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中学2年生、俺はあの子に恋をした
あまり目立つ子じゃなかったし、喋ったこともなかったけど
気づいたら好きになっていた
その時は想いを伝える気はなかったし、しなくてもいいと思っていた
今は・・・・とても後悔している
「翔平、お前本当に大丈夫か?」
机に伏せていた重い頭を上げると、そこには心配そうにこちらを見つめている男がいた。こいつの名前は柳 信二。中学の頃から良く遊んでいた友達だ。
「あぁ、大丈夫大丈夫。寝てれば治るよ」
今日は今朝から体調が悪い。吐き気もするし頭痛もする。だが家にいてもやることがないし家も近いってことで取りあえず学校には登校した。
「大丈夫って面じゃねぇぞ?今日は帰ったほうが良いって。授業中にもどしたりでもしたら俺らが困るんだよ。」
「いや、吐き気は大分良くなったんだ。取りあえず残りの授業に出て、そんでも治らなかったら帰りに病院にでも寄るよ」
「ん~、そっか、お前は一度かかると長いからな、あんま無理すんじゃねぇぞ?」
「あいよ」
そういってまた机に突っ伏す。あまり病気にかかった事が無い分、たまにかかると長い。その事は信二も知っているし、もちろん自分でも良く分かってる。
取りあえず寝よう。それが一番だと思い、夢の中へと入っていった。
「キーンコーンカーンコーン」
6間の終わりを告げるチャイムによって目が覚めた。
「おっ、やっと起きたか。お前今日1日ずっと寝てたから明日の朝まで起きないんじゃないかって思ったよ」
気がついたら学校が終わるなんて普段の俺ならさぞかし喜んだだろう。だが今日は酷い頭痛があるせいか、あまりそういった感情にはなれなかった。
「んじゃぁ俺は部活行くけど、ちゃんと病院行けよな」
「分かってるって、じゃぁな、部活頑張れよ」
そう言って鞄を手に取り、教室を出た。
俺の名前は片野 翔平。今年で高校1年になった。中学の時はあまり勉強が出来るほうではなかったけど、家があまり裕福じゃなく、私立だと親に負担がかかると思ったので、少しレベルが高いが家から歩いて5分ほどにあるこの県立高校に的を絞った。ラスト半年でかなり勉強をし、なんとか合格することが出来た。これも信二のおかげだ。あいつがいなけりゃ数学なんて10点もとれなかったろうに。よくここまで俺に教えれたもんだ。自虐的なことを言うようだが事実だと思う。
それに・・・あいつもいるしな。
中学生の頃からずっと片思いを続けている女子が俺にはいた。あいつもこの高校を受けるって信二から聞いた日からは、俺の中でのこの高校の価値観が何倍にも膨れ上がった。きっとそれが一番でかかっただろう。
そんなことを考えながら、何とか目的の病院まで足を運ぶことが出来た。「柳総合病院」。信二の親父さんが経営している病院だ。信二と知り会ってからは、この病院以外に行った覚えがない。おじさんとは顔見知りだし話しやすいからな。
受付を終え、診察の時間が来るまで待合室で缶コーヒーを飲みながら時間をつぶしていた。人は二人ほどしかいなく、すぐに順番が回ってくるだろう。
すると診察室のドアが開き、一人の女子が出てきた。
その女子は髪が長く、眼鏡をかけていて、そして俺と同じ高校の制服を着ていた。彼女の事は良く知っている。津島 佳奈、俺の想い人だ。
「あれっ、片野君」
津島の方から喋りかけてきた。俺は中学生の時、津島とあまり喋ったこともなかったし、接点もこれといってなかった。だが同じ高校に入ることで接点が出き、今ではあったらしゃべる程度にはなった。
「おっ、おぉ津島。偶然だな、驚いたよ」
「私も驚いたよ。どこか具合でも悪いの?」
「いや、ちょっと頭痛と吐き気が酷くて。今は大分良くなってきたんだけどな。津島は?」
