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ギャルの義弟になるまでは  作者: 荒矢田妄


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第10話 暇なら働け高校生

「あれ? お前今日昼飯それだけ?」


 購買で買ってきたらしい天津飯をかきこみながら、慶佑が俺に聞いてきた。

 俺が手にしているのは今朝コンビニで買ってきたクリームパン一つ。健全な男子高校生の食事としては、いささか物足りない量だ。俺が決して小食ではないことを知っている慶佑が疑問に思うのもまあ無理はない。


「そういや最近いつもそんな感じだよな? 何、ダイエット? ……な、わけないよな。なんか欲しいもんでもあんのか?」


「まあそんなとこ」


 ここで言うべきことではないと思ったので、適当に濁しておく。

 食う時はちゃんと食っといた方がいいぜーとの言葉を聞いてるうちにパンは全て腹の中に納まる。これにて今日のランチタイム終了。




「あれ? お前……今日昼飯それだけ……?」


 購買で買ってきたらしい麻婆丼をかきこむ手を止め、慶佑が俺に聞いてきた。

 俺が手にしているのは今朝コンビニで買ってきた野菜ジュースひとつ。華奢な女子高生の食事として見ても、いささか心配になる量だ。俺が決して小食ではないことを知っている慶佑が不審に思うのもまあ無理はないだろう。


「なんか……だんだん昼飯が少なくなってねえか? そんなに高いもん買おうとしてんの?」


「まあ、そんなとこだ」


 やはりこの場で言うべきことではないので、適当にはぐらかしておく。

 流石になんか固形物を腹に入れた方がいいと思うけどな……と心配そうな声色を見せる慶佑に大丈夫だと手でサインを送っているうち、野菜ジュースは全て腹の中に納まる。これにて今日のランチタイム終了だ。


 ちょいと尿意を覚えたので慶佑に一言声をかけてトイレへ立つ。

 用を足し、教室へと戻る道すがらで、廊下の片隅に伊波が立っているのを見つけた。向こうも俺の姿を認識すると、こちらに歩を進めてくる。どうやら俺を待ち伏せていたようだ。


「なんだ、カツアゲか?」


「するかそんなこと。……あんた、今日放課後ヒマ? どうせヒマでしょ?」


 決めつけたような口調だ。まあ暇なんだけど。


「ヒマならちょっと付き合えよ。五時駅前な。遅れんなよ」


 それだけ言うと伊波はさっさと教室の中に入ってしまう。おい要件を言えよ要件を。

 不満の一つでも言ってやろうと思ったが、終業後の俺が完全無欠な暇人であることは疑いようのない事実なので何も言えない。まあ別にいいか、暇だし。




 というわけで放課後俺は珍しく駅の方までやってきていた。普段の帰り道とは少し外れたところにあるため、基本的に俺はこっちに来ない。遊びに来ることもないしな。

 別に律儀に約束を守る必要もなかったような気がしないでもないが……。無視したらしたで後が怖そうだ。ここは大人しく従っておこう。


 約束の場所につくと、壁にもたれるようにしてスマホをいじる伊波の姿があった。

 おう、来たぞと声をかけると伊波は顔を上げた。


「よし来たな」


「来いって言われたからな」


 伊波は少しだけ満足そうに頷くと、ついて来いといって先導する。

 わさわさと揺れるボリュームのある金髪を目印に付いていきながら、「やべえ店に連れこむつもりじゃねえだろうな……」などと考えていたが、それは杞憂に終わる。

 着いた、ここ。と伊波が言ったのは。


「……ファミレス?」


 何の変哲もないファミリーレストランだ。全国的にも広くチェーン展開をしている国民の友。誰もが一度は言ったことのあるあのファミレス。

 なんで俺をここに? ツケでも立て替えさせようってか? などと訝し気な視線を向けるが、伊波はそれをひらりとかわして「ま、いいからいいから」と俺を引っ張っていく。


 表ではなく、裏口の方へ。


 薄く汚れたつつましい扉を開きながら、伊波はハキハキと言った。


「店長ー! 連れてきましたよバイトのヘルプ!」


 バ、バイトのぉ? ヘルプぅ!?


