514 陽だまりの洗濯物と、満たされた静寂
裏庭での収穫と新しい芽吹きを見届けた俺は、心地よい疲労感を肩に感じながら家へと戻った。
土に触れ、新しい命に触れた後の身体は、どこか現実離れした浮遊感がある。
だが、勝手口を抜けて脱衣所の手前まで来ると、その感覚はすぐに日常のそれへと引き戻された。
家の中は、先ほどまでの賑やかな外とは対照的に、しんと静まり返っている。
脱衣所に足を踏み入れると、朝から「ごうん、ごうん」と鳴り響いていた洗濯機の鼓動が止まっていた。
いくら丁寧に洗う設定にしていたとしても、畑を耕し、畝を作り、収穫を終えるまでの時間があれば、機械の仕事はとっくに終わっている。
当たり前のことだが、この「家事が一つ片付いている」という事実が、今の俺にはたまらなく愛おしい。
俺は洗濯機の蓋を開けた。
中からは、石鹸の清々しい香りを纏った衣類たちが、程よく水分を飛ばして絡み合っている。
それを一つずつ解きほぐしながら、足元の洗濯籠へと移していく。
リッカのブラウス、エリクスの作業着、子供たちの靴下。
籠がずっしりと重みを増していくたびに、この家で共に暮らす家族の存在が、重みとなって腕に伝わってくる。
重くなった籠を抱え直し、俺は物干し場があるテラスへと向かった。
外はすっかり陽が高くなり、春の柔らかな日差しが、まるですべてを包み込むように降り注いでいる。
「よし、干すか」
俺は独り言をつぶやき、物干し竿を軽く拭いてから、籠の中から最初の一枚を取り出した。
リッカの白いシャツを両手で持ち、パンッと勢いよく振る。
小気味よい音が空気中に響き、シワが伸びていく。
それをハンガーにかけ、日当たりの良い場所に吊るした。
濡れた布が太陽の熱を吸い込み、微かに湯気を立てるような錯覚を覚える。
続いてエリクスのズボン、子供たちの色とりどりの服。
一枚、また一枚と竿に並べていく。
風が吹くたびに、湿った布たちが重そうに、けれど心地よさそうに揺れている。
この「洗濯物を干す」という、前世では面倒でしかなかった単調な作業が、今は何よりも心を落ち着かせる儀式のように感じられた。
特別なスキルを使って一瞬で乾かすこともできるのかもしれない。
だが、こうして自分の手でシワを伸ばし、太陽の力に委ね、乾くのを待つ。
その「待ち時間」こそが、俺がこの世界で手に入れた本当の贅沢なのだ。
最後のタオルを干し終え、俺は空になった籠を脇に抱えて、並んだ洗濯物を見上げた。
真っ白なシャツが青空に映え、風にたなびいている。
その向こうには、今しがた手入れを終えた裏庭が広がり、新しく植えた芽が静かに息づいているはずだ。
「兄貴ー! 洗濯終わったのか? 手伝うぜ!」
リビングからエリクスの元気な声が聞こえてくる。
「もう終わったよ。あとはお日様にお任せだ」
俺はそう答えて、空になった籠を片付けるために家の中へと戻った。
足元をメセタが静かに通り過ぎ、テラスの陽だまりで丸くなる。
洗濯機が止まり、家事が片付き、また新しい時間が流れ始める。
何気ない、けれど確かな日常が、ここにはあった。




