498 重なる言葉と、確かな絆
夜が深まり、リビングには俺とリッカ、そしてメセタの三人だけが残っていた。
俺の隣で穏やかに微笑むリッカは、俺の「妻」だ。彼女は俺の身体に毎月訪れる生理のことも、そして俺がこの身体でメセタの子を宿し、ユミナを産んだことも、すべてを理解した上で嫁いでくれた。
「麗人さん、少し顔色が優れないようですが……今月も、そろそろお辛い時期ですか?」
リッカが魔獣言語を交えながら、慈しむような瞳で俺に触れる。俺は「言語理解」のスキルがあるから、彼女の気遣いが手に取るようにわかる。
「ああ……。少しお腹が重いけど、大丈夫だよ。リッカがいてくれるだけで、本当に嬉しい限りだ」
そんな俺たちの会話に、一頭の美しい狼が静かに加わった。ユミナの父親であり、俺の夫でもあるハイランドウルフのメセタだ。
「我が主、無理は禁物です。私の背に寄りかかり、少しお休みになってはいかがですか?」
スキルを通じて脳裏に響く、メセタの凛とした、しかし深い慈愛に満ちた「私」という一人称の言葉。俺とリッカ、エリクスの三人は、それぞれ従魔契約や言語スキルによって、メセタたち魔獣とごく当たり前に言葉を交わしている。
「ありがとう、メセタ。……お前、本当に優しいな」
俺がその首筋に触れると、喜んだメセタは「高速狼」の別名の通り、尻尾をブンブンと凄まじい速度で振り始めた。
「私は我が主の伴侶。貴方の健やかさが、私の何よりの喜びなのですから」
リッカもまた、メセタと普通に言葉を交わしながら、俺の身体を気遣って温かい飲み物を用意してくれる。
俺はかつて、他の便利なスキルを願ったこともあった。だが、手元に現れるのはいつも読本用の本ばかり。結局、俺が手に入れたのは、この「言葉を交わす力」と、それによって結ばれた唯一無二の家族だった。
すべてを受け入れてくれる嫁のリッカ。
言葉を尽くして愛を伝えてくれる夫のメセタ。
この特別な愛の形こそが、俺がこの異世界で見つけた一番の答えなのだと、重くなる腹の痛みを感じながらも、俺は幸せに目を細めた。




