517 大地の恵みと、湯気の向こうの笑顔
キッチンには、人参や玉ねぎ、そしてこま肉が炒まる香ばしい匂いが立ち込めている。
チャリオットが鮮やかな手つきでスープの灰汁を取り、エリクスが洗い終えたばかりの瑞々しい葉物野菜をまな板の横に並べた。
「兄貴、このレタス、シャキシャキだぜ! 早く食べたくてたまらねえよ」
「ああ、自分たちで育てて収穫したばかりだからな。一番おいしい状態だ」
俺は木べらを動かしながら、鍋の中の具材が柔らかく煮えていく様子を見守る。
ふとリビングに目を向けると、リッカが子供たちと一緒に、丁寧に食卓を整えてくれていた。
リッカが広げた清潔なテーブルクロスが、夕方の柔らかな光を反射している。
「麗人さん、スープの準備はよろしいですか? 器を温めておきましたよ」
「助かるよ、リッカ。ちょうど今、最高の味になったところだ」
俺は一度火を止め、お玉でスープを掬い上げた。
黄金色のスープの中には、今日収穫した野菜の旨味がぎゅっと凝縮されている。
家族全員がテーブルを囲み、椅子を引く音が静かなリビングに響く。
「よし、みんな揃ったな。……いただきます!」
俺の声を合図に、一斉にスプーンが動く。
一口運ぶごとに、「おいしい!」という子供たちの歓声や、エリクスの豪快に食べる音が聞こえてくる。
リッカも一口食べては、優しく微笑んで俺と視線を合わせた。
食事の後の片付けも、この家では大切な家族の時間だ。
「ごちそうさま」の声とともに、俺たちは自然と役割分担を始める。
「チャリオット、洗い物は俺とエリクスでやるよ。お前は少し休んでくれ」
「滅相もございません、女神様。ですが……お言葉に甘えて、食後の茶の準備をさせていただきます」
俺とエリクスで食器をキッチンへ運び、カチャカチャと心地よい音を立てて洗っていく。
その間、リッカは使い慣れたふきんを手に取り、テーブルの上を丁寧に拭き上げ始めた。
食べこぼしや水滴を拭い去るリッカの手つきはとても穏やかで、一日の終わりを静かに整えていく儀式のようにも見える。
「麗人さん、今日も一日、本当にありがとうございました。とても素敵な夕食でした」
リッカがテーブルを拭き終え、真っ白になった木目を見つめながら呟く。
俺は濡れた手を拭き、満足げに微笑み返した。




