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巫女さんに憧れ!~女子高生の夢は神社の巫女さんになること。齢18(アルバイト)可愛く素敵な巫女さんに意地でもなってみせる 

作者: sadakun_d

寒い冬が過ぎ春の訪れる頃である。仲良しクラスメイトの中学生たちは神妙に神社の拝殿で手を合わせる。


パンパン


可愛らしい制服姿中学生がぞろぞろと横一列に並び真剣な表情で手を合わせた。


パンパン


中学生のひとりが深く(こうべ)を垂れた。他の女の子も右に倣えと柏手を打ち神殿を拝み頭をさげた。


仲良し中学生のチャコはクラスメイトに誘われてこの由緒ある神宮に御詣りをするのである。


パンパン


中学生たちは小さな手を合わせゴモゴモと口ごもる。

「神様お願い致します。私たち仲良しは受験生です。この神宮様の裏手にある女子学園にどうしても行きたいです。みんな揃って合格して学園に通いたいです」

中学生は手をパンパンと合わせる。


仲良しの仲間チャコも様子がよくわからないが願いを神殿に告げる。


パンパン


「学園にいきたいなあ〜私」


仲良しクラスメイトは全員揃って可愛らしい柏手をパンパンとする。


神宮を訪れた参拝客になんと可愛らしい愛嬌のあるお嬢様だと微笑ましく見える。


手を合わせたチャコは願い事をするには手ぶらではいけないと可愛らしいポシェットをゴソゴソする。中から財布を出した。


ジャラジャラと小銭を選り一枚取り出す。他のクラスメイトもチャコを真似して小銭を取り出す。仲良しグループは息もぴったり合うようである。


チャリン〜チャリン〜


拝殿の賽銭箱に小銭の投入音が鳴り響く。


パンパンと柏手。チャリンチャリンと小銭。いつも神社神宮で見る光景である。


由緒正しいこの神宮の本殿奥。ぐっすりと眠る"神様"がパチッと片目を開けた。神様は年始に大忙しのために今頃は冬眠をしていた。いや長めの休養を取ったのが正解かもしれない。


ウグッ


神様は片目を開けた半分寝た状態でいる。寝ぼけ(まなこ)でチャコたち中学生の合格させて欲しい願望を聞き届ける。


女子学園に合格祈願させて欲しいのか。ケツの青い中学生が可愛らしい願い事をしているなあ。


神様としては学園に興味はなさそうである。彼女らの賽銭の金額も大したものではないと判断をした。神様の片目は開けられたが徐々に閉じてしまいそう。うたた寝と微睡みの冬眠に入ろうかとうつらうつらし始める。やがてバチンと閉じてしまう。チャリンチャリン


オッ!神様は目をパンと開けた。御賽銭箱にキラキラ光る硬貨が入った。神様の大好きな御賽銭が投入された。


チャリンの音色は五百円硬貨一枚である。コロコロと万両箱型御賽銭箱に入ると転がりこむ。他の少額硬貨の上にデンっとチャコの御賽銭は積み上げられた。


中学生のチャコが投げ入れた五百円は神様の眠気を払拭してしまう。チャコだけは仲良し中学生と別に賽銭を追加で投入してみた。


チャリンチャリン


神様はパッチリと両目を開けた。御賽銭の音色が神様に心地よかった。


おっ太っ腹な中学生だわい。


この時期の参拝客は少額な小銭ばかりを選んで投げ入れる。うたた寝する神様には荒稼ぎした正月3ケ日が懐かしい。


神様は中学生のチャコがいっぺんに好きになった。この閑散とする拝観の時期に。


さらにチャコの打つ柏手は力がこもりパンパンの音色はリズムもよく神様の目覚めに最適であった。


おおっそなたらが中学生仲良しクラスメイトの姫たちか。可愛らしい制服中学生は神様も微笑ましく見えた。


神様は奥の院にある本殿からすくっと顔を出した。滅多に拝観客など見たくない神様である。


拝殿に出てみた。可愛らしい中学生たちが揃って手を合わせている。改めて眺めるその姿は圧巻であった。神様は女子中学生をつぶさに眺めた。


ひとりひとり中学生を見ると幼い顔やませた顔、そしてひねた顔もあった。


おっ!


神様は柏手の上手なチャコを見て思わず唸った。パンパンの絶妙なタイミングと音色。長年神様をまっとうする神様心を翻弄するようなものではないか。


この娘は…この娘って


神様はハッとしてしまう。中学生のチャコを観て驚く神様。息が止まりそうな衝撃を神様がチャコから受けた。


よほどチャコという女の子が神様気に入ったのか。単に寝ぼけて物好きなだけなのか。


神様はチャコの容姿に惚れてしまう。ついでに女子学園に合格したいという願掛けを聞き届けた。(チャコの合格を約束する)


チャコら中学生は参拝を終え拝殿より姿を消そうとする。その際にチョイっと神様はチャコの背後に寄り添う。チャコの背後に建ちポンっと頭に触れた。正確にはチャコの前頭葉の襞(記憶中枢)に触れたのである。


仲良し中学生らは拝殿から帰ろうとする。彼女らは受験生の身分。少しでも暇があれば勉強である。

「さあ帰ろうか。私英単語もう少し覚えておきたいなあ。女子学園の英語って単語がわかればなんとかなるようだから」

英語の得意な女の子はじゃあねっと手を振り駈け足で帰宅する。


彼女の後ろ姿を神様は眺めていた。

「神様に合格をお願いしたあの女の子。実力はあるから受験は心配ないさ。大丈夫しっかり当日は頑張ってくれ」


他の女の子もひとり減りふたり減りとてんでばらばらに散っていく。


最後にチャコと女の子が門前で残る。女の子は心配顔である。学校の成績は芳しくなく受験に失敗しそうであった。


「チャコは受験は余裕さんね。実力あるもの。憧れの女子学園に合格さんね。羨ましいなあ。私はダメだわ」

女の子はため息をついた。


彼女は中学の進路指導担任から女子学園受験は危ないと言われワンランク落とす学校を狙いなさいとアドバイスを受けていた。


チャコは余裕があると言われちょっと戸惑う。

「あらっ私だって余裕なんかないわ。勉強嫌いだから。ただお友だちが神宮に合格祈願しましょうと言うからお付き合いしたの。あなたは頑張って勉強してね。女子学園の制服が似合うわ」


チャコは単刀直入に女子学園なんかとても受かるとは思わないと告白をした。


チャコは女の子を慰めるつもりである。中学の成績は彼女の方が"少しまし"な程度である。少なくともチャコより合格する可能性は高い。

「神様に合格をお願いしたんだからあなたは大丈夫よ」

チャコの方こそ担任に女子学園は受からないから受験してはいけない。キッパリと諦めなさいと言われていた。


「チャコちゃんチャコちゃん。もう今日は何の日かわからないの。いつまで寝てるのよ。早く起きなさい」

すやすやと天使のように羽毛布団の中に眠るチャコ。母親に起こされると眠い瞼がそろりそろりと開いていく中学生のチャコ。


「ウワァ〜もう朝なの。やだなあまだ眠たいの。起こさないでちょうだい」


コテン


母親に起こされた中学生チャコ。本日は特別な日。彼女の高校受験であった。


眠い眠いチャコはようやくベッドから起きあがる。顔を洗い眠気を吹き飛ばしてはいるようだが盛んにアクビを繰り返していた。


ファ〜


心配顔の母親は早く朝食を食べなさいと促す。食欲旺盛なチャコは食卓にちょこんと座るやいなや眠気を吹き飛ばそうとする。


ブルブル〜


大きな顔を2〜3回振ると微睡みの顔は消えかけて食事に燃える女の子チャコに変身をする。

「はっ朝ごはんだわ」

箸を持ちパクパクと出された目玉焼きベーコンを口に入れていく。


モグモグ〜ゴックン


「もうチャコったら。あれだけ眠い眠いって言っていたのに」

食べ物があれば眠気もだるさも何もなかった。


昨夜は夜更かしをしチャコは受験勉強に勤しんでいたのだ。無理もない受験生であるから…


うん?


