12・納得いかない
「右だ、後ろからも来てるぞ」
「う、うわ!マジかよ…!ちょ、し、死ぬ…!」
外では雷が鳴り、カンカンと窓を打つのは雨か霰か。夕方、悪天候の薄暗い室内、最小限の照明だけ点けたリビングに兄弟は居た。
弟は必死の形相でコントローラーを握り、ソファには座らず床に胡坐をかいてテレビの真ん前へ。兄はといとソファに座り、同じくソファに上がったダンテの頭を撫でながら、にやにやと弟が慌てる様を傍観している。
「うっわ、気持ち悪っ…!内臓出てるぞこいつ…!!」
「…お前が買ってきたゲームだろう?」
弟は、前回の仕事で兄に重症を負わせてしまったのは死に損なった敵の姿に驚いたせいだと言い、慣れるためだと言ってゾンビと戦うという主旨のゲームを購入してきたのだ。
「バリーに聞いて、一番イイやつにし…うわっ!」
「…あぁ、学校の。しかしお前…こういうのが苦手だったんだな」
「う、うるせぇな!いきなり出てきたら誰だってビックリすんだろーが!」
襲い掛かってくるゾンビに、一々リアクションしながらコントローラーを弄り回す弟を、兄はしげしげと眺める。映画など、全くといっていいほど見ない性質の兄、弟がホラーものを苦手としている事など知らなかったため、珍しいのだ。
「お前にも苦手なものがあったんだな」
「…べ、別に苦手ってわけ、じゃねえしっ?!」
新たなゾンビに出くわし、語尾がひっくり返る弟。兄はそれを見て小さく笑った。否定が否定になっていない。
「くっそ……」
「詰まったら貸せ。俺もしてみたい」
「…出来んのか?」
「チュートリアルから見ているからな、多分出来るはずだ」
その後、どんどんと出現するゾンビにたまらず根を上げた弟からコントローラーを託された兄は、ゲーム初心者にも関わらずサクサクと敵を倒して行き、その日のうちにクリアしてしまうのだが、それにヘソを曲げた弟が必死になってプレイしたのは言うまでもない。
余談だが、ダンテの寝床はしばらく弟の部屋になったとか。
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