494 雨上がりの午後、森への誘い
お茶の時間を終え、身体も軽くなったところで、俺はふと思いついた。
雨上がりの森は、畑とはまた違う「恵み」に満ちているはずだ。
「チャリオット、少し裏の森まで歩いてこようと思うんだが、付き合ってくれるか?」
俺が声をかけると、チャリオットは即座に背筋を伸ばし、深々と一礼した。
「もちろんでございます、女神様。雨上がりの足元は滑りやすくなっております。私が先導いたしましょう」
その言葉には、執事としての忠実さと、かつての親父が息子を連れ出す時のような力強さが同居していた。
「お父さん、僕も行きたい!」
「お母さん、私も! 何か面白いものあるかな?」
ライトとユミナが元気よく手を挙げ、それに続くようにマチルダたちも跳ね回る。
リッカが「じゃあ、私は夕飯の準備をしながら待っていますね。皆さん、気をつけて」と優しく見送ってくれた。
森へ踏み入ると、そこには雨に濡れて濃くなった緑の香りが立ち込めていた。
普段は威厳のあるランドグリズリーであるチャリオットだが、今は執事の格好のまま、軽やかな身のこなしで倒木や水たまりを避ける道を作ってくれる。
「女神様、あちらをご覧ください。昨日の雨で、珍しいキノコが顔を出しておりますよ」
チャリオットが指差した先には、丸くて可愛らしいキノコが群生していた。
俺の万能スキルで鑑定してみると、食用として最高級の「森の真珠」だ。
「おーっ、これはいい収穫だ。今夜のスープの具材にしよう」
「さすが女神様、お目が高い。……ライト様、ユミナ様、そちらの根元にも小さな芽が出ておりますよ」
チャリオットが子供たちに教える姿は、まさに頼れる執事であり、同時に良き師のようでもある。
俺はそんな彼の背中を見ながら、この世界で「親父」がそばにいてくれる心強さを改めて噛み締めていた。
森の奥から聞こえる小鳥のさえずりと、家族の笑い声。
雨がもたらした瑞々しい時間は、俺たちの心をさらに潤してくれた。




