493 執事の眼差しと、秘密の相談
ハーブティーで喉を潤し、リビングに穏やかな空気が流れる中、チャリオットが音もなく俺の背後に立った。その所作はどこまでも優雅だが、背後から感じる安心感は、かつての「親父」そのものだ。
「女神様、先ほどのトマトの苗ですが、あのような植え方でよろしかったでしょうか?」
チャリオットが低く、落ち着いた声で尋ねる。執事としての完璧な問いかけだが、その瞳の奥には「よくやったな」という父親らしい誇らしさが滲んでいるのを俺は見逃さなかった。
「ああ、ばっちりだ。チャリオットが事前に土を整えておいてくれたおかげだよ」
俺がそう答えると、彼は僅かに口角を上げ、満足げに頷いた。
「それは重畳。……ところで女神様、少しよろしいでしょうか」
チャリオットが声を潜め、俺にだけ聞こえるように囁いた。何事かと思えば、彼は視線をリビングの隅で遊ぶ子供たちへと向ける。
「実は、ライト様たちが最近、女神様に内緒で何かを計画されているようです。どうやら、次の休日に女神様を驚かせたいようでして」
「えっ、あいつらが?」
俺は思わず子供たちの方を見た。ライトとユミナが、マチルダたちと頭を突き合わせてコソコソと相談している。
親父……いや、チャリオットは、執事として家の中を完璧に管理しているからこそ、こうした小さな変化にも敏感だ。
「……気づかないふりをしておきましょう。それが、あの子たちの『おもてなし』というものですから」
チャリオットはそう言って、まるで見守る祖父のような、優しく深い笑みを浮かべた。
「そうだな。楽しみにしておくよ。教えてくれてありがとう、チャリオット」
「いえ。女神様の笑顔が、この家にとっての何よりの宝でございますから」
執事の仮面の下にある「親父」の温かさに触れ、俺は改めて、この賑やかで優しい家を、そして家族を守っていこうと強く思った。




