第1話
カーテンから差し込む光で私は朝だと認識する。
私の上には包容力のある布切れ。
下には体重を支えてくれる安心感のある布切れ。
まぁ、つまりは布団なのだが。
その暖かさからくる心地よい眠気にとともに
深呼吸をして寝返りをうつ。
ほとんど閉じきった瞼の間からなにかが見えるが、
そのなにかさえ見えなければ私はベッドの温もりと心地よい眠気と共に眠ることができたのだろう。
しかし現実はそう甘くない。
現実を突きつけるようにして光っている6時半の文字
その横には忌々しく"月"と記されている。
この漢字一文字だけで私を絶望に陥れる人類はとてもすごいと思う。
「…………え?やばくね?」
我に返ると、頭の中は「やばい」というマイナスワードで埋め尽くされていき、どんどんと眠気がなくなっていく感覚がある。この感覚は世界で一番キライだ。
私が学校という名の地獄の牢獄に行くために
家を出る時間は7時10分。
これだけ聞けば他の奴らは学校に行くためには十分な時間があると思うだろう。
しかし私は違う。そう、私は違うのだ。
私は朝ごはんを食べるだけで三十分はかかる。
それに忘れてはいけない。この三十分というワードの前には"最低"がつくのだ。
私はどれだけ急いだとしても朝食を食べ終わるのに"最低"三十分かかるのだ。
「はぁ〜人生詰んだ…まじで笑えない」
しかし私は賢い。そう世界一と言ってもいいだろう
ここで天才的な案を思いつく。
朝ごはんを食べながら登校すればいいのではないかと。
このとき、大人しく遅刻を覚悟し家で朝ごはんを食べていれば、"死ぬことはなかっただろう"と今になって思う。
そう、私は死んだのだ。
言い直せば今が死ぬ最中なのだ。なぜかって?
食パンをくわえながら横断歩道を渡っていた時にパンが口から落ちそうになった。
あのパン事故さえなければ私は無事だっただろう…
そのパンを慌ててくわえ直したせいで左右を見てなくトラックにひかれて今に至る。
(あ〜、もっと美味しいもの食べたかった、作りたかった、ていうか今日試験受ける日だし…今日までの努力全部水の泡じゃん。)
私の意識はどんどん暗闇の中に放り込まれていく
(料理人になりたかったな、、)
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「うぎゃぁうぎゃぁ」
「奥様!生まれました!」
ここはどこだ…?確か私はトラックにひかれて死んで…ん?生きてる?助かったのか?それにしては周りが騒がしいような、、、
「奥様の子ですよ」
部屋にはたくさんの人がいて私は抱きかかえられながら…抱きかかえられる…?………え?
なぜ…抱きかかえることができるのか…
私は身長168cm体56kgのはずだ…
私を今から抱きかかえるであろう人は小柄で赤い瞳に長い艶のある黒髪の綺麗な人。綺麗というより華麗というべきか…妖艶というべきか。
その人は見るからに疲れ切っているのにもかかわらず私を軽々と抱き上げた
その瞳に映る赤ちゃんは綺麗な黄金の瞳をしており、綺麗な顔立ちをしている。
将来が楽しみだなぁ〜あはははははははは。
……………わかっている。
理解していないのと現実逃避が別物な事ぐらい。
では、言わせてもらおう。高々に言わせてもらおう。
これ、私じゃね?
悪役の家系に生まれた私、
向いてなかったのでご飯を食べます!
〜start〜