509 銀色の朝と、キッチンに響く木べらの音
カーテンの隙間から差し込む朝日に揺り起こされ、俺はゆっくりと身体を起こした。
「銀嶺の果実」がもたらした昨夜の興奮がまだ微かに残っているが、不思議なことに体調はすこぶる良い。
軽く伸びをしてから、俺は家族が待つリビングダイニングへと向かった。
キッチンの方からは、既に賑やかな気配が漂ってきている。
中を覗くと、そこには執事服の袖を整えたチャリオットと、やる気満々のエリクスの姿があった。
「おはよう、二人とも」
俺の言葉に、二人が同時に振り返る。
「おはようございます。女神様、早速ではありますが朝食の支度を開始致しましょう。良き一日の始まりには、良き食卓が不可欠でございます」
チャリオットが優雅に一礼する。
「おはよう兄貴! 腹減っただろ? さあ、朝ごはん作ろうぜ!」
エリクスも白い歯を見せて笑った。
俺は気合を入れるように、使い慣れたエプロンの紐を腰の後ろで結んだ。
まずは食材の準備だ。
冷蔵庫の重い扉を開け、昨日収穫したばかりの瑞々しい人参、立派なキャベツ、そして大ぶりの玉ねぎを取り出す。
さらに、旨味の決め手となるこま肉を並べた。
「よし、やるか」
戸棚から包丁とまな板を取り出し、トントンと小気味よい音を立てて野菜を切り進める。
人参は火が通りやすいよう、角度を変えながらの乱切りに。
玉ねぎも皮を剥き、同じく乱切りにしていく。
続いて、上の棚から深めの鍋を引き出した。
コンロに火を点けると、青い炎が静かに揺らめく。
鍋を火に掛け、薄く油を引いた。
熱せられた鍋に、切り分けた具材を一度に流し込む。
「ジューッ!」という景気のいい音がキッチンに響き渡った。
「おっと、木べらが必要だな」
俺がそう念じた瞬間、手に「ぽんっ」と軽い衝撃と共に木べらが現れた。
戦闘や資格に関するもの以外なら、願うだけで何でも手に入るこの力。
俺はその木べらを握り直し、色とりどりの具材を丁寧に炒め始めた。




