487 湯船の幸福と、湯上がりの贅沢な時間
浴室の扉を開けると、そこには真っ白な湯気が立ち込め、石鹸の清々しい香りが満ちていた。
「ふぅ……極楽だな……」
俺はゆっくりと湯船に身体を沈めた。
パネルで設定した42度のお湯が、日中の農作業で凝り固まった筋肉をじんわりと解きほぐしていく。
外は雨上がりの静寂が支配しているが、この場所だけは別世界のような温かさだ。
「お父さん、僕も入るよ!」
元気な声と共にライトがやってきて、続いてユミナも「お母さん、一緒に入ろう」とはにかみながら入ってきた。
マチルダ、アマンダ、リューも、水面にプカプカと浮かんだり、お湯を跳ねさせたりと、スライムの子供たちなりに風呂を楽しんでいる。
「パパりん、お湯ポカポカ!」
「トトさま、お肌がツルツルになりますね」
「父上、失礼して背中をお流ししましょうか?」
子供たちとの賑やかな入浴タイムは、一日の終わりの何よりの娯楽だ。
湯船から上がると、俺たちは脱衣所で身体を拭き、清潔な寝巻きに袖を通した。
リビングに戻ると、そこには風呂から上がったばかりのリッカが、しっとりと濡れた髪を拭きながら待っていた。
「麗人さん、お風呂上がり、気持ちよかったですね」
「ああ。やっぱり雨の日は風呂が一番のご馳走だよ」
チャリオットが、キンと冷えた麦茶を人数分用意してくれていた。
「皆様、お風呂上がりの水分補給をどうぞ」
「ありがとう、女神様」
冷たい麦茶が、火照った喉を心地よく通り過ぎていく。
ソファに深く腰掛け、リッカと肩を並べて一息つく。
ライトとユミナは絨毯の上で、マチルダたちと一緒に今日のおさらいをしているようだ。
「兄貴、明日は晴れるかな?」
エリクスが麦茶を飲み干しながら聞いてくる。
「ああ、俺が願った雨はもう十分だ。明日の朝には、きっと最高の朝日が見られるはずだよ」
暖炉の火が静かに爆ぜる音と、家族の穏やかな吐息。
特別なことは何もない。けれど、この風呂上がりの何気ない団らんこそが、俺がこの世界で手に入れた一番の宝物だった。