いやいや受験生は正しいが勉強なんか大嫌いな女の子である。机に向かいお勉強など少しもやらなかった。ひたすら憧れの女子学園のパンフレットを眺めていたのである。

「受験勉強だなんて嫌だなあ。どうせ私みたいなおバカさんは勉強しても受かるはずないもん」

チャコは夜更けまで憧れの女子学園のパンフレットを眺めるだけ。気分転換に学園サイトをクリックしてよしよしと満足をする。学園の様子を眺めるだけで入試に合格した気分となってしまう。


受験生だが受験勉強はひとつとしてやらず。入試問題なんかひとつとして解けないわっと諦めムードいっぱい。ただ単にクラスメイトが学園を志望するから同じように願書を出し受験の日を迎えるだけであった。


但しチャコは憧れの学園のパンフレットを異様なまで熟読していた。勉強は嫌いだが興味のあることは博覧強記となって鬼のように覚えてしまう。


パンフレットに明記された歴代理事長や学園長の名前はもちろん記憶する。学園の学債発行割当や持ち株主名。学園の取引銀行や信用金庫まで知らなくてもよいのに記憶してしまう。パンフレットに僅かある誤植プリントも丁寧ながら覚えた。


「これだけの先生が尽力してくれたから女子学園が創設されたのね。私の憧れの学園に今はなったのね。あらっ銀行からの借り入れ金額ちょっと多めじゃあない」

経理会計に素人のチャコでも気のせいか学債の調達方法に不明朗な経理処理があるとピンとくる。(学園経営の杜撰さで倒れないかなと心配だ)


チャコはパンフレットを熱烈に読む。神様が前頭葉をビンビンに刺激していく。不明朗な会計処理などチャコに無関係。学園に借金があろうとなかろうと受験生のチャコには関係ない。


ハアッ〜


天井眺めてため息をつく。学園に憧れて入試に受からなくちゃ。しかし女子学園って経理がザルなんだね。誰か理事あたりが学園の経理を不正流用して穴を開けていそうだわ。


チャコはさらにパンフを熟読をする。ここまで来ると神の領域であろうか。一枚の学園紹介パンフレット程度で何もかも見透せる(すべ)はありはしない。


アッ!


チャコは頭を振り振り閃いた。脳裏に学園の様子がフラッシュされていく。

「やだぁ理事長さんたら。やたら学園の金庫を開けて中を見ているわ。しかもまわりキョロキョロして。まるで泥棒さんじゃあない」


チャコは学園の理事長室内が透視できた。不正経理はチャコの脳裏にはっきりわかり理事長の顔さえくっきり写し出されてしまう。


(チャコの脳裏映像の中)理事長はまわりをキョロキョロしながら金庫のロック鍵を廻す。


今の時期に理事長室内の特別金庫に現金や為替など女子学園の受験料がしこたま保管されていた。理事長はこっそり金庫を開け数百万ほど着服しようかとしていたのだ。


長年勤める理事長の椅子。不正流用は学園の会計監査らにもノータッチとなる。学園創設者の直系の孫にあたる理事長の不正など発覚することはなかった。

「しめしめ。学園の中等部や高等部の受験生の数をちょっと減らしておけば業務上特別横領はまず発覚はしない」

理事長は金庫の前にドカッと腰掛け堂々と現ナマと現金為替などを背広に仕舞いこむ。


この理事長の金庫からの盗難一連動作はチャコにはお見通しとなっていた。盗みを働く理事長はなんとなく背中に異様な視線を感じてはいた。


一方のチャコ。勉強しない受験生チャコは部屋にこもり机に向かう気配すらなく。ひたすら学園に入学することを夢に見てボサッとしている。

「なんかの間違いで合格しないかなあ。全然私普通の受験生じゃあないんだもん。勉強大嫌いだし。でも憧れの学園には行きたいし。クラスメイトのみんなが学園に受かり喜んだ。だけどバカな私だけ落っこちて見たことも聞いたこともない三流の学校に行くなんてカッコ悪いなあ」

ベッドに横たわり天井を眺めるチャコ。ひたすら学園に合格したら何がしたい、こうしたいと夢だけを見ているチャコである。


チャコは取らぬ狸の皮算用だけをしていた。受験勉強などせずに学園に受かり通学したいチャコを思い浮かべた。


夏休みにチャコが突然女子学園を受験したいと言い出した時である。中学の担任とチャコの両親は難色を示したことを思い出す。身分不相応な受験は好ましくはない。

「チャコは女子学園を志望します。だって仲良しのクラスメイトみんなが学園に行くって言うもん。私だって憧れているんだもん」

担任は憧れだけで受験はできない。だからやめておきなさいと即答をした。


チャコの学力に適した学校に志望を変更しなさい。学園はチャコには高嶺の花である。夢は持ちなさい。憧れという気持ちはなにかと尊いですからね。だがいずれも現実のものとなった試しがない。担任自身大学受験に失敗しており説得力のある話をした。


チャコの学力で合格はしないぞと志望の変更を強く求めた。


担任の助言にチャコは嫌っと拒否する。クラスメイトが受験するのに私だけやめるなんてできない。可哀想なチャコは担任に諦めなさいと言われショックである。チャコは気丈な女の子と見られがち。だが本質はナイーブな乙女さん。


教室で堪えきれずワンワンと声をあげて泣いてしまう。チャコの泣き声は大きく隣のクラスにも聞こえてしまう。ことは騒ぎに発展してしまい担任は面目丸潰れである。

「わかったわかったチャコ。もう先生は君に何も言わない。チャコの好きにさせてやる。だから泣かないでくれ」


好きにしてよいと言われた。


チャコはケロッと泣き止んだ。見事な役者ぶりを発揮した。端から見たら可愛げのない女の子になってきた。


女の子に泣かれた担任は不満である。どうせチャコは落ちるんだ。だから高い受験料が無駄になると捨て台詞を吐き説得を諦めた。顔を真っ赤にして教室を出る。

「後は先生は知らない。君の好きなようにしてください。責任はチャコが取りなさい。先生は君に受験指導をすることはまったくしない。女子学園だろうとなかろうと」

担任に見放されたチャコである。


私意地で女子学園に受かってみせるもん。私にはあの女子学園のかわいい制服がよく似合うんだもん。


教室の中で目を真っ赤にして泣き腫らしたチャコ。なぜか自信がわき上がり元気が出る。


「私は受験するもん。憧れの女子学園の制服を着るんだもん。仲良しクラスメイトのみんなと御揃いの学園制服を一緒に着るんだもん。チャコだけ違う学校になんて行きたくないもん」

半泣きしながらチャコは高らかに受験宣言をした。仲良しクラスメイトはチャコの周りに集まる。

「チャコちゃんと女子学園に行きたいね」

仲良しのクラスメイトからチャコに拍手がパチパチと巻きあがった。


女子学園受験当日のチャコは食欲旺盛。朝からテンション高めである。

「チャコもう少しゆっくり食べてちょうだい。食べ過ぎたら試験問題を解いていて腹痛になると大変よ」


朝からチャコの食欲のなすがままにガツガツと食べていく。受験だから食が細くなるなんてどこのお嬢様であろうか。


栄養をたっぷり摂り満足するチャコ姫である。食べることが唯一の楽しみ。それが女の子チャコちゃんと言える。

「大丈夫よ。腹が減っては(いくさ)はできぬ。お母さんおかわりちょうだい」

元気よく膳を進める中学生チャコ。まもなく受験生となり運命の高校進学を迎える身分だと誰か想像できたかどうか。


チャコの憧れの女子学園は有名高校。地元の女子中学生はともかく近隣の子供も憧れを抱き遠方からわざわざ受験をし通っていた。


「女子学園はいい高校よ。私のクラスの女の子はみんな行きたいっていうの。仲良しクラスメイト全員が学園に行くんだもん」

地域の中学生が憧れる女子学園は魅力に溢れていた。


学園の女子高生が着る可愛らしい制服は有名デザイナーが手掛けていた。チャコは一目見て制服に恋をしてしまう。清楚な女子高生をイメージし華やかな感じもある。女子中学生からは女子学園生をみるとため息が出るようである。