「おいどういうことだ伊な」


「本当かい!? いやー助かるよ!!」


 言い切る前によく通る声が俺の言葉をかき消した。

 声の主と思われる人の好さそうなおじさんがニコニコしながらこちらに駆け寄ってくる。


「伊波さんありがとうねえ! いやほんと助かる! ……あ、申し遅れました。僕、ここのファミレスの店長やってます内田です。よろしく」


「あ、いやその……よろしくお願いします」 


 少し汗ばんだ手でガッシと両手を握られた。勢いに負けて俺は口を閉ざす。

 そして気づいた。内田さんの目元にある深いクマに。よくよく見れば、顔色もあまり良くはなさそうだ。


「ウチの事情は伊波さんから聞いてるかな?」


 うーん、聞いてないですね。


「実は、ここ二週間でスタッフが三人もいなくなってしまって……。一人は怪我、一人は病気。そして一人は……」


「先週バックれちゃいましたね」


 伊波が言葉を引き取ると、内田さんはがっくりと肩を落とす。


「面接した時は真面目そうな子だと思ったんだけどなあ。難しいな人を見るって……。あ、ごめんね。そんなこんなで、今うちの店は人手が全く足りてません! 本部に連絡してもすぐに応援は出せないの一点張り! ワッハハハハーどうしろって言うんだ全くもう!」


 急に怒り始めた。いささか情緒が不安定のようだ。

 伊波がこそっと耳打ちしてくる。


「店長、今日で十七連勤めなの」


 十七連勤! 二週間以上も! ヤバいな。労働基準法も真っ青だよこんなの。


「だから伊波さんが学校の友達を連れてくるって言ってくれた時はもう本当に救われた気分だったよ。地獄に仏、ファミレスに伊波さんだね。うんうん」


「店長、意味わかんねっす」


「伊波さんは本当に真面目だし優秀だし。そんな伊波さんが連れてくる子なら絶対に大丈夫だと思ってね! ……えーと」


「あ、すみません遅れました。有明です。有明救太郎」


「有明君ね! うんうん! 優秀そうな子だ! 私はしがないファミレス店長だけど、アルバイトの子をたくさん見てきたからね。これでも人を見る目には自信があるんだよ。そんな私が言うんだから間違いない! 有明君は優秀な子だあ!」


 あれ? この前バイトにバックれられたって言ってなかったけ?

 ひそひそと伊波に聞く。


「この人、大丈夫か?」


「いつもはこんなトチ狂った感じじゃないんだよ。正直だいじょばないと思う。だから早く休ませてやりたい」


 休ませてやりたい……か。

 ちらりと内田さんの顔を見やる。いつか見た親父の顔色にそっくりだった。


「分かった。手伝おう」


 内田さんに聞こえないくらいの声量で伊波に言うと「助かる」と短く帰ってきた。


「すみません店長。とりあえず来たはいいものの、俺バイト経験とかないので……なにやればいいですか?」


「そうだね! 有明君にはとにかくキッチンに入ってもらいたい。調理系は基本的に私がやるから、有明君はそれをホールの人に渡すのと、スープとかの簡単な盛り付けをお願い。あとは洗い物だね。この前はキッチンが私しかいなかったから、片づけに全く手が回らなくて……。結局伊波さんに適宜片づけに入ってもらって、なんとか凌いだんだよね……」


「それはしゃーねっす。あの日はちょうどバックれもあって、いつも以上に人少なかったんで。でも今日は佐山さんもいますよね? ある程度は余裕ありそっすね」


「そうだね。それより伊波さん、今日はホールのほうが人少ないから、大変かもしれないけど頑張って。一応七時までは松本さんもいるけれど、あとは伊波さんと、橋本さんだけだから。申し訳ないけど、彼女のサポートもよろしくね」


 テキパキと情報交換をする伊波。知らない人名ばかり出てきたので後半の話はさっぱりだったが、とにかく今日俺がやることは分かった。やるからにはちゃんとやるさ。


 内田さんから渡された調理着に着替えてキッチンの方へ向かうと、伊波はすでに制服を着てホールの仕事に着いていた。お待たせしましたーと明るく清潔感のある自然な笑顔。学校でも家でも見たことのない伊波の顔は、いつもよりもグッと大人びて見えた気がした。

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