522 家族の体温と、新たな朝の訪れ
カーテンの隙間から差し込む柔らかな光が、まどろみの中にいた俺の意識をゆっくりと呼び覚ました。
頬に当たるシーツの感触がいつもより少しだけ狭く、そして何より、隣から伝わってくる体温が異様に高い。
「……ん、あれ?」
重い瞼を擦りながら横を向くと、そこには口を半開きにして幸せそうに爆睡しているエリクスの顔があった。
昨夜のことをぼんやりと思い出す。
テレビでゲーム大会を繰り広げ、夕食のリゾットを全員で平らげた後、エリクスが「今日は雨で少し心細いし、俺、兄貴と一緒に寝る!」と子供のように言い出したのだ。
普段は頼もしい弟分だが、たまに見せるこういう甘えには勝てない。
結局、広いフランスベッドに男二人で並んで眠りについたのだった。
「相変わらず、寝相が悪いな……」
俺の腹の上にまで伸びてきたエリクスの腕をそっと退け、ベッドの端から下を覗き込む。
するとそこには、白銀の毛並みを丸めて、静かに寝息を立てているメセタの姿があった。
ハイランドウルフであり、この世界における俺の夫でもある彼は、ベッドの主である俺を守るように床で眠っていたのだ。
メセタは俺の視線に気づいたのか、ピクリと耳を動かして片目を開けた。
「……おはようございます、我が君。エリクス殿の寝返りで起こされましたか?」
「おはよう、メセタ。いや、ちょうど目が覚めたところだよ。床で体は痛くないか?」
「ご心配なく。この厚手のカーペットも、貴方様が願って出してくださった最高の『寝床』ですから」
メセタはふわりと立ち上がると、大きな欠伸をしてから俺の手に鼻先を寄せ、親愛の情を込めて小さく鳴いた。
隣ではエリクスが「むにゃ……皿洗いは……もうしたぜ……」と寝言を呟いている。
どうやら夢の中でも昨日のゲーム大会の続きをしているらしい。
俺は苦笑しながら、彼を起こさないようにゆっくりとベッドから抜け出した。
窓を開けると、昨夜の雨が嘘のように上がり、洗いたての青空が広がっていた。
濡れた土と草の匂いが、メセタから共有された嗅覚を通じて鮮明に脳を刺激する。
「いい朝だ。メセタ、今日はこの雨上がりを活かして、畑の様子を見に行こうか」
「はい、我が君。共に行きましょう。……あ、その前に。リッカ様たちが起きる前に、美味しいコーヒーの香りを願ってみてはいかがです?」
メセタの提案に、俺は「それもそうだな」と頷き、心の中で静かに『淹れたての香ばしい珈琲』を思い浮かべた。
ぽんっ。
キッチンから漂ってきた芳醇な香りが、この穏やかな家の空気をゆっくりと、贅沢に満たしていくのだった。