女子学園の卒業生にタレントやモデルという華やかな世界で活躍をするOGがいた。芸能輩出がチャコら中学生の憧れに拍車を掛けていく。


受験生チャコは朝ご飯をパクパク勢いよく食べて家を飛び出した。玄関先で母親はチャコに頑張ってと声を掛ける。

「チャコ頑張って。お父さんやお母さんは朗報を待っているから」


待っているからという母親はもしも何かの間違いでチャコが合格したりしたら女子学園の学費は一体いくらになるのだろうかと心配になった。


元気いっぱいの受験生チャコ。学園の受験会場に向かう途中同じ中学のクラスメイトと合流した。


仲良しクラスメイトといると何かと気が落ち着くようでチャコは不勉強の不安から逃れることができる。


クラスメイトの仲間は皆さん一生懸命に受験勉強に勤しんでいた。


英語の得意な女の子は中学受験英語をほぼ完璧なまでに理解していた。担任からは学園は合格する。うまくしたら特待生扱いで合格するかもしれないとまで言われてもいた。

「私の得意な英語。高い得点が期待できたらなあ。英語だけで学園に合格した幸せだからね」

特待生になれるなんて夢の夢よと彼女は可愛げに照れてみせた。


そして入試は始まる。

「勉強大嫌いなチャコちゃん。こんなややこしい英語問題わかるわけないじゃん。日本語だってよくわからないんだから」

入試の第一時限目の英語である。


チャコはうーんと唸ったまま身動きできなくなった。


英語問題をじっくり眺めた。名前と受験番号を書き込み終えたら動けない。あとは何が何だかさっぱりの様子である。


さっぱりわからん。英語ばかり書いてあるから問題なのか問いなのかもわからん。情けない話である。


チャコが頭を抱え英語に悩む。背後にいる神様が目を見張った。神様もチャコと揃って英語問題に目を通す。


うん!あちゃあ神様は英語がわからない。日本生まれ日本育ちだもん。チャコちゃんゴメンチャイ。チャコの前頭葉にパチンとスイッチを入れることができなかった。


神様にも苦手があるようで。手を添えることができないまま英語は終わった。


仲良しクラスメイトの女の子。英語の出来は満足である。

「(英語の試験は)嬉しかった。だって私の知らない単語が全然なかったの。満点に近い得点いけそう」

英語でハイマークをゲットしそうである。学園には特待生で入学できそうだと仲良し同士喜んだ。


第二時限は数学である。チャコはこれも英語と同様で何が求められているかチンプンカンプン。


入試問題に満足な解答はまったく記せないチャコは天を仰いでいた。


チャコの背後の神様。ちょっと数字を眺めただけで震えが来て卒倒寸前である。神様は理系が嫌いであった。


(役に立たないぞ神様。好き嫌いの激しい神様だなあ。じゃあ得意はなんだろうか。神様は高校入試受かりません)


数学もちんぷんかんぷんなチャコ。することがなくてついグゥ〜と居眠りしてしまう。やたらに無理に数字を読んだりしたらチャコは頭痛がしてくる体質であった。


背後の神様もチャコと揃ってグゥ〜


最後の課題は論文(作文)である。

「ああっ作文なんてヤダなあ。私試験問題ちっとも解答することできないし。なんか学園に来てはいけないのよ。入試問題ちんぷんかんぷん。最後に苦手な作文ですって。ますます私は学園から遠ざかりだわ」


普段は漫画しか読まないチャコ。ろくろく本など読むはずはない。作文なんて書いたことも読もうとしたこともなかった。


「学園は私の嫌いなものばかり出してくるんだもの」

チャコは諦めムードいっぱい。


「入試は落ちたわ。だから作文なんてどうでもいいじゃん」


仲良しクラスメイトの中、チャコだけ受験失敗かと落胆してしまう。

「早くお家に帰りたいなあ。母親の作ったお菓子(ショートケーキ)を腹いっぱい食べたいなあ」

入試に関係ないことを思うチャコである。冷蔵庫から取り出す冷えたアイスクリームが頭をぐるぐる巡る。食べて見たいなあと楽しみが広がるチャコ。開き直る受験生チャコになる。


背後にいる神様もアイスクリームとショートケーキが思い浮かべられた。


「うん?神様は洋菓子よりもじゃあなあ」


神様は熱いお番茶に御饅頭である。御饅頭は大好物で日本中どこにでも和菓子があると出向いてはパクパクいただいていた。その後は神様少し糖尿病になり後悔をしてしまう。


小論文の原稿紙が全受験生に配布される。受験生は最後の課題だからと気合いを入れ直す。しっかりしなくちゃと女子中学生は原稿に向かう。


この作文ぐらいはしっかりと書きたいと思う。学園の受験会場の女の子は神経を集中していた。


…チャコ以外は


試験官は受験生の原稿配布などの書類を確認する。

「皆さん準備はよろしいですね」


時を見計らい試験官は黒板に大きな字で課題を記す。


"この女子学園でやりたいこと"


学園での学生生活に夢をと課題を出題した。


受験生は待ってましたとサッと書き始める。彼女らは学習塾からこの作文課題を想定されていたのである。塾の講師の言いなりに作文を記せば合格は間違いなかった。合格を確信しながらさらさらと書いていく女子受験生ばかりである。


受験生は一斉に書き出す。まるで機械のごとくサラサラと。だがチャコはアヘッと上を向いて知らんぷりである。


チャコは学習塾も何も関係などなかった。学園受験合格対策は何もしていない偉大なる受験生チャコちゃん。


作文の課題を反復するチャコ。

「学園に希望することを書くのかな?学園には入りたいなあっ。だけど受かりませんから希望はないなあ」

天井を眺めたチャコはプイッと横を向く。チャコは試験ができなくて落ちたんだ。だから通いもしない学園に希望も夢も作文も書く気持ちもないもん。


開き直る受験生チャコは益々最強な女の子になっていく。

「だって私受験科目はとことんダメじゃん。だから作文ぐらい試験官に一泡吹かせてやりたい。よし書くぞぉ〜。なんて気にならないなあ」


いやいはや作文もさっぱりで"だるまさん"状態のチャコ。手も足も出ない。


作文作成時間40分が刻一刻と過ぎていく。チャコはひたすら天井を眺め暇を潰すしぐさである。気が向くと原稿紙をちらほら見ては"ため息"をつく。

「なんにも思い付かないもんなあ。学園に希望なんてないじゃん。敢えて言うなら私だけ特別枠で入学させなさい。エヘッチャコは女子学園の太陽になれますわっ。なんてね。ささやかな希望さんでございます」

チャコはあまりに暇だから"へのへのもへじ"を原稿に描こうかと思う。


シャーペンを握り"へのへのもへじ"を描いちゃうかなあ。"へ"の字をちょっと描くかなと試みるチャコ。


(へのへのもへじ)頭の中で悪戯心が走り回る。


チャコの背後の神様がメッと睨みをきかせていく。チャコは頭がズキンズキンと痛む。少し前屈みになる。するとチャコの前頭葉がカチンと音を立てた。チャコの知能を刺激するスイッチがオンとなった。神様は自らの頭に鉢巻きをしチャコのために知恵をしぼりだす。

「チャコ頑張ってくれたまえ」


チャコはパッと目の前が明るくなった。何も浮かばない頭に知恵がつく。


悪戯なチャコはそこにはなく我に返り頭痛明晰さんなチャコ姫である。


「あっヤダあ。こんなことしたら叱られちゃう。私バカだなあ」


チャコはガァンと頭を殴られた錯覚をして原稿に向かう。悪戯心は影を潜めひたすら原稿に向かうことにする。


悪戯描きをやめて原稿紙に文字をひとつひとつ埋めていくチャコ姫。顔つきは真剣そのもの。さっきまでポワンとした姿はまるで他人であった。


なんら躊躇わずチャコはすらすら文字を埋めていく。ひとつひとつの文字が原稿の中で生き生きとしていく。チャコの汚い文字が原稿に埋まると美文が残されていく。


学園に期待すること、学園に入学したらチャコがなりたい女子高生の理想をちょこちょこと(したた)める。


「あれっ書きたいことあるなあ。あれこれ思いついちゃう」

チャコは学園のパンフレットをバッチリ記憶している。ちょこちょこパンフデータを辿っては原稿に埋めてみせた。


すらすら


すらすら


文章作成にチャコは集中する。滅多に作文など書かない女の子がチャコのはずだが。


一旦書き出すとあらまっ不思議である。作文大嫌いなチャコは書いていく。


すらすら


すらすら


チャコは書いていけるのだ。難しい表現もなんのそのである。簡単な故事成語もなんとか使っていかれた。


チャコの作文の要旨。


女子学園生は街や世間でとかくちやほやされがちである。だが"学園のお嬢さん"というだけで清楚な上流階級のレッテルを貼られてもよいものか。彼女なりに警鐘を鳴らしたわけである。


チャコは時間いっぱいかけ書き上げる。思いついたことを誠心誠意文章に現した。チャコの汚い文字で原稿は埋め尽くされ作文は完成をみた。


キィーンコーン


フゥ〜


チャコは満足をする。我ながら上々な出来であると思った。


試験終了の鐘に受験生はワアッ〜と喜んだ。長い受験生活から開放をされた一瞬である。


チャコも喜んだ。しかしすぐに暗い顔つきになる。

「ああっ受験終わったあ。私は落ちたあ〜残念だなあ」

学園の校門に仲良しクラスメイトは集まる。


チャコは中学のクラスメイトにおどけてみせた。

「みんな女子学園に合格してね」

チャコは仲良しのひとりひとりに握手を求めた。

「私を忘れないでね。たまに私が女子学園の近くに来たら声掛けてちょうだい。いじめたりしないでね。チャコはか弱い乙女さんでございます」

チャコは不合格だからっとここでも公言した。

「落ちたからサバサバしているの。皆さん頑張って学園で青春を楽しんでね」


チャコはクラスメイトの誰よりも明るく振る舞い元気に学園の校舎を後にした。


背後の神様は少し困ったなあっと言う顔つきを作っていた。


チャコが落ちたって誰か決めたのかな。困ってしまうぞ。神様が違ってますと言うわけにもいかぬしな。


入試が終了した学園の試験委員会。ただに採点作業に取り掛かる。


科目教科はマークシート採点。即日に得点が判明する。チャコは本人の思ったとおり芳しくない結果である。


(科目は英語数学は不合格である。社会科の歴史は辛うじて合格点を稼ぎ出す)


