495 執事の極意、森の隠し味
森での収穫を終え、籠いっぱいの「森の真珠」を抱えて家に戻ると、西の空が茜色に染まり始めていた。
「ただいま、リッカ。いいキノコが獲れたよ」
「お帰りなさい、麗人さん。まあ、立派なキノコですね!」
キッチンで待っていたリッカが、目を細めて迎えてくれる。俺は早速エプロンを締め直したが、その隣にチャリオットが静かに歩み寄った。
「女神様、このキノコの下処理は私が。土を落とし、香りを逃さぬよう薄くスライスするのがコツでございます」
「ああ、頼むよチャリオット」
チャリオットは執事服の袖を少しだけ捲り上げ、流れるような手つきでナイフを動かし始めた。その集中力と正確さは、かつての「親父」が日曜大工で木を削っていた時の真剣な横顔を思い出させる。
「お父さん、僕も何か手伝えることある?」
「じゃあライトは、ユミナと一緒にサラダの野菜を洗ってくれるかな。エリクス、お前は薪を少し足しておいてくれ」
「了解だ、兄貴!」
家族それぞれが役割を持ち、キッチンは活気に包まれる。
チャリオットが下処理した「森の真珠」を、俺が熱したフライパンに投入すると、森の香りを凝縮したような芳醇な匂いが立ち上がった。
「女神様、ここで少量のバターと、隠し味にこちらの香草を。雨上がりのキノコは水分が多い分、旨味を閉じ込めるのが肝要です」
チャリオットが差し出したのは、森で彼がこっそり摘んでいた野生のハーブだった。
「さすがだな。……よし、いい感じだ」
キノコとハーブの香りが絡み合い、食欲をそそる最高のソースが出来上がっていく。
完成した料理を皿に盛り付けると、チャリオットは満足げに一礼し、再びいつもの完璧な執事の佇まいに戻った。
「準備が整いました。女神様、皆様、食卓へどうぞ」
窓の外では夜の帳が下り始めているが、家の中は家族の熱気と、執事が添えてくれた「隠し味」のおかげで、この上なく温かな空気に満ちていた。




