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蓮池の鯉

掲載日:2026/05/10

お釈迦様は蓮池のほとりを歩いておりました。

蓮池にはたくさんの色鮮やかな鯉が泳ぎ、水面から顔を出してお釈迦様に挨拶をしています。

桃色の蓮の花には水晶のような雨のしずくが止まり、朝のひざしを蓄えています。

極楽浄土はちょうど朝なのでございます。

やがてお釈迦様は池を過ぎようとしたところ、草木に隠れていたてんとう虫が言いました。

「だれか溺れている人がいます。」

お釈迦様はたいそう驚き、てんとう虫に導かれるまま、その人のもとへと行きました。


蓮池で溺れる人がいます。

鯉たちは怯えて、蓮の葉の下へ隠れてしまっています。

お釈迦様はその様子を見ると、溺れる彼のもとへ水面を歩いてゆくのです。

岸へ引き上げると、彼は僧侶だと分かります。

僧侶は水を吐きながら、お釈迦様に感謝を述べます。

てんとう虫が聞きました。

「あなたは誰なの?」

僧侶は名前を言うと、急いで師のもとへ戻らねばならない、と言いました。

お釈迦様は僧侶にそっと、ここがどこかを教えてあげました。

僧侶は感激し、お釈迦様に跪きました。


僧侶はお釈迦様の隣を歩きました。

僧侶は聞きました。

「ほかの方はいらっしゃらないのですか?」

お釈迦様は肩に止まっていた、てんとう虫を手のひらに乗せました。

そして、池の鯉を指さしました。

僧侶は言いました。

「皆が苦しみの中なのですか?」

お釈迦様は悲しそうに首を振りました。

僧侶は言いました。

「ならば、私も鯉にしてください。」


今日もお釈迦様は蓮池のほとりを歩いておりました。

対岸の咲いた満開の桜は風に香りを乗せて、お釈迦様の元へと運んでゆきます。

ここに苦しみはありません。

その時、一匹の立派な鯉が水面から飛び出ました。

陽の光に晒された鱗をキラキラと輝かせ、またも水面に消えてゆきました。

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