時間がかかる採点は論文(作文)である。学園の中等高等部の国語担当の教師が中心となり誤字脱字のチェックから文章の展開能力などを細かに採点していた。少し時間を取り丁寧に見ていた。


チャコの作文は直ちに採点者の目に止まる。汚い文字に誰もが読むのに苦労をするが高い評価を受ける。

「このチャコさんの文章って説得力ありますね。押しが強く感じもしますわ」

数人が目を通す。中等の教師も採点に加えられる。いずれも満点に近い採点を与えた。


チャコの作文は高配点となって科目教科と足し算される。総合得点はかなり低いものとなる。


「この受験生を否にするにはちょっともったいないですわ。このチャコって娘さん。合格点には"程遠い"点ですけど」

採点者はチャコの受験番号に赤い丸をつけておく。チャコの合否決定は学園の評議委員に送られた。


学園の理事長は受験生の合否の権限を所有している。受験評議委員会は理事長と学校長の併合で構成されていた。

「校長先生はいかが思われますか」

理事長は学園校長と二人で受験生の合否を話し合う。校長先生は学園創設者の孫の理事長の言いなりである。


チャコなどの科目得点が少ない受験生を特別な配慮により合格させてみるかを理事長らは話し合うのである。


理事長の背後に神様が宿りつく。神様は理事長の脳裏にスゥ〜と入り込む。理事長はガクンと頭に衝撃を受けていく。

「チャコは合格でよいですよ。こんな女の子を育てるのも学園経営の醍醐味ではありませんか」

評議は決まってしまう。理事長の合格の印がポンっとチャコの受験願書に捺された。


理事長は合格を認めたチャコの写真をじっくり眺めた。

「この手の顔。どこかで見たような」

理事長はチャコを思い出そうとした。特徴あるチャコの顔。じっくり見ると何か思い出せそうである。


理事長は学園経営者。幼稚園〜女子大学・院と子供らの教育に携わる身。様々な女の子と知り合うためチャコ程度の顔などいつも覚えていられない。


誰かに似ている気がする。何処で知り合い見たような気がする。だが思い出せない。

「気のせいだ。この受験生はまだ中学生じゃあないか。(学園の)中等部出身でもあるまいに」

中学生などと個人的に知り合うことがない理事長。すぐさま次の受験生の合否に移る。学園経営には金の儲かる生徒をかき集めることに忙しい身の上である。


受験が終わり春先の学園となる。チャコを含む仲良しクラスメイトは憧れの女子学園高等部に合格をする。


「イヤァ〜ン私が学園に合格したなんて」

チャコは喜びである。入学式の日にはぴょんぴょんと跳ね廻る。


信じられない


嘘見たいなチャコの合格であった。


夢なら覚めないで。うん!覚め覚めしないでちょうだいでございます。


チャコは可愛い女子学園のお嬢様になります。


合格通知を手にしたチャコは涙が枯れるまで嬉し泣きをした。


仲良しクラスメイトは全員が合格の喜びに満ち溢れ手を取り合い万歳をする。英語の得意な女の子は学園から特待生扱いをされ学業の是非により学費免除の恩典を受ける。彼女は彼女で別の意味泣いちゃう。

「あらっ凄いなあ。たぶん私は最下位点で合格ですから天国と地獄みたい」


特待生と劣等生がガッチリ握手をした。


学園に合格すると仲良しクラスメイトは全員揃い神宮に御礼をする。今度は仲良し女子学園生。可愛い女子高生で真新しい制服であった。


神宮の拝殿の間。新学園生の登場はパッと華が咲いたようにきらびやかなものであった。

「まあっ見てみて。あの女の子たちって女子学園の子よ」

神宮の参拝客が振り返る。


チャコは学園の制服に注目が集まると気がつく。

「エヘヘッ恥ずかしいなあ。みんなからジロジロ見られてまする。ヤダぁ私注目されておりまする」

参拝客からチャコにサインと握手を求められたらスゥ〜とやりそうなものである。


神宮の拝殿には可愛い巫女さんが控えていらっしゃる。


チャコら新学園生を見てすぐにわかる。

「よかったですわね。女子学園高等部に合格したんですね。おめでとうございます」

可愛い巫女さんはにっこり微笑み会釈をした。可愛い笑顔の彼女は女子学園の2年生。新春に後輩が出来て嬉しい限りでもある。


拝殿の前で仲良し新女子学園生は一列に並ぶ。真新しい制服はあくまで初々しく光輝いていた。


女の子たちは手を合わせる。


パンパン


神様ありがとう。神様のおかげで女子学園に合格しました。仲良しクラスメイト全員です。ありがとうございました。これからも仲良しクラスメイトは同じ学園で学ぶことができます。


女の子同士合格の喜びを素直に表現し拝殿に語る。


パンと柏手を打つと財布の中をゴソっとする。彼女らの気持ちから御賽銭をチャリンと投入した。


(小銭)チャリンチャリン


パンパン


一列に並ぶ女子高生。可愛い手を合わせ頭を下げた。


その可愛い女子高生の中でひとりチャコは遅れて小銭を投入する。チャコはやることが遅い。


財布を探すのに手間取りゴソゴソ。財布をつかむといくら出すかなっと悩む。決断すると小銭を取り出す。


えいっ


チャリ〜ン


賽銭は小さな音を残し箱に消えた。


チャコの背後の神様はホォっと賽銭箱を覗く。チャコの投げ賽銭をじっくりと見る。


いくらくれたかなあ。


げっチャコ!


そんなあ〜


チャコは一円玉を気持ちよく投げていた。


パンッパン


「前に5百円も使ってしまいました。節約しておかないといけません。学園の授業料も高いからね」

何食わぬ顔をして拝殿を後にしたチャコ。仲良しクラスメイトたちと神宮前のマクドナルドでハンバーガーをパクついて帰ることにする。


一円しか貰えない神様はヘナヘナと力が抜けてしまった。


4月となり学園生活は始まる。チャコらの仲良しは6クラスに分散していく。


学園は受験の成績によりA組B組C組と分かれた。チャコは本人の思っていた通り最下位のクラスF組に振り分けられていた。


「このクラスでもいいの。私は学園の生徒であることは間違いなしでございます」


勉強の嫌いな女の子が集まる最下位クラス。トップクラスはひたすら勉強を詰め込まれ大学受験に邁進する。だがこちらは勉強とは遠くかけ離れてのんびりとした学園生活が待ってます。


だが現実は異なもの。勉強以外は凄いクラスの集まり。


チャコはすぐに気がついた。ここはとんでもないクラスメイトの世界だとわかる。登校初日にチャコは教室であんぐり口を開けてしまう。


えっあの女の子がクラスメイトにいらっしゃるの!テレビニュースで見たことある女の子よ。


全国中学生駅伝は御存じであろうか。テレビで活躍した中学ランナーが学園陸上部に鳴り物入り入学。学園は全国的に有名な学校で優勝もいくどかしていた。チャコはテレビのヒーローと同じクラスである。


全国中学テニスでベスト8の女の子もいた。学園高等部と大学テニス部は全国的に有名である。


この中学テニスプレーヤーは他の有名高校と熾烈な争奪合戦の末学園に入学希望を取りつけた。


争奪の経緯はニュースとなり奪い取る学園はかなり避難を受けていた。


学園の理事長は争奪のためにズブズブと裏金を費やし頭をさげた。理事長は使い途不明な金を流用しなければならぬ立場である。


その他にスポーツ万能な女の子がチャコのクラスにわんさかいる。いずれも近い将来有名アスリートに化ける可能性があり学園の理事長は入学をさせていた。高校生から鍛えたら近い将来に世界で陽の目を見そうである。


文化面も多彩である。囲碁や将棋の若年有段者がいた。


音楽ではピアニストもある。天才絵画の巨匠の娘。陶芸や工芸の家元の娘。


チャコの周りは右を見ても左を見ても凄い女の子だらけである。スーパー女子高生がクラスメイトになっていた。


アチャア〜


なぜか自然にチャコは万歳をしてしまう。 

「私はとんでもないとこに来てしまいました」


スポーツや文化だけでない。芸能人タレント予備軍もこのクラスに2〜3潜んでいた。潜んでいたというのは学籍があるだけで滅多に通学をしていない。対外的にはインターネット授業を施すから学校に顔を出さなくても大丈夫で免除である。