「えっ、いやっ、その~、私もちょっと具合が悪くてね。薬だけもらいに来たの。」
そういって薬の入った袋を見せてくれた。ただの風邪にしては少しばかり多い気がする。聞いたときも少し焦ってたし。
その時診察室のほうから看護婦さんに名前を呼ばれた。
「あっ、なら俺は行くよ。体に気をつけてな」
「うん、じゃぁまた学校で」
そういって津島と別れ、俺は診察室のほうへ向かった。
「おっ、翔平じゃないか。久しぶりだな。今日はどうしたんだ?」
「こんちわです。ちょっと今朝から頭痛と吐き気が酷くて」
「ははっ、昨日酒でも飲んだんじゃないのか?」
「いや、飲んでないって。信二のアホと一緒にしないでくださいよ」
「親の前で息子をアホ呼ばわりするとはいい度胸だ。まっ、否定はしないけどな」
おっちゃんはそんな感じで笑いながら診察をしてくれた。
診察が終わり季節風の風邪だということが分かった。今日はすぐ帰って寝ろとのことだ。
「んじゃ、俺は帰りますわ」
「あっ待て翔平。さっき診察に来てた佳奈ちゃんは知り合いか?」
「えっ、まぁ同じ中学と高校だし、知り合いですよ」
「そうか、いやあの子な、ちょっと体が弱い節があるから、困ってるの見かけたら助けてやってくれな」
「そうなんすか?んまぁ任せてよ。俺女の子には優しいからさ」
「お前は父親に似て手が早いからな、まぁ頼んだよ」
「おっけいっす、それじゃぁ」
「おぅ、気をつけて帰れよ」
そういって病院を後にした。
病院で処方された薬を飲み、家に帰ってすぐに寝たこともあり、体調は大分回復した。それでも学校に行くのは少し面倒で、今日は昼から登校すえることにした。昨日はぼぅっとしていたが、あの話の事が今になって気になっていた。津島は確かに体が強そうではなかったが、定期的に病院に通うほど弱いのか、詳しいことが知りたくてたまらなかった。午前中はそれで頭が一杯で昼になるまでずっと考え込んでいた。
昼飯を食べ、学校に行く支度をして家を出た。基本学校に行く時は大通りを渡り、ただ真っ直ぐ進むだけだが、今日は気分転換がてら少しいつもより遠回りをして行くことにした。
余り通ったことの無い道だからなのか、景色がいつもと違って新鮮に感じた。周りには田んぼや畑ばかりで、空気が澄んでいる。家から持ってきた缶コーヒーを飲みながら歩いて、たまに落ちている石をける、そんな子供の様な行為がとても楽しかった。しばらく歩いていると、一つの公園が見えてきた。昔よく信二達とよく遊んだ記憶がある。大きい公園ではなかったが、ブランコ、鉄棒、シーソー、すべり台、定番の遊具は揃っているし大きな木もあって登ったりもした記憶がある。久しぶりに立ち寄ってみようと思い公園に入ると、横手の方から声が聞こえた。
「片野・・・君?」
そこには津島の姿があった。だが何かおかしい。息が荒くて呼吸が乱れている。
「どうした、大丈夫が津島」
「うん、ちょっと気分が、悪くて」
声を出すのも辛そうだった。ここからだったら柳総合病院が結構近くにある。俺は鞄を放り投げ、急いで津島をおぶって走り出した。
「ちょっとだけ待ってろな。すぐに病院に連れてってやるから」
小さい声で「ごめんね」と聞こえた。全速力で病院に向かった。
津島を担ぎ込んで直ぐに看護婦に引き渡し、それからは待合室で息を整えていた。病み上がりで全力疾走は正直きつかった。太ももとケツがもの凄く痛い。信二が言っていたケツ割れってのはこれか。定期的には運動しなくちゃいけないかもな。
それから15分ほど経って、おっちゃんがやってきた。
「佳奈ちゃんを担ぎ込んでくれたのはお前だったか」
「丁度通りかかって。それで、津島は大丈夫ですか」
「あぁ、大分落ち着いてきて今は眠ってる。ほんと良くやってくれたよ。あのままだったらもっと酷くなってるところだった」
「昨日体が弱いって聞いてたけど、津島はどうなったんです」
