双子の弟の成れの果て
昔書いた創作BL小説「双子の聖域」(兄×弟)の番外編になります。
しとしと、と降る梅雨の季節。
この頃になると、否応なしに思い出す罪悪感がある。
今から一年前に、自室で双子の弟が首つり自殺をした。
第一発見者は私、実の双子の兄だ。
原因はわかっている。自殺する一週間ほど前に、双子の弟との関係に区切りを付けたからだ。
私と弟は、実の兄弟でありながらも身体の関係を持っていた。
とある部屋に閉じ込められて、脱出するために性行為をした。
卑しい本能のままに犯した私を、弟は許して受け止めてくれたことは今も覚えている。
しばらくの間は両想いとなって、両親から隠れて恋人同士のようにしていた。
けれど、恋人関係は長くは続かず、気づけば私には女性の好きな人が出来てしまった。
文化祭の終わりに呼び出して想いを告げたところ、まさかのOKを貰い付き合うようになってしまった。
不誠実だとは自覚している。
既に恋人同士の弟がいるのに、他の女と付き合うなんて二股だ。
それでも、気持ちは彼女の方に向いている。
その為に弟との関係を終わらせたのだ。
別れを告げた時に、弟は酷く悲しみ涙を流しながら懇願してきた。
「どうして、どうして?!僕の何がいけなかったの?お願い、捨てないで!」
「捨てたりはしないよ。ただ、家族に戻るだけだから……」
「家族に、戻る……」
「ごめんね、私には他に好きな女性が居るんだ」
その直後に見せた弟の絶望した表情。
無言で涙を流したまま、家を飛び出しその日は帰ってこなかった。
そして、翌日になって弟の部屋に向かうとそこには首吊りをした無残な弟の姿があった。
両親は酷く取り乱し、私は呆然としていた。
弟の人生を断ち切らせたのは、自分のせいだ。
何度謝っても、死者は帰ってこない。
わかっていても、辛い気持ちは自分自身を責め続けた。
その日から、だっただろうか。
雨が降る日は部屋の外から、何か、声が聞こえるようになったのは。
「……ぁ……し……てェ………」
初めは罪悪感からの幻聴だと思った。
けれど、その言葉はだんだんと鮮明になってくる。
そう、今のように。降りやまない雨音と共に、死んだ弟の声が聞こえてくる。
「……あ、い……して、……る……」
けれど、私はそれに答えられない。
未だに愛しているのは、付き合っている彼女だから。
ひとりの家族を、絶望に落として自分が幸せになろうだなんて烏滸がましいのは理解している。
それでも、決めたことだった。
高校を卒業した後、大学生となった私は彼女と順調な付き合いを続けていた。
もうすぐ大学も卒業間近、という頃に事件が起きた。
実家の自宅で就寝していた彼女が、首を絞められて殺されたのだ。
外に出ていないはずなのに、体はずぶ濡れ。
ただ、首を絞めたその手が人間の手のようだということがわかっている。
彼女の通夜に出た時、ようやく愛する人が亡くなったことを実感しその場で泣き崩れた。
そこから、人生は転落していく。
彼女が亡くなって一か月も経たない内に、両親も交通事故で死亡。
その数日後に、親友までも何者かによって絞殺された。
次から次へと親しい人たちが、亡くなっていく。
大事な人が消えて、呆然自失となって自室の部屋に座り込んでいるとまた弟の声が聞こえる。
「……やっと……みて、くれる……ね……」
「どうして……私は殺さないんだよ……」
首元に、ひんやりとした両手が添えられる。
そして、死んだ弟は右耳の傍で囁いた。
「僕の苦しみを思い知ればいい。お前の大事な存在は、みんな消して独りぼっちにしてやる」
鮮明な憎愛。おそるおそるそちらに視線を向けると、酷く嬉しそうにする虚ろな瞳。
酷く歪んだ笑い声が、ずっとずっと部屋に響き渡る。
弟は絶望して、怨霊になってしまった。
きっとこの復讐は、私が死ぬまで続くのだろう。
それなら、と思い台所から持ってきていた包丁を掴み、
自分の部屋で心臓を突き刺して、意識は黒く塗りつぶされた。
それでも、外の雨はまだ止みそうにない。
(終)