チャコは学園在籍中一度もタレント卵の姿を目撃しなかった。学園で見掛けないがテレビの中のバラェティ番組ではいつも見た。


チャコはお尻がムズムズしてしまう。

「私ってこの場に居てもよろしいですかね。単に勉強できないだけでこの場にいて」


新学園生チャコ頑張れ〜


チャコの学園生活は始まる。憧れた学園は実際にどうであったのか。


勉強は敢えてしなくてよい学園生活がそこにはあったのだが。

「そうなの。私は自慢ですけど勉強と酢の物が嫌い。エヘッそれはそれでいいんだけど」


勉強しないチャコはあまり考えることもなく自分で納得した。なるようになるのだと開き直り憧れの学園に通学することにする。


入学したてはオリエンテーション段階。チャコら新入生に学園は3年間の過ごし方を指導する。


この女子学園は幼稚園から続く教育の牙城(コンツェルン)。ゴールには大学大学院があり高等部は大学教育を見据えた面もある。カリキュラムには大学進学を前提とした教科が盛り込まれていた。


例えばフランス語とかスペイン語とか。海外の高校や大学とは提携があり希望があればいくらでも留学生になれた。


オリエンテーションでチャコは目を丸くして驚くばかり。

「あらっ学園の高等部に入ったばかりなのに。もう大学の話なんて。勉強嫌いだって言うのになあ」


学園に絶望しそうなチャコである。


チャコが初日の学園教室に行く。なんと教室にはまばらな女子高生であった。チャコの周りには誰ひとり座る気配がないようである。


出席を取る担任は何食わぬ顔をしていた。空席ばかりの教室で出席を取り始める。

「あらっクラスメイトって」

クラスの1/3は空席である。歯抜け状態は登校初日からではないか。


学園の出席ってこんなものだろうか。チャコは教室をキョロキョロしてしまう。遅刻をして女子高生が来るのではないかとも思う。


出席を取り終えた担任はチャコに説明をする。

「ああっ不思議がるのも無理はない。空席は誰も来ないんだ。ちゃんと欠席届けが出ている」

チャコの周りの空席は春先から試合のテニスプレーヤー。まもなく全国的な試合があり遠征に忙しい生徒だと教えてくれた。

「この教室には来ないが学園のテニスコートには毎日いる。先頃全豪オープンジュニアから帰国をしたばかりだ。試合はケーブルテレビで中継されていたぞ」


チャコの後ろ席は陸上のスポーツ関係。斜め横には囲碁将棋の棋士。


いずれも春先の新人戦などの対局があるためタイトル戦が終わるまで長期欠席であった。

「囲碁将棋は部室に毎日いるよ。チャコが会いたいなら部に行けばよいよ」

その他のスーパー女子高生も同様だった。

「チャコがクラスの仲間全員に会いたいと思ったらインターネットで検索してくれよ。女子学園の名前でヒットするから」

彼女らスーパー女子高生は本業が何かと忙しく学園に通いたくても通えないよと担任は教えてくれた。


チャコは益々大変なとこに来てしまいましたと後悔しきりである。


その危惧は胸騒ぎでは終わらない。オリエンテーションでチャコに何かやりなさいと学園から指導がくだる。


担任はのどかな口調で学園に貢献するべきだと諭す。

「このクラスは特殊なんだよ。学園も高校だから授業が大切だけどね」

授業に出席しなさいとは敢えて言わない。


担任はチャコの顔をじろじろと眺める。手元の資料をつらつら眺めチャコと交互に。

「学園からのお願いは(スポーツをやりなさい)」


チャコは相撲部に所属してもらう。


チャコは相撲が最適だと判断されよう。君ならできるよ女相撲。


「エッお相撲さぁ〜ん」


チャコのクラスメイトはスーパー女子高生ばかり。しかも種目はテニスだ陸上だとパッと聞いてわかる人気スポーツのアスリートである。それがどうして相撲になるのか。


チャコはパニックになる。頭に(ふんどし)姿が浮かんだ。花も羞じらう乙女が相撲をやる。


チャコは恥ずかしいなあっとポロポロと涙が溢れてしまう。


ヤダぁ〜憧れの学園に来てお相撲だなんて。恥ずかしくてたまんない。チャコは入学早々中退したくなってしまう。憧れの学園に益々絶望となった。


チャコの背後にいる神様がパッと目覚める。チャコの流した涙に神様は現れた。

「チャコは相撲を取らないか。ワシは相撲が好きだからチャコにやらせたかった」

神様の好みでチャコの相撲が見たかっただけである。


相撲を勧めた担任はハタッと気がつく。神様がブレーキを掛けた。


「チャコ御免な。女子学園に相撲部はなかったな。男子部と間違ってしまった。チャコを見ていたらついつい相撲と言ってしまった。僕はどうかしているな」


チャコの体重を乗せたガブリ四つは強烈なのではと神様は残念がる。チャコの体重をうまく利用すれば強烈なんではないかとその土俵に期待をした神様。

「残念だなあ。早めに女子学園に相撲部を設立して欲しいよ」

神様は未練たらたらだった。


担任は女子部と男子部を間違えチャコに通達。また仮にも女子高生チャコにお相撲を勧めたとは問題です。


プライドを傷つけられたチャコは散々に泣き腫らす。悔し涙も渇れてしまう。

「褌で相撲だなんてイヤァ。なんでチャコがデブしかやらないお相撲さんになるのよ。見た目で判断は嫌よ。学園なんか嫌いになりそう」

か弱き女子高生チャコは憤慨する。

「でもピンク色のビキニで土俵なら考えなくもないことよ」


ピンクがいいかなあ。


Wacoalのブルーかなあ


エヘヘッ〜


相撲を取り消した担任。

「なにしろ学園の名前を広めるためにチャコにも頑張ってもらいたい。学園の名前を広めてくれたら恩の字だと言うのが理事長の方針なんだ」

担任は詳しく伝えないが理事長がチャコを高く買っていることを教えた。


ビキニでお相撲さんは意味が違ってしまうぞ。担任はチャコに改めてオリエンテーションである。

「チャコ君のオリエンテーションは理事長からの命令も来ている。学園の創設の孫さんから直々に通達が来ているだよ。これはなかなかないことなんだ。ついては君のオリエンテーションなんだが」


