497 呼び名に込めた、今の絆
食後の静かな時間が流れるリビングで、俺はティーカップを置き、傍らに控えるチャリオットを見上げた。
前世では確かに「親父」だった男。
だが、今の彼は俺を「女神様」と呼び、完璧な執事としてこの家と俺を支えてくれるランドグリズリーだ。
かつての記憶も、注いでくれた愛情も消えることはない。
けれど、この世界で共に歩む「今」の関係を大切にしたいという思いが、俺の中で確かな形になっていた。
(……もう、「親父」と呼ぶのは辞めにしよう)
心の中でそう決めた瞬間、何かがすっと胸に落ちた。
それは決して拒絶ではなく、彼が選んだ「執事」という生き方への、俺なりの敬意だった。
「チャリオット、明日からの農園の計画なんだが……」
俺が呼びかけると、チャリオットは僅かに眉を動かし、いつも以上に深く、丁寧な一礼を返した。
「はい、女神様。どのようなことでも、このチャリオットにお命じください」
その声に、かつての面影を探す必要はもうなかった。
彼は俺の執事であり、このスローライフを共にする最高の相棒だ。
「お父さん、どうしたの? 難しい顔して」
ライトが俺の膝に飛び乗ってくる。
「いや、なんでもないよ。これからの我が家が、もっと良くなる方法を考えていただけさ」
俺はライトの頭を撫でながら、リッカやユミナ、そして背後に立つチャリオットを見た。
呼び名が変わっても、この温かな空気は変わらない。
夜の帳が降り、暖炉の火が静かに爆ぜる中、俺たちは新しい「今日」を分かち合っていた。




