15・デジャヴ
肌寒い雨の日。閉店の準備で鍵を閉めていたはずの店のドアを蹴破って入店してきた人影。
どこのクソガキだ、と文句を垂れようと顔を上げた彼はそのまま固まった。
それは、いつの日かのデジャヴ。そこに立っていたのはずぶ濡れになった、よく見知った人物。
「…おっさん…」
『…ノーマン…』
あぁ、あの日だ、と彼は目を細めた。
「頼む、おっさん……武器、持てるだけ売ってくれ」
『頼む、ノーマン……武器を売ってくれ、持てるだけだ』
同じ目をしやがるのか、と。あの時と同じ対応をするのだと、座っていたイスから立ち上がりながら彼は思った。
とりあえず、ラックに掛かっているものの中から比較的水を吸いそうな服を掴み、店に入ってきた人影、リオへと投げる。
「とりあえずそれで拭けるだけ拭け、商品が濡れるだろ」
投げられた服をしばらく眺めた後、弟はそれで頭をがしがしと乱暴に拭き始めた。
「Good、付いて来い、こっちだ」
滅多に人を通すことの無い部屋に、弟は案内された。
「…聞かなくても何となく分かるが、何があった?」
「…兄貴が拉致られた」
『…マリアが拉致された』
Oh my god…これは何かの呪いか、と、ノーマンは内心呟いた。
あの日と、全く同じではないか、と。
そして思い出した。古い付き合いの友人がこうぼやいていたのを。
『兄弟になれるか、心配だ』
「ふっ…心配しなくとも、お前らは良く似てる」
「…何か言ったか?」
「いや、何も。ほらココだ。好きなのを好きなだけ持ってけ」
「…Thanks」
所狭し、と並べられた銃火器。それをごそごそと触る後姿が、昔の面影とダブる。
ノーマンは苦笑いし、自分も手近な武器から吟味しはじめる。
「…何やってんだよおっさん」
「てめぇ1人だけで行かせるかよ、ガキ」
20年近く前になるというのに、鮮明に思い出すことが出来る、己が言った言葉までも。
同じセリフを紡ぎ、にやりと微笑んでやった。
「てめぇに何かあったら、兄貴に張り倒されちまうからな」
『てめぇに何かあったら、マリアにぶん殴られるからな』
あの時のような最悪の結末を、どうか迎える事のないようにと祈りながら。
と、そこで彼の意識は暗転する。
「………まったく、何て夢だ」
彼、ノーマンはデスクに付いた肘がガクリと崩れる衝撃で目を覚ました。外は雨、冷え込んだ空気に、そろそろ雪が降るかもしれないと悟る。
「…こんな日だったなぁ、ってか…?」
うたた寝から目を覚ました彼は自嘲気味に小さく笑うと、イスに凭れたまま背筋を伸ばし、うっすらと結露した窓から外を眺めた。ここまで街の喧騒は届いてはいないが、どこへいってもクリスマスソングが溢れ、モミの木が飾られ、どこもかしこもキラキラとしたイルミネーションで飾り立てられている。
「…もう、18年か」
早いもんだ、そう呟いた彼は店を閉めてしまおうと、のそりとイスから立ち上がった。
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