チャコに相応しいことをやらせる。(スポーツや文化)を学園でやってもらいたい。


担任は腹を決めチャコに指令する。これは理事長命令ゆえ断りはいけないと威圧した。

「理事長さんからですか。理事長さんって学園長さんより偉いんですよね」

学園のパンフレットを暗記のチャコ。目の前の担任など吹っ飛んでしまうくらい高い地位であることは充分承知していた。


「学園で何かやらなくてはいけない。やだなあ〜」


全国的に通用するテニスをしなさいチャコ。全日本テニス選手権優勝を目指すんだチャコ。


ゲェ〜


オリンピック出場をする陸上を走りなさいチャコ。体重を落として走りなさい。痩せるのが嫌ならフィールド競技となる。


砲丸投げかなあ


囲碁将棋ならばプロ棋士に勝てるようにチャコ。


「やだなあ私にできないことばかりです。泣けちゃう」

チャコは憧れの学園でさっそく窮地に陥る。


のんびりと勉強をしないで3年通うつもりがどうなることやらと不安である。チャコは担任の言葉を待った。


悩むチャコの背後に神様が現れる。

「学園のために。チャコはお相撲をしてくれたらよかったのじゃ。ビキニの相撲とはなんじゃいな」

神様は想像力を高めてチャコの相撲を見た。褌の替わりに紐でしばりつけたのかな。門松のしめ縄状態。


まだまだ名残り惜しい口ぶりである。


担任は折に触れチャコにあれをしろこれをやりなさいと助言をしていく。理事長の命令だからと。


チャコはいずれも気に入らない。

「ヤダあ〜私にできないったら。変なこと言うと(担任の先生を)理事長に言いつけちゃうもん。担任の先生って変だわって」


アチャア〜


チャコは担任の弱味を握ってしまう。理事長の名前を出されたら担任は黙ってしまわざるをえない。担任とて学園の人事で出世をしたいものである。


若い担任は理事長の機嫌取りをしなくてはならない。かといって勉強もしないスポーツもやらない無意味なチャコみたいな生徒を遊ばせて学園を卒業させるわけにいかない。


担任とチャコのささやかな対立はこうして始まった。チャコは担任からの申し出をあれこれなんとかはぐらかしつつ学園生活を楽しむことにする。


イヤ〜ンはぐらかすだなんて。私にぴったりなものがないだけでございます。担任の申し出をムゲに拒否しているわけではございませんことよ。


新学期の女子学園の教室。チャコを含むクラスメイトはワイワイと騒がしくなる。

「あのねワイワイ騒ぐっていうことは不適切な表現ではありませんことよ」


チャコのクラス。新学期始まった時にはあちらこちらに空席が目立ち淋しい感じであった。スーパー女子高生は学園に出て来ないから。

「それが今はでございますね」

新1年生は学業の成績順でA組B組C組とわけられていた。その成績が学業がついていけないと学園が判断をするとクラスは容赦なく格下げをされていた。

「そうなのよ。私のクラス、学園のお荷物のような最下位クラスは。やぁ〜んお荷物だなんて失礼ね」

学業についていかれない女子高生は一学期から落ちてくる。授業の進行が早くて1度つまずくともうダメ。白旗を挙げた。


降ってきた女子高生は下位クラスに留まればましなところ。挽回してみたら再度あがることも出来た。


だがチャコのクラスまで落ちた女子高生は再浮上はまず不可能であった。

「私のクラスは勉強をなさってはならないことになってザァマス。いや自慢ではないけどさ」


担任は忙しくなる。クラスの人数がバカスカ増えてあれこれと指導をしてやらなくてはならないのだ。

「クラスに留まりたければ学園のために名を売ることに執着しなければならぬ。テニスやるかい。マラソン走るかいだね」


白痴美人。頭はいたって悪いが美形である女子高生もいた。担任はタレントやモデルさんの芸能プロダクションに紹介をしてもみる。


美形な女子高生を送るついでに。


「チャコの顔写真も送るか。悪役や老け役とかその他の使い途があるかもしれない」

モノは試しにとチャコもプロダクションに送られる。


数日して担任に返信メールがあった。女子高生のカワイコチャン売り込みはオーディションを受けに来て欲しい。女子学園の生徒さんなら躾も礼儀もちゃんとしているだろう。比較的通りやすいのではないか。


担任は喜び女子高生にオーディションを伝えた。

「チャコの反応は皆無だけどな。悪役は駒が揃っているんだろうか。じゃあお笑い芸にしてみたらどうかな」


教室でチャコはひとつ大きなくしゃみをした。


ヘッ〜ヘックショ〜ン


「あらっヤダ春風邪かしら。困ったなあ健康優良児のチャコちゃんとして小学生から有名だもん」

風邪は引かない。虫歯もない。恋もしない。


最後のひとつは余計よ!


春風が吹き若葉が燃える頃。女子学園生お待ちかねの恒例行事があった。


チャコはこの行事が楽しみである。恒例行事の予告が学園ニュースで流れた。暇をしているチャコはいち早く情報をキャッチしわくわくである。

「恒例の行事は知ってるもん。私が学園に憧れていた理由のひとつにエヘヘありますからね」


学園ニュースにはこんな文字が踊る。


春風とともに貴女は素敵な巫女さんになりませんか。


チャコが教室に入るとクラスはざわめいていた。巫女さんになりそうだと言う噂は女子高生に魅力である。


担任はざわめきを止めて巫女の話をする。

「さあさあみんな黙って黙って。静粛にしなさい。待ちわびていることはわかった」

ちょっとの間だから静かに。勉強しない女子高生は言うことをなかなか聞かない。


教室で担任が身振り手振りで巫女を説明する。

「キャア〜巫女さんね。いよいよだわ」


チャコの背後の神様はニョキと顔を出した。神様も人の子?カワイコチャンの巫女さんに神事を司ってもらいたいと思う。


クラスの女子高生。勉強嫌いな女子高生はろくろく担任の話など聞かず騒ぎが大きくなる。

「さあさあみんなっ黙って。僕の話を聞いてくれ。いいかな聞いておくんだ。何も今だけとは限らないんだ」

教壇でパンパンと黒板などを叩いた。クラスは一瞬にしてシーン。


説明をする担任にようやく注目出来た。

「巫女さんのメインはお正月。だが我が学園は神宮さんのお手伝いをしてもらうことが恒例になっている。つまり神社さんの神儀詔(しんぎ・みことのり)を取り扱うのは一年間を通してとなっている」

難しい神事言葉はこのクラスの女子高生にチンプンカンプンである。


シーンとする女子高生から話がわからないポカン顔になった。

「いや早い話が巫女(みこ)さんだ。巫女さんにさして難しいことをしてもらうものはない」

御経をあげるわけでなし。難しい教典を書き上げもしない。


巫女さんと聞いてクラスにキャア〜と悲鳴が聞かれた。担任は神宮の巫女さん短期アルバイトの説明をする。パンフレットを振り上げるとクラスのザワザワが段々(しず)まる。


チャコは巫女と聞いてピタッと黙った。どうしたことか巫女になりたくなる。学園の女子高生憧れの最右翼が巫女さんであったのかもしれない。


普段から担任の話など聞かないチャコである。それが目を輝かせ身を乗り出し巫女のなんたるかを知る。


担任はチャコの異様な視線を感じてゾッ。なぜか背筋が凍りついていく。


ギラつく瞳で担任を睨みつける。

「どうしてもこうしても巫女になるっ。私は巫女さんになるために生まれた女の子だもん」

チャコは息巻く。担任からあれこれ指導をされ拒否したチャコがである。


「先生の話だと巫女さんに学園生全員がなれるわけではないのね。採用定員は決まっていて競争倍率は高めね」

女子学園はお嬢さま学校と巷で評判である。

「たからね街で世間で学園の評判が大変いいの。学園の女子高生なら神宮さんの神様に支える巫女さまに相応しいって言われているの」

よって神宮からは巫女さん指定校になっている。


「神宮さまの指定校は同じ街に他にもあるんだけど。なんせ我が学園はお嬢さまだから評判は上々で売れっ子さんでございますアッハハ」


チャコはニソニソ。私もお嬢様でございますと苦笑い。


「この学園の横にある神宮さんは日本でも有名なの。参拝に訪れるお客さんが年間通していっぱい来るんだって。御利益がいっぱいあるもん」

御利益はチャコが証明である。

「たんと御利益でございますわ。巫女に関して言えば特に女学園は参拝の皆さんに人気だそうでございますエヘヘ」

神宮指定学校の中で一番人気は女子学園だからとチャコは強調をしたい。


チャコが勝手に想像力を働かせていたら担任は巫女になるための話を終えた。

「説明はこれまで。巫女さん希望はここに申込み用紙があるから各自持っていくように」

担任は教壇にポンッと置く。

「申し訳ないがみんなの数だけはない。希望されても採用されるかわかんない。申し訳ないが巫女になるつもりのない奴は持っていかないように」

人気がある神宮の神職巫女である。女子高生の憧れのアルバイトだからと一様に黄色い声を出す。


クラスの女子高生全員が巫女になりたいとは限らないはずであるが。担任はチャコの顔を眺めながら教壇を降りた。


申し込み用紙だけ置かれるとざわめきがあがる。

「やだぁ先生。何をおっしゃってますのかしら。巫女さんに憧れているなんて」

照れとも怒号ともである。教室の女子高生の瞳が輝く。


チャコは担任に見つめられてヤダァ〜先生っと照れた。隣りの女子高生に盛んにヤダァ恥ずかしいなあっと言い寄る。

「私はそんな器ではないから巫女さんになれないなあっ」

クラスメイトからの合いの手を頼む。


担任は一際声のでかいチャコを見た。チャコに聞こえるようにわざと言う。

「巫女さんは人気があるからな。我が女子学園の女子高生だからと簡単に(巫女に)誰もなれると限らない。希望して巫女がダメな場合でも気落ちしたりしないように」

チャコを見て担任は付け加えた。

「最初から応募しないのも手のうちだ。逃げるも勝ちとも言うしな」

チャコの顔に浴びせるように吐き捨てた。


ザワザワするクラスメイトたち。話に夢中のチャコなどは担任の忠告などまったく聞いていない素振りである。


「応募しなくちゃ」


巫女の応募用紙をジッと見つめるチャコ。獲物を狙うかのように見つめるチャコは目がキラリとする。

「この女子学園は神宮さんの巫女さんで有名なの。アルバイトの指定学園だと言うだけで受験する子もいるらしいの。私も巫女さんをやってみたいなあ」

チャコはこの時から巫女さんを希望した。競争が激しいとわかると燃えるタイプ。


「倍率はかなり高いらしいわ」


巫女になることに決めたチャコ。学園の競争を勝ち抜いて見事巫女になりそうかな。


「噂なんだけど」

チャコはこっそりと声を潜めた。

「神宮の巫女さんを務めると将来良縁に恵まれるなんて言われているのよ。うん単なる噂だけど。でも結婚って言われたらなかなかでしょ。お見合いの席でエヘンって威張れちゃう。私は女子高生時代に巫女しておりましたって。えっ?だから私は巫女になれないって仰るの!失礼ねぇ」

プリプリとチャコは怒ってしまう。


女子学園生の憧れの神社(神宮)の巫女さん。出雲大社・伊勢神宮・熱田神宮と同じ格式と伝統のある神宮。巫女さんになることは女子高生にとって確かに大変なステータスであった。


