意思で力を使ってきたんだ。
そう気づいてしまうと凄く気が楽になった。
アリスお婆ちゃんの言った通りだ。
僕は正しい道を進んできた。
そう思おう。
人も、精獣も同じだ。
僕は僕の都合で焼く。
それが少しくらい、そうジトラン様みたいに僕を使おうとする人の意思に沿っていたとしても、それはただの偶然。
僕の力で得をする人も、損をする人も居ると思う。
いや、確実に居たんだ。
だから今更だよね。
もう迷わないよアリスお婆ちゃん。
だから僕を信じていて、アリスお婆ちゃん。
「アリスお婆ちゃん」
「なんだい?メタルや」
「僕、しばらく会えなくなりそうだから、アリスお婆ちゃんの蜂蜜菓子の匂いを感じたいな」
「おお、おお、おお。任せておくれ。私しゃはりきって作るかね!明日から離れるメタルのためだし、腕によりをかけて作ってあげるよ!」
アリスお婆ちゃんはからからと明るい笑い声を上げながら台所へと入っていった。
僕はきっと笑顔を作る事が出来たら笑っていたと思う。
だって、僕の気持ちはとても穏やかだから。
「メタル、どこかいっちゃうの!?」
アリスお婆ちゃんの蜂蜜菓子の、ふんわりと暖かく甘い香りを楽しんだ後。
お茶と一緒にお菓子を食べるアリスお婆ちゃんと話している途中で帰ってきたコルムに事情を話したら、しがみつかれちゃった。
僕は行かないよって言ってあげたいけど、そういうわけにもいかない。
「うん。お仕事でね、ちょっと遠くに行くんだ」
僕の言葉に、コルムはぎゅうっと僕の足にしがみつく。
なるたけ優しくそんなコルムの、柔らかい髪を撫でてあげながら僕は言う。
「大丈夫。きっとまた会えるから」
「ほんと!?やくそくだよ!?」
「うん。約束」
「メタル、やくそくしてくれるんだ」
「そうだよ?それって大切かな」
「たいせつだよぉ!やくそくはぜったいまもらなきゃいけないんだから!メタルもまもるの!」
ああ、コルムは本当に小さいんだなと思った。
僕は地球で全部の約束を守れたわけじゃなかったから、約束なんて、ちょっとした事で駄目になっちゃう事だって知ってる。
でもコルムはまだ約束は絶対だと思ってて、それはきっと大切な心で……それがまぶしい。
「そうだ、コルム。アリスお婆ちゃんが焼いた蜂蜜菓子がまだ残ってるよ、晩御飯までまだちょっとあるから、食べない?」
「たべる!わたしアリスばーばのおかしだいすき!」
「そうかぁ。それはいいね。僕もアリスお婆ちゃんの蜂蜜菓子好きだからね」
「メタルといっしょ!」
「うん。一緒」
こうしてずっと一緒に居られたらいいのに。
アリスお婆ちゃんとコルムと僕で、ずっと一緒に。
いや、そうじゃない。
これを守るために僕は行くんだ。
僕が二人を守るんだ。
「ねぇコルム。手遊びしようか」
「いいよ!いっせーのー……」
「せっ!」
コルムは親指を出して、僕は人差し指を出す。
コルムのお母さんに、僕のお父さんは負ける。
こうなる事はセンサーホーンで見通していた。
「やったー!メタル、もういっかい!もういっかい!」
「うん。コルムが飽きるまでやろう」
僕は適当に勝ってわざと負けているの悟られないように、コルムに沢山の花を持たせた。
勝って喜んで、負けてむくれるコルムが可愛くて。
アリスお婆ちゃんも仲間に入るまでずっと手遊びを続けた。
その後も、アリスお婆ちゃんのご飯を美味しそうに食べるコルムを見たり、ベッドに入って眠る二人を見たりしてから、僕は飛んだ。
僕の飛ぶ速さに限界は無い。
ただ、この世界でそんな速さは必要ないんだけど。
とりあえず時速二百kmくらいで北東に飛ぶ。
まずは国境にたどり着いて、そこから探索を始めよう。
僕のセンサーホーンの前に隠し事が出来るのは、多分この力をくれた神様くらいだろう。
さあ、エヴァンデルっていう国を丸裸にしちゃおう。