「佳奈ちゃんはな、持病で喘息をもっててたまに発作が出るんだ。しかも佳奈ちゃんの場合、結構重くてな、いつもは発作が出たとき用に気管支拡張剤をもってるんだが今日は忘れてきたらしくて、あのまま放置してたらどんどん息がしづらくなって気を失ってただろう。もしかしたら手遅れになってたかもしれない」
「そう、ですか・・・」
血の気が引いた気がした。あの時いつもの道を通り学校に行ってたら、俺は津島にあう事は無かったろう。もしそうなっていたら……
「とりあえず、今日はこのまま入院することになってるから、お前は学校に行って来な」
「うん、津島にはお大事にって言っといて下さい」
そういって病院を後にした。
学校に行く気にはなれなかった。とりあえず公園に戻って鞄を拾い、津島がいた木の下でただ思いふけっていた。
津島の容態は俺が思っている以上に酷いようだ。いつもあんな感じで苦しんでいるのかと思うと、胸が痛くなった。俺はやっぱり津島が好きだ。ただ、この想いを告げる事は恐かった。付き合えることになったら嬉しいだろうが、その後に津島のあの苦しそうな姿を見ることになるのが・・・彼女と向き合うことになっていくことになることが、ただ恐かった。
「俺、格好悪いよな…」
「なぁ~に暗い顔してんだよ」
顔を上げると、そこには信二の姿があった。
「こんな場所でサボりか?学校にもこないで何やってんだか」
「うるせぇよ」
「まっ、お前が元気ならなりよりだ。昼から学校に来るはずなのに来ないしさ、どっかでのたれ死んでんのかと思ったよ」
その言葉で俺はさっきの津島の姿を思い出した。
「てめぇ、そんなこと冗談でも言うんじゃねぇ!」
俺は信二の胸ぐらを掴み上げた。本気で言ったとは思っていないし、俺も逆の立場ならそんな風に冗談の一つでも言ってただろうに。だが、あいつの姿を思い返したとたん、とっさに手が出ていた。
「なっ、なんだよ。真に受けんなって、冗談だろ」
俺は掴んだ手を離し、自分が気持ち的に一杯一杯なんだということに気がついた。
「すまん・・・」
「一体何があったんだ?今日のお前、なんかおかしいぞ」
「ごめん、色々あってさ。今日は家に帰るよ」
鞄を手に取り、重い足取りで公園を出た。
「何があったかはしらねぇけどさぁ、俺はいつでも相談にはのるから」
その言葉が今はとても嬉しくて、信二の方も向かずただ後ろに手を振った。
土曜日の朝、一日たって大分気持ちが落ち着いてきた。今日は学校が休みだし、昨日のこともあるから信二の家に行くことにした。支度をして、家を出た。
信二の家までは自転車で10分ほど。途中コンビニで昼飯と缶コーヒーを買い、ゆっくりとしたスピードで目的地へたどり着いた。
「おはようです、おばさん」
「あら、翔平くんじゃない。久しぶりねぇ。信二なら部屋にいると思うから適当にあがっといて」
「了解です」
「おっす」
「おぉー翔平。なんだ、来るんなら連絡くらいよこせよ」
「面倒くさい」
「相変わらずだな。まぁ昨日の腑抜けた面でこなかっただけましか」
「昨日は悪かったな。俺どうかしてたよ」
「・・・昨日の事は親父に聞いたよ。大変だったんだな」
俺は無言で頷いた。
「津島のことについても前から色々聞いてた。容態がどんどん悪くなってることも、月に何回か検査に来ていることもな」
「お前、知ってたのか?今までそんな話聞いたこと無かったけど」
「翔平だけには教えないようにしてたんだ」
わけが分からない。何故俺だけに隠す必要がある。
「何で、俺だけなんだ?」
「だって・・・」
信二は俺の目を強く見つめた。
「翔平は、津島の事好きなんだろ?」
俺は目を見開いた。信二はおろか、誰にも津島の事が好きだと話した覚えはない。こいつはどこからそんな情報を得たんだ。
「お前、なんでそれを・・・」
「ははっ、やっぱりな。見てれば分かったよ。高校受験のとき、津島が同じ高校を受けるって教えたときも一瞬今みたいに驚いた目をしてた。付き合いも長いしな。今まで付き合ってた女子とは違う感じがした。マジで好きなんだろ?」
信二は観察力がある。医者の息子だからってのは関係あるのか知らないが、信二には隠し事はあまり出来ない。
「こればっかりはお前にも気付かれてはないと思ったんだけどなぁ」
「翔平は分かりやすからな。まぁ、そんなわけでなるべく知られないようにしてたんだ。知ったからどうこう出来るほど簡単な問題じゃないけどな」
「それなら、今信二が知ってることを教えてくれないか」
「後悔しないか?」
信二の目は本気だった。いつも冗談めかしく話す奴だが、今回は訳が違うようだった。
「しない。俺はもっとあいつの事を知りたい。さっき信二が言ったとおりマジなんだ」
「興味本位で聞くってんじゃないんだったら話すよ。それで翔平が一歩前に進めるんだったら俺は協力したい」
「頼む」
信二はベッドの上に座り、俺も机のいすに座った・二人が丁度向かい合わせになるこの場所が、いつもの場所だった。
「お前も知ってるとおり津島は、持病で喘息を持っている。それもかなり酷くなってきていてな。あいつがこの高校を受けた理由は、家から一番近い高校だったからだ。極力運動は控えなきゃいけない。だから負担を軽減するためにもこの高校にしたらしい。あとこの町の空気が澄んでいるってのも大事な理由なんだってさ」
「だから受けるって知ってたのか」
「うん。で、これは昨日親父に聞いた話なんだけどな」
少しの溜めがあった。信二自身も言うのが辛いんだってのが分かった。
「津島は、あと1年位しかもたないらしい・・・」
「えっ・・・?それって、津島の命はあと、1年ってことか?」
「まぁこのままいけばって話だ。半年以内に手術をすれば延命は出来るらしい。ただその手術ってのが難しくてな。成功するのが良くて25%。奇跡が起きなければ成功は難しいって」
「そんな・・・」
余命1年。手術をしても成功率25%。
「そんなのって、ありかよ!」
「落ち着け。翔平も辛いだろうけどあいつはもっと辛いと思う。こういう話を、津島は中2の時点で聞いていたんだ」
俺は津島を好きになった理由が、なんだか分かった気がした。中学2年生でこんな話を聞かされた津島は、きっと周りの14歳以上に自分を見つめ続けていたんだと思う。そういった雰囲気をかもち出していたので、俺は人目見たときから惹かれていったんだ。悲しい理由だった。
「んで、津島は今度手術を受けることを決めた」
「もう決めたのか?後半年あれば、手術なんかしなくても回復するかもしれないじゃないか。そんな命をかける必要も無くなるかもしれない」
「これだけ治療してきて、回復の目処が立たないんだ。もうその方法しかないだろ」
「くそっ!」
机に向かって力いっぱい拳を振り落とした。いつもなら文句をたれる信二も、今回は何も言わなかった。
「それで、翔平はどうするんだ?」
「どうするって・・・」
「想いを告げるかどうかだよ。このタイミングで告げる事は、津島を混乱させるだけかもしれない。もう時間もないし、そんな気持ちで手術に望むのは危険だ。それか逆に、もっと生きたいって津島が思い、成功率が上がるかもしれない。その行為がどっちに傾くかは分からない。たださ、この機会を逃せば、一生想いを伝えることが出来ずに終わるかもしれないって事は覚悟しておけ」
信二の言葉は重みがあった。信二の言うとおりだ。成功率は1%でも高いほうがいい。今になって中学のときに行動を起こさなかった事を後悔した。
「手術の日にちは、いつだ?」
「10日後の3時からだって、来週には海外の病院に向かうらしい」
「来週か・・・」
「どうするかは自分で決めろ。俺は応援してる。相談にものる。だから、後々後悔する選択は選ぶなよ」
「あぁ、ありがとな、信二」
「まぁ、今となってはもう少し早く教えるべきだったなって思ってさ。親父はいつかよくなるって言ってたし、治ると思ったんだ」
「まぁ、俺に気遣ってくれたのは分かってる。自責の念にかられる必要はないって」
「ほんとすまない事をしたよ・・・」
「ひとまず俺は津島のお見舞いに行くことにする。話もしたいしさ」
「うん、それがいいな。俺も病院までは一緒に行くよ。ちょっと待っててな」
それから俺たちは病院に向かった。
「あの、津島さんのお見舞いに来たんですが、会えますか?」
受付の人に津島が入院している病室に案内してもらった。
まずは受付の女の人が病室に入り、俺が来たことを告げてもらった。
「はい、入っても良いですよ。くれぐれも無理はさせないでくださいね」
「もちろんです」
そういって俺は病室に入った。
病室は個室で、ベッドが一つとテレビ、後は何かの機械があるだけだった。そしてそのベッドの上に津島はいた。両腕には点滴が施されており、口には呼吸器をつけられていた。見ているだけで辛かった。
「よぉ、具合は大丈夫か」
「来てくれてありがとう。今は大分落ち着いてるから楽だよ」
とても楽そうには見えなかった。昨日みたいな発作は出てないとはいえ、起き上がるのも出来ない様に見えた。
「片野君、昨日は本当にありがとね。お礼言いそびれてたから」
「気にするなって。津島が喘息を持ってるってのはおっちゃんに聞いたよ。昨日はただ必死だったけど、やっぱり辛そうだな」
「うん、でももう慣れたかな。ちっちゃい頃から何度も入院したりしてたし」
「そっか」
「片野君は具合大丈夫?昨日病み上がりだったのに必死に走ってくれたから、ぶり返したりしてないかなって心配してたんだ」
「あぁ、全然平気。いい運動にもなって良かったよ」
「そっか」
そういって津島は微笑んだ。話が出来ただけでも嬉しかったけど、やっぱり笑顔が見れる事が一番だった。
体調も考え、5分くらい話をした後、俺は病室を出た。
「どうだった?」
待合室で待っていた信二が心配そうな目で話しかけてきた。
「うん、話をしただけだったけど、やっぱり体調は悪そうだった」
「話せただけでもよかったな。聞いた話だと、2時間ほど前まで面会はとてもじゃないけど無理だったらしい」
「見た感じ、そうだと思ったよ。取りあえず、俺は家に帰って一人で考えてみるよ。一気に色々聞いたり見たりして、気持ちを整理したい」
「そうだな。取りあえずここ出るか」
「あぁ」
そういって病院を出た。
途中まで一緒に帰ったが、お互い無言だった。だが分かれる間際に、信二が口を開いた。
「翔平、色々気負いすぎるなよ。焦ってもいい答えなんか出ない。時間は無いのは分かってるけど、ちゃんと落ち着いて、ゆっくり考えればいい。そうやって出した答えがどんな結果をもたらしても、俺たちはちゃんと受け入れるからさ」
「・・・ほんとにありがとな」
信二は、いつも俺を支えてくれる。困ったり、迷ったりしたら、必ず親身になって考えてくれる。その支えがあるからこそ、俺は一歩踏み出せてこれたんだ。そして、今も。
「へへっ、じゃぁ、また月曜日にな」
「あぁ、来週までに答えが出せるように頑張るよ」
そういって信二と別れた。
俺は空港にいた。あれから一週間がたち、今日は津島が海外の病院に移動する日。俺は自分の中で答えを導く事は出来た。信二に言われたとおり、ゆっくり焦らず、そして一生懸命悩み続けた。これが最善の答えなのかは分からない。正直不安だ。でも不思議と迷いはない。信二が俺を支えてくれた、だから俺は一歩踏み出せる。
そんな風に考えていると、入り口の方からおっちゃんと津島の家族、そして津島が現れた。津島は車椅子に乗っていたが、調子はよさそうな感じだ。俺はそっちのほうに向かった。