巫女さんを要請している神宮は年間を通して参拝者がわんさか押し寄せる。ピークは正月であり毎年テレビや新聞でその初参拝の数が公表をされていた。


ピークの正月に合わせて巫女を募集してもすぐに役には立たない。アルバイトとは言えいきなり神宮職員の代わりをしなさいは無理がある。(にわか)の巫女では大挙する参拝客は捌き切れない。そこで人手を頼みと神宮近くの女子学園にアルバイト巫女さんを雇うことになる。


女子高生の巫女さんは恒例となり評判となっていた。


神宮近隣に女子大もあったがお呼びがかからなかった。女子高と女子大では可愛らしさに差があると神宮は判断をしていたらしい。


巫女の神儀詔の仕事内容は完全にマニュアル化をされている。やり方をマスターすれば忙しい神宮でもアルバイトの人海戦術で乗り切れる。


神宮の巫女業務はすべからく神儀であり重々しいものばかりである。女性らしいたおやかな礼儀作法も身に就くと父兄に受けがよかった。チャコならずとも女子高生らは巫女さんになりたいと思っておかしくはないところである。


巫女さんのアルバイト申込みの期日がやって来た。クラスの担任は申込み用紙を集める。

「さあ希望者は申込み用紙を出して。チャコおまえも希望をするのか」

用紙の回収の最中にチャコとたまたま目が合う。


チャコはおまえもっと言われてムッとする。


「いいよおまえも巫女さんを希望して。別に悪いこともない。(せいぜい)頑張ってくれ」

チャコは嬉しいような哀しいような顔をした。


担任に皮肉を言われてもなんとか巫女をやりたい。それはそれは乗り気である。応募用紙をサッと出すチャコである。元気はよい。

「なんとか学園の高等部の肩書きで巫女さんやりたいなあ。縁談が恵まれるからやりたいの」


アッハハ〜頼みます巫女さん


パンパン


チャコは祈って願書を担任に手渡した。


ダメでもともと


拝まれた担任はチャコの勢いに引いた。

「よし希望はこれだけだね」


直ちに申し込みは集計され巫女さん希望者が学園全校から募られた。


「希望された方々は集まりなさい」

体育館で合同の説明会が行われることになる。募集された数はかなりであったようである。


「アッちゃ〜なんたるこっちゃ。希望者が多いなあ。去年より一昨年よりさらに増えてまんがなあ」

巫女さんになりますのチャコは体育館をつらつら眺めて溜め息をつく。


倍率はかなり高いものとなっていた。

「ダメだなあ私。ああ結局学園の3年間で巫女さんになれないなあ。縁談もないのかもしれないグスン。こんなことなら無理して学園なんか来なければよかった」

体育館のあっちこっちで同じような囁きが聞こえてくる。


神宮からは社務所事務員が数人立ち会いとして派遣された。


社務所職員から巫女業務の説明をする。

「学園高等部の皆さんこんにちは。当神宮の神儀詔の仕事にご応募ありがとうございます。こんなに多くの方々に応募されて当神宮といたしましては嬉しいかぎりです」

俄に拍手が沸き上がる。

「つきましては我々といたしまして皆さまをご希望の巫女職にしたいのです。しかし予算というものがありまして。全員が希望に添うとも参りません」

体育館にはアッーとため息が洩れた。


集められた女子高生たちに今から簡単な選考をして欲しいと説明を受ける。

「当神宮の欲しい人数に絞りたいと思います」

社務所は淡々と説明をする。


「やだなあ私。落とされちゃうのかなあ」

チャコは不採用の予感がよぎる。


学園の女子高生らはプライドが高く1度選考に洩れたら二回とは申込みはしなかった。


社務事務所の職員の説明は続く。

「神儀を司る巫女職はアルバイトと言えども儀礼を守りいつでも神宮内では清楚で厳かであってもらいたいと思います。そのためにまずは見た目が切です」

最後の一言に女子高生たちは過剰反応を示した。


「うわぁーやだぁー見た目だなんてウソ〜」


ブゥーイングが巻き起こり大変な騒ぎになる。さらには教師の注意すら聞かない。

「文句は当たり前だ。不細工はいらないなんて言われたらブゥーブゥー」

体育館は不平不満が渦まくことになる。


ところが失礼も礼儀もなく社務所事務員たちは説明を平然として続ける。


「こちら(社務所職員)で合格者を選ばせていただきます」


きゃ〜わあっ〜


一時騒然となるが選ばれた者はいた。


ダメだった者の結果はどうだったか。

「あれ?振り落とされたのは2〜3人だけ」

不合格はどうみても大相撲の関取り、赤いダルマさんのようなタイプ。ポコンと綺麗に弾かれたハンマーでドンっ達磨落としされたように。


「おデブちゃんは巫女ダメなんだなあ。巫女さんは客商売。見た目だからなあ」


学園のみんなは黙ってしまった。


社務事務所の職員同士まずは体育館に静寂が戻り安心をする。


ちょっと打ち合わせをし次の段階に行く。

「続きまして」

次の選考に入りたかった。


しかし集会の体育館はまたガャガャとし始めてしまう。弾かれた関取りさんとダルマさんがしくしく泣いてしまう。

「体育館の陰でシクシク泣いているの可哀想だわ」

と心優しき女子学園は騒がしかった。

「容姿でのみ弾かれては気の毒だわ。彼女たちだって巫女さんに憧れて学園に入学したんですもの」


社務事務所の職員たちは顔を見合わす。

「弱りましたね泣かれてしまっては。困りましたねどうして対処致しますかね」

そこに神宮の長老禰祁(ねぎ)さんが口を挟む。

「(社務所)事務長さんちょっといいかね。私の意見だが」

長老は事務長と二人で耳打ち話を始めた。

「こそこそっヒソヒソ。ええやんっカァ〜どうでんかぁアッハハ間違いない」

直接に綿密に打ち合わせをする。

「ははっなるほど。いやはやヒソヒソ〜アヒュアヘヘッ間違いありませんなあ。本当にですか」

事務長から事務職員らに伝言をされた。

「わかりましたわかりました」


長い作戦会議の後。


「体育館の外においでの皆さん。体育館にお戻りください。社務には様々な職場がございます。充分に皆さんも役目が果たせます。この選抜はなかったことにいたしましょう。お戻りください」

体育館の学園女子高生一堂はパチパチと拍手をする。


「よかったわねぇ」


泣きながらも関取りさんダルマさんは席に戻ることになった。


社務所職員はお互い顔を見合わせてやれやれだなあと思った。


「ふぅーでは次に参りましょう」


次の選考に移る。ここからは礼儀作法・会釈・簡単な歩き方と神儀に必要なものを見ることになる。


ここで振り落とされたのは誰か。


社務事務所職員も長老の祢祁(ねぎ)も女子高生を見て唖然とする。

「なっなんたることだ。みんな背を丸めてだらしがない。お辞儀もタラタラしてしまいなっていないじゃあないか」

どうにもこうにもご年輩の職員や長老祢祁さんにお気に召すことはないようであった。


特に社務事務所のお偉方には全員不合格に見えてしまった。


「これが核家族と少子化の影響なのか」

まずは嘆いてみた。年輩の嘆きは嘆きだけだった。


なんとかして正月まで必要な巫女の人数を確保しないと参拝者は捌けやしない。他の女子高生も指定されてはいるがこの学園が一番のお嬢さま学校である。春先から教育していかないと困ってしまう。名前だけでも押さえておきたい。

「しかたがないな。多少の無礼は目を潰れだな。後日神宮での神儀詔の講習で直すとするか。しかし目をつむるも我慢が必要だとは情けない話である」


社務事務所の職員たちは気を取り直す。

「皆さん結構ですご苦労さまでした。次は簡単な接客です。当神宮では、おみくじ・お守り・破魔矢などを参拝の皆さんにご提供しています。これらを参拝のお客さまに販売する模範演技をやっていただきます」


学園の女子高生は今時のお嬢さんたちである。物品販売や接客などマクドナルドのアルバイト程度できる世代である。


「皆さんにはサンプル模範演技をしてもらいます」


◎参考例

神宮の参拝者役

「巫女さんおみくじください」

巫女役(女子高生のチャコ)

「はいいらっしゃいませ。なんにしますか?アラッおみくじでございますね。当神宮には大吉から大凶までバラエティに取り揃えてございます。ご希望のが出るとよろしいわね。参りますエイ〜こんなん出ましたけど。アチャアお客様来年に期待しましょうね」

参拝者役(社務所職員)は目が点になる。

「(?_?)」


◎参考例

参拝者役

「巫女さんお守りをください」

巫女さん(女子高生のチャコ)

「はいかしこまりました。お守りでございますね」

と恭しく承りましたと頷いみたが。

「当神宮にはですね」


家内(いえない)安全お守り。

安産(やっさん)お守り・学問(ばかもん)成就。

・交通安全(地帯)。

・細木数子占い

・ヒィーリング世界


「とまあ様々に取り揃えてあります。どれが役に立つかな」

参拝者役(社務所職員)

「ずいぶん変わった名前の御守りばかりですね」


◎参考例

境内お土産売り場売店。

参拝者役

「まんじゅうください」

売り子(女子高生のチャコ)

「はいはいいらっしゃいませ。お饅頭でございますね。神宮のお土産にひとつでございますか。他にポテトとコーラはいかがでしょうか。スモールとラージサイズとございます。朝マックもございますがいかがされますか。今ならセールス期間でございますからマックバリューセット半額でございます。ただし早いもの勝ち。急げ〜お客様ここでパクつきますか?」

参拝者役(社務所職員)

目が点!

「ふぉ〜」


体育館の中模範演技が終わりざわざわとしていた。

社務所職員からは最後の挨拶があった。

「はいわかりました。皆さん長い時間ありがとう。神儀詔の巫女業務採用の通知は3日後に致します。なるべく皆さんのご希望に答えたいと思います」

神宮関係者は足早に体育館から出て行った。


社務事務所としてはなんとか素敵な巫女アルバイトを早く決めなくてはならなかった。


職員内であれこれ意見が別れ紛糾もされたが3日後に採用通知は学園に届いた。


高校3年のチャコは、

「やったぁ〜私採用されたわあ。やっと巫女さんになれたのよ」

飛び上がって喜んでいた。


チャコおめでとう。


選ばれた者は冬休み社務所に集合。早速巫女さん研修に入る。


神社の中に入るとさすがに現代っ子たちも厳かな気分となる。巫女の衣裳を貸与され身なりだけでもそれなりとなった。


女子高生たち無駄話をしなくなり神儀に奉仕する身を自覚する瞬間であった。


社務事務長からの挨拶。

「皆さん立派な巫女職員です。只今からそれぞれ役割を決めて行きましょう。職員から呼ばれましたら返事をして各自持ち場へと分かれてください」


◎神儀業務の仕事

・おみくじ係(ガラガラやる係

・お守り係(笑顔で手渡し

・おみやげ売店係(マクドナルド風

・車御祓い係(神主さんの付き添い

・社務保安係(女子プロ参考


各自女子高生は呼ばれて神宮の神儀巫女さん業務に就く。


「うん?みんな呼ばれたのかな。あらまぁチャコだけ呼ばれないわ」

社務所に残りはひとりポツッンと女子高生チャコだった。

「いゃ〜ん忘れられちゃったあ」

半泣きのチャコであった。


社務事務所は説明を続ける。

「みんな分かれましたね。では分かれて分かれてくださいね。それぞれの部所担当の指示についてください」

アルバイト巫女たちはハアーイと可愛い返事をして散らばる。

「それとチャコさんあなたは」

社務所職員やっとチャコの存在に気がつく。

「チャコさんは私について来てください。職務内容が違っております」


呼ばれてチャコはまずホッとする。忘れてはいなかったらしい。

「あのねあのね。説明を聞いたら私は神儀詔の使者になるんだって。なんかわかんないけど特にご指名なのよ。なんだろ?何をするのかな。私だけのこのこと神宮神社の奥の院に連れて行かれちゃうらしいんだけど」


神宮の社務所職員の話では神儀詔の特別な巫女さんは可愛らしく清楚で礼儀正しくないとなれない大役だそうだ。


「ふぅ〜まっそんな感じ。特別巫女さまでございます。選ばれたんだから一応嬉しいかなニコリっしましょう」

チャコはエヘへと笑いながら社務所職員について奥の院へ進む。


社務事務所の話。

「ここ神宮奥の院には大宮司さまがおいでになります。この神宮の歴代宮司さまとなっています。遡ることは江戸、戦国、さらには平安、鎌倉でございます。厳かな厳格なる神儀詔はまさに神となって務める特別なる巫女業務でございます。かように申す神とはなんであるかでして」

かなり長い説明を社務所職員からされている。


しかし聞いたチャコは上の空。

「なにかゴチャゴチャ言われたけどサッパリわかんない。日本史は苦手で嫌いなのでございます。江戸って紫だったかな。鎌倉は大仏饅頭美味しいのね。さてさ私はなにするんだろ」


奥の院に来ると社務所職員はうやうやしくコンコンと大宮司のいらっしゃる門戸を叩く。見るからに厳かなお社の扉だった。

「この御屋敷に大宮司さんがいらっしゃるのね。緊張するわ」

社の中を進むと荘厳な広間が現れ中でゴソゴソと音がした。


「はいどうぞ」


社務所職員は頭を下げて礼拝をした。チャコもわけがわからないが頭を下げる。


ペコリッ〜


「失礼致します。ただいま連れて参りました」


古い社の中を進みチャコの前には白髪頭の威厳ある大宮司が現れた。

「あらっこのお爺ちゃんが神宮で一番偉い神主さまなんだわ」

その姿を見たら緊張してきた。


大宮司はチャコをチラリと見た。

「で事務長さん。どこに神儀詔の巫女はいなさるのかな」


社務所職員は戸惑う。


エッ!


と驚きの顔。


「はっ目の前にいますけど」

社務所職員は冷や汗が出たのかハンカチを出して頭を拭う。

「やだぁ私このおじいちゃんに無視されたぁ。チャコはここにいますわよ」

手を振ってやろうかと思った。チャコでございまする!


白髪の大宮司ははてはてとキョロキョロして周りを見渡した。

「おーそこにいらっしゃったのか。すまぬなあ目が悪くなってな。どれどれ」

手元にある机から老眼鏡をごそごそと取り出した。

「すまぬすまぬ。平に誤りなすって候うですな」

老眼のメガネをかけてチャコをジロリとやる。グイッと顔をせり出してみた。

「やだぁっ私見定められちゃうのかな。恥ずかしいわ」


チャコは大宮司の前に立っていると思うと顔が赤く熱る。


「うぬ見えぬなあ」


大宮司呟いてまた机の上から引き出しからそこらからゴソゴソとやり始めた。違うメガネを探す気らしい。

「歳でしてな。すまぬですな。う〜新しい眼鏡はどれだったかなあ。昨年新調したのに何処かな」


また違う眼鏡でじろじろ見られた。


「あんまりジロジロ見られちゃって。私恥ずかしいからイヤンイヤン」


自然にポワ〜ン〜トローントロ〜ンとなってしまう。


が大宮司は納得行かない。あやあやまだ問題は解決していなかったようだった。

「事務長見えぬなあ〜」


社務所職員は年寄りは扱いにくいなあと困り顔である。

「天さま。あわててはいけません。まだでございます」


まだ?


聞いたチャコ。


「うんまだ?なんのことかな」

チャコ話がわからなくて不安になる。

「大宮司のおじいちゃんどったのかな」


社務所職員はハンカチを取り頭から拭き拭きしながら説明をする。

「神儀詔のための《お多福のお面》はつけてはおりません。さっ君。これをつけるんだ」

やおら取り出されたのは何やらお面らしきものである。チャコはちらっと箱を見た。


中から出たものは。


「あぎゃあー!!」


そこにあったお面はまるでチャコである。チャコにソックリのお面である。


お多福さんじゃんか!


「神儀詔の巫女ってお多福さんのことなの?それも私にうりふたつのお多福だわ」


社務所職員はチャコに頭を下げた。

「いやあ初めてチャコさんを見た時から決めていたんだよ。君ならお面なしで神儀詔巫女ができる貴重な存在だと思っていたんだ。なんせねこの御多福さんのお面は古くて古くて。新しいのを買わなくてはいけなかったんだが。なんせ文化財だから高い。簡単には買えないんだ。その点、君なら素顔のままでいい。そのままで特別巫女さんができるから助かるアッハハ」

社務所職員は助かった助かったと強調して言った。


「フンだぁっ。私バカらしくてやってら〜れなあーいフンダァ〜」

チャコはプッと膨れ口を尖らせた。タコのハッチャンみたいにプゥーである。


それを見た大宮司は喜んだ。


「おーぉその顔じゃそれそれじゃあ。よし決定じゃ。さっそく今からやってもらおう」


大宮司は勢いチャコの手を握り神棚に座りなさいと命じた。


「参詣客をジャンジャン呼びたまえ。久しぶりにワシも燃えて神棚をブルンブルンやるぜ」

大宮司さん歳も考えずに張り切ってしまう。


いゃ〜んもう!


チャコは神儀詔の特別巫女をお多福さんをうまくこなした。


「ハァーイチャコは御多福のお面かぶらないまま無事務めました。なんて言わせたいのね」


チャコさんその後は縁談の話はいかがですか。


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― 新着の感想 ―
[一言]  えっと、何と言いましょうか。ストーリーとかは一応分かるのですが、あまり理解できない、そんな感じですかね。  チャコの心情が前面に出すぎてて、一人称の書き方でもこれだとあまり場面が想像しにく…
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