第八話:丘の上の大激突、魔法の開花と土の誓い
1. 丘の上で再会と新たな刺客
街外れの丘。ルシアは顔を輝かせ、しゃがみ込んで「黄金色に輝く、最高の粒子の土」を小さな袋に詰めていた。
「これよ!これこそが、焦げ付きの最高のパートナー!セリオさんも、きっとこの至高の土粒子を理解してくださるはず!」
その時、背後から鋭い気配がした。今回は黒装束ではない。精鋭の騎士団のローブをまとった男が、ルシアに向かって短杖を構えていた。
「ルシア・アルベール!観念しろ。我々は、貴様の悪しき汚れを振りまく魔力を封じるために来た!」
男が短杖を振るうと、空気が震え、ルシアの周囲の岩や木々に氷の刃が次々と突き刺さった。物理攻撃ではなく、明確な魔法攻撃だ。
ルシアは咄嗟に持っていた土の袋を盾にしたが、氷の刃は袋を貫通し、ルシアの頬をかすめる。
「きゃぃ!!」
ルシアが絶体絶命の危機に陥ったその瞬間、「土の飛沫とアルコールの匂い」を全身から発するセリオが、息を切らせながら丘を駆け上がってきた。
「ルシア!離れろぉぉ!」
「セリオさん!靴に土がついてますよ!」
「うるさい!今、それを気にする余裕はない!」
セリオはルシアの前に立ちはだかり、腰の剣を抜いた。彼の靴は既に土まみれだが、ルシアを守るという騎士の使命感が、潔癖症の恐怖を上回っていた。
2. ルシアの無自覚な魔法、開花
騎士団員はセリオを一瞥し、鼻で笑った。
「たかが、土を恐れる貴族の坊やが! 貴様の潔癖症では、この魔法の泥や汚染を避けられまい!」
男が魔法を放つ。ルシアの足元の黄金色の土が渦を巻き、泥のように変化して、セリオの足に絡みつこうとする。
「セリオさーん!」
泥が足首に触れそうになった瞬間、セリオは潔癖症の最後の抵抗を見せた。彼はルシアに剣を投げ渡した。
「ルシア!剣を使え!」
しかし、ルシアが掴んだのは剣ではなく、自分の手のひらに残った、黄金色の土の粒子だった。
ルシアは、セリオが泥に汚染されるのを防ぐという「主婦としての純粋な使命感」だけで叫んだ。
「ダメ!この土を泥にしてはダメ!この黄金色の粒子は、最高の焦げ付きを生む、極限の純粋さを持つのよ!」
ルシアの胸元から、パイが焼けるような「香ばしい」熱が発せられた。
その熱に共鳴し、ルシアの手の中の土の粒子、そして足元の泥になろうとしていた土全てが、一瞬で最高硬度の「焦げ付き」のように黒く硬化する!
”ガギン!”
泥はセリオのブーツに触れる直前で、ダイヤモンドのように硬い黒いブロックへと変わり、セリオの足元を守った。ルシアの周りの土、全てが! 瞬時に結晶化した防御壁へと姿を変える。
これが、ルシアが「焦げ付き」と呼んでいた、熱と物質の硬化を操る「極限錬成魔法」の無自覚な発動だった。
3. 土まみれの愛の証明
騎士団員は驚愕した。
「ば、馬鹿な!あの汚れが、一瞬でこれほどの極限の硬度を持つとは!?」
セリオも目を丸くする。彼のブーツは無傷だ。ルシアが自分の命を賭けて、土からの汚染を防いだのだ。
セリオは剣を拾い上げると、騎士団員に向かって叫んだ。
「ルシアは汚くない!彼女が愛するのは、命の源である土と、物質の純粋な極限である焦げ付きだ!それを『汚染』と呼ぶお前たちこそ、心が汚れている!」
セリオはルシアを守るために、自ら、ルシアが作り出した「硬化した土のブロック」の防御壁を飛び越えた!その瞬間、彼の身体は土の粒子に全身を覆われた。
セリオは潔癖症の苦悶で顔を歪めながらも、騎士団員を剣でめっちゃ打ちのめした。
「うへぇー…!」
騎士団員は敗北を認め、撤退する。
戦闘が終わった。セリオは全身泥(硬化した土)まみれで、呼吸が荒い。しかし、彼の瞳はルシアをまっすぐ見つめていた。
ルシアはセリオに駆け寄り、硬化した土の破片で汚れた彼の頬を、優しく撫でた。
「セリオさん……」
「ルシア……もう、大丈夫だ。俺は……土に、汚染されても平気だ。君を守れるのなら……」
その時、丘の影からゼストが現れた。
「さすがですね、ルシアさん。その硬化魔法、並大抵の術者が束になっても敵いません。そしてセリオ様……あなたは土への恐怖を、愛という名の騎士道で克服された」
セリオは驚いてゼストを見る。
「貴様、なぜ知っている!」
ゼストは微笑み、王室密偵団の印を見せた。
「私はゼスト・アルヴァレス。貴族社会の不正と、聖女の陰謀を探るため、王命を受けています。そしてルシア様の『焦げ付き魔法』こそが、この国を救う鍵となるでしょう」
セリオとルシアは顔を見合わせる。
「焦げ付き魔法……?」
「はい。その『焦げ』こそ、ルシア様の純粋すぎる防御力なのです」
ルシアの無自覚な能力が目覚め、セリオの愛が証明された(?)
物語は「ルシアのチート能力」という、ご都合主義の様相を深めていくのであった……。