「津島!」
こっちに気がついた津島が驚いた顔をしていた。車椅子をこっちに向けた。
「どうしたの片野君。偶然?」
「いや、津島が手術するってのは聞いた。最後に渡しておきたいものがあってさ」
そういって、鞄から物を取り出した。
「これって・・・」
「津島が手術を頑張れるようにって、みなで書いた寄せ書き。中学の時のやつら皆で書いたんだ。詳しい事は話してないけど、津島が手術を受けるんだって言ったら、心配そうにしながら書いてくれた」
津島は寄せ書き一つ一つ読んでいた。こんな事は迷惑だったろうか。そんなことを考えながら見つめたいた。
一通り読み終えると、津島は寄せ書きを抱きしめるようにしてうずくまり、肩を震わせていた。
「ありがとう、片野君。こんなに沢山の人たち・・・大変だったでしょ」
「津島の頑張りに比べたらちょっとしたことだよ」
「私ずっと不安だったの。手術が失敗したらとか、そんな事ばっかりいつも考えてた」
そういって、涙を流していた。
「私なんか居てもいなくてもいい存在なんじゃないか。いなくなったとしても誰も悲しんでなんかくれないんじゃないかって・・・毎日が辛かった」
「悲しむ奴がいないわけ無い。俺が手術のことを皆に話したときさ、全員が本気で心配してた。そんなこと、もう絶対考えるな」
「うん、寄せ書きを見ただけでもその気持ちは伝わってきた。勇気をもらった。半分諦めていたこの手術も、もう絶対諦めない」
その時の津島の目は、今まで見てきた中で最も生き生きしていた目だと思う。
「また、絶対戻って来いよ。皆待ってる。俺も、信二も、学校の奴らも」
「うん、じゃぁ、そろそろ時間だから」
そういって津島は家族のところに戻ってった。
飛行機の離陸を見に行こうと外に出たところで、信二が待っていた。
「これが・・・出した答えか」
「あぁ」
「寄せ書きを作るから手伝ってくれ、なんて頼んできた時から、大体は想像ついてたけどさ。まぁ、結果的にはかなりいい選択だったと思う」
「想いを告げることを考えるよりさ、生きて戻ってきてくれることが一番大事だと思ったんだ。これで、あいつも頑張れるかな」
「頑張れるさ」
「そうだといいな・・・」
2年後、俺たちは3年生になり、皆が就職・進学を決め、それに向かって頑張っていた。
俺と信二はお互い違う大学に行くことに決めた。正直寂しかったけど、信二はおっちゃんのあとを継ぐためにも医大に受験する。俺も少しレベルが高い大学を受験するので、今が頑張りどきだった。
「翔平、このあとどうする?」
「勉強だろ?」
「ここんとこ勉強ばっかりじゃねぇか。たまには息抜きしようぜ~」
「お前この前D判定だったじゃねぇか。3ヵ月後センターだぞ?遊びに行くのはその後だ」
「俺は後半追い上げタイプだからな。勉強は1ヶ月前からで余裕」
「好きにしろ。俺はもう追い上げなきゃ追いつかねぇんだよ」
「彼女が頭良いと一緒の大学に入るのも大変だな」
「へへへっ」
「きめぇよ・・・」
そういって桜並木道を歩き、目的地の図書館にたどり着いた。
中に入ると、やはり学生の姿が多かった。俺達はいつものテーブルに向かって歩いた。
「あっ、いたいた」
「やっと来た、遅いよ翔平君」
「信二がぐずっててさ、悪かったよ、佳奈」
「だってよぉ、あっそうだ、津島も一緒に遊びに行こうよ。そしたら翔平も」
「じゃぁ翔平君、昨日の続きだけど」
「あぁ、微分方程式のとこだっけ」
「きけよ!」
あの日から1ヵ月後、佳奈は手術を無事成功させ、この町に戻ってきた。それから俺は告白をして、今俺達は付き合っている。
まだ佳奈の喘息は治ったわけじゃないけど、俺が一生支え続けていくつもりだ。
これからも、ずっと・・・・
これは、僕が始めて書いた作品です。最後まで読んでいただきありがとうございました。感想がありましたら宜しくお